「人治国家中国のリアル」第4章の内容紹介

中国生き残り最前線

中国法務に精通した法律家の重要性

 一般的に、国際取引を行うときには、取引相手国の法務を専門とする法律家のサポートを受けるのが通例となっています。アメリカ企業と取引をする場合、多くの日本企業はアメリカ法務に通じた法律事務所に取引案件に関する依頼をするはずです。同様に、中国でビジネス展開を検討する場合には、通常、中国法務を専門とする弁護士に相談することが考えられるでしょう。
しかし、現状は、欧米の法務に通じた弁護士に比べ、中国法務に精通した弁護士の数は圧倒的に不足しています。日本人はもちろん、中国人ですら、日本企業のニーズに十分に応えられるだけの経験と実績をもった弁護士は、多いとはいえません。
もっとも大きな原因の一つとして、中国において、法律家を養成するためのシステムが長期間、存在していなかったことが考えられます。
中国で日本の司法試験に相当する弁護士試験がスタートしたのは1986年です。第1回の弁護士試験から数えても、まだ二十数年の歳月しかたっていません。そのため、中国人の中でも、専門的な法教育を受け、なおかつ法律家として十分な経験を積んだ人材がまだまだ少ない状況なのです。
また、中国の法律が整備されたのは比較的最近のことであり、そのため個々の法規にはまだ解釈が固まっていない条文が数多く存在します。にもかかわらず、条文解釈の指針となる判例を公開するシステムが中国にはなく、中国の中央レベルの法律と地方レベルの法律にも矛盾が見られ、行政機関による法令の解釈は人によって、あるいは時期によって場所によって異なっています。中国の法律を巡るこうした状況により、法律の専門家でさえ法的な問題が生じた場合、どのような対応が適切か、予測するのが困難となっています。 
古くから続く法曹養成システムの欠如と、現在の法律を巡る混沌とした状況があいまって、中国の法律事情にくわしい、本当に頼りになる法律家は非常に限られているのが現状です。

中国法務では問題解決能力が求められる

 十分な能力を持たない弁護士に依頼すれば、中国ビジネスがスムーズにいかなくなるおそれがあります。弁護士選びは、中国ビジネスの成功のカギを握る重要なポイントです。そこで、弁護士選びの一つの判断基準として私が考える、中国法務を専門とする弁護士に求められる2つの能力をあげます。
1つ目は、複雑な中国の法律事情への対応能力です。法解釈が人によって、ときによって変わるという中国の法律事情に対応するために、法律本体はもちろん、政府の国家政策から裁判所の公表している司法解釈まで、広範囲にわたる法律関連の情報を短時間のうちに収集し、そのときどきで確実な法令の解釈、通達の解釈、実際の運用状況を調査する能力が必要です。
また、中国では法律を巡る状況が目まぐるしく変化することから、1年前、2年前に勉強したことが、そのまま現在も通用することはありません。常に新しい法律、新しい解釈、新しい政策を追いかけていなければなりません。もちろん、日本法でも常に新しい法律を勉強して、新しい判例を追いかけて自分の知識をアップデートしていく必要がありますが、中国法に関してはそのアップデートをより頻繁かつ、ドラスティックに行なう必要があります。
2つ目は、中国ビジネスの実情を踏まえた問題解決能力です。単に中国の法律を知っているだけでは中国に進出する日本企業のニーズに適切に応じることはできません。すなわち、「法律上はこうなっています」とただ調査結果を教えるだけであったり、法律にしたがって粛々と裁判を進めたりするだけでは、サポートとして不十分です。中国には、人治国家であることや契約がまず守られないなど、他国にはない特殊な文化があります。何らかのトラブルに対応する必要性が生じた場合、そうした問題の特殊性を踏まえたもっとも効果的な対策をとらなければ、時間と費用がいたずらに費やされることになりかねません。
模倣品対策一つとっても、民事裁判で解決する方法、刑事告訴する方法、あるいは行政機関を使って解決する方法もあります。さらに行政機関を使う場合でも、工商行政管理局による解決もあれば、日本の特許庁にあたる知識産権局による解決、税関での輸出の差止めという方法も考えられます。中国法務を専門とする弁護士には、これらの方法の中から、どのような手段を選ぶことが依頼者にとって時間も費用もかからず、もっとも合理的なのかを判断する問題解決能力が求められるのです。