第65回 外資企業の輸出入業務への参入手続(対外貿易事業者の届出登記制廃止の影響)
概要
2022年12月30日に「対外貿易法」が改正され、対外貿易事業者の届出登記制が廃止されました。しかし、届出登記制が廃止されても、輸出入業務の商品、業種等に基づく参入条件及び手続には実質的な影響は生じていません。本稿では、海産物の輸入業務を例に、届出登記制の廃止後に実施すべき手続等を紹介します。
1.はじめに
2022年12月30日に、第13期全国人民代表大会常務委員会第38回会議において、「対外貿易法」の第9条を削除するとの改正が決定1され、同日より施行されました。この削除された第9条が、対外貿易事業者の届出登記についての規定です。これにより、対外貿易経営権の管理において19年にわたって採用されてきた届出登記制が終了し、今後は輸出入業務を行うにあたり対外貿易事業者の届出登記を行う必要がなくなりました。
今回の改正について、商務部の担当官は記者会見において、「対外貿易経営管理分野の改革における重大な施策であり、貿易の自由化・利便化を推進するという中国政府の確固たる意思を示す重要な制度的イノベーションである」、「ビジネス環境をさらに最適化し、対外貿易の潜在成長力を放出し、質の高い貿易の発展及びハイレベルな対外開放を推進していく上で有利となる」との発言をしています2。
もっとも、実務では、外資企業が輸出入業務を行う場合、依然として、輸出入業務の商品、業種等に基づいて参入条件及び手続を細かく確認する必要があります。届出登記制が廃止されても、これらの条件及び手続には実質的な影響が生じないためです。このため、本稿では、水産物の輸入業務への参入を例に、届出登記制の廃止後も参入にあたり実施すべき手続等を紹介します。
2.外資企業による海産物の輸入業務への参入のための条件及び手続
例えば、中国で設立された外資企業が日本から海産物を輸入して中国国内で販売しようとしたとき、一般輸出入貿易方式3による場合は、(1)日本の生産業者、輸出業者、(2)当該外資企業(中国の輸入販売業者)、(3)具体的な製品のそれぞれについての参入条件及び手続を確認する必要があります。
(1)日本の生産業者、輸出業者の参入条件及び手続
「食品安全法」4第96条、「輸出入食品安全管理弁法」5第18条及び「輸入食品国外生産企業登録管理規定」6に基づき、中国国内に食品を輸出する国外の生産、加工、貯蔵企業は中国税関総署に登録を申請しなければなりません。このうち、水産物については「輸入食品国外生産企業登録管理規定」第7条の規定に基づき、所在国(地域)の主管当局が中国税関総署に対して登録を推薦しなければならないものに該当します。この場合には所在国(地域)の主管当局の推薦書を取得する必要があります。したがって、日本の水産物を中国に輸出する場合には、その前に、農林水産省から推薦書を取得する必要があります。具体的な手続については農林水産省の関連ウェブサイト7を参照することができます。
また、国外の生産業者を除き、「輸出入食品安全管理弁法」第19条の規定に基づき、中国に食品を輸出する国外の輸出業者又は代理業者も中国税関総署に届出を行う必要があります。
(2)中国の輸入販売業者の参入条件及び手続
従前であれば、海外から物品を輸入する事業者は、対外貿易事業者の届出登記を行う必要がありましたが、今般の「対外貿易法」の改正によって不要となりました。
一方で、その他の参入条件及び手続は「対外貿易法」の改正後も大きな変更はありません。具体的には以下のとおりです。
まず、「輸出入食品安全管理弁法」第19条の規定に基づき、中国国内の食品輸入販売業者も中国税関総署に届出を行う必要があります。また、食品の輸入販売業者としての届出等以外に、中国国内で食品を販売する中国の法人として、以下の内容に基づいて相応の手続を行わなければならないことにも注意する必要があります。
1)会社自身の経営範囲のチェック
自社の経営範囲に「食品の輸出入」、「食品・農産物の卸売」、「食品の販売」等の項目が含まれていない場合は、「市場主体登記管理条例」8第26条に基づいて経営範囲を変更するための登記手続を行わなければなりません。
2)食品経営許可の申請
中国国内における食品の流通に参入するための「食品経営許可管理弁法」9に基づく食品経営許可を申請する必要があります。
3)輸出入貨物荷受人及び発送人の届出
対外貿易事業者の届出登記は不要になりますが、「税関通関機構届出管理規定」10第4条に基づく輸出入貨物の荷受人、又は発送人として税関への届出を行う必要があります。
(3)具体的な製品の参入条件及び手続
まず、輸入食品自体について、「輸出入食品安全管理弁法」第10条の規定に基づき、評価及び審査が行われます。これについては中国税関総署輸出入食品安全局ウェブサイトにおいて、食品の輸入の可否及び輸入条件の有無を具体的に検索することができます。現在、「評価審査要求に適合する及び伝統的な取引関係を有する国又は地域から中国に輸出される食品の目録」11には水産物、乳製品、植物性食品等の製品が含まれており、当該目録に記載された製品は輸入できます。中国税関総署は評価及び審査の結果に基づいて、定期的に目録の調整を行っています。
また、水産物等の動植物製品に関係する場合には、関係する製品に基づいて「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」の附属書12に掲げられた規制対象であるか否かにも別途注意する必要があります。水産物が上記条約の附属書にリストアップされている場合、又は附属書にリストアップされていないものの中国国内の「国家重点保護野生動物目録」13に同名のものがある場合、「水生野生動物経営利用許可」を取得する必要があります。
さらに、日本から中国に輸出される水産物については、「日本から中国に輸出される食品・農産物の検査検疫措置を調整することについての通知」14、及び「日本からの輸入食品・農産物に対する検査検疫監督管理をさらに強化することについての公告」15に基づき、以下の内容に特に注意する必要があります。
1)福島、群馬等10都県16の水産物については依然として輸入できないものに該当する。
2)日本のその他の地域で生産された食品、食用農産物及び飼料の輸入については、検査申請時に、日本政府が発行した放射性物質検査証明書、原産地証明書を提供しなければならない。各地の検査検疫機構は輸入される食品、食用農産物及び飼料について放射性物質の検査測定を行い、合格した後はじめて輸入することができ、不合格の場合は規定に従って公表しなければならない。
3)日本から水産物(生、又は冷蔵・冷凍のマス等の水産物)を輸入する場合、事前に検疫審査許可手続を行わなければならない。この際、「入国動植物検疫許可証」の申請書には次のような情報を明記する。
・「産地」の欄に水産物原料養殖地域所在県の名称、又は漁労エリア及びその国際連合食糧農業機関(FAO)の農林漁区番号
・「輸送経路」の欄に加工工場の所在地及び製品の輸送ルート
・日本国内を輸送するときは経由県名
・海上輸送されるときは積出港
なお、日本国内における手続に関係する部分については、農林水産省の関連ウェブサイト17の内容を参考にすることができます。
3.終わりに
外資企業が水産物の輸入業務に参入する場合を例として簡単に紹介しました。上記の内容から、対外貿易事業者の届出登記制の廃止は確かに一定の手続の簡素化につながっているものの、依然として、輸出入業務の商品、業種等に基づいて参入条件、及び手続を確認する必要があると思います。もっとも、冒頭で言及した商務部担当官の発言にもあるとおり、今回の改正は、「貿易の自由化・利便化を推進するという中国政府の確固たる意思を示す重要な制度的イノベーション」の一環であるとも考えられます。今後、さらなる自由化・利便化がなされるか、その動向が注目されます。
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1:中華人民共和国主席令第128号、2022年12月30日公布、同日施行。
2:http://www.gov.cn/xinwen/2023-01/07/content_5735403.htm
3:中国国内の輸出入取扱権を有する企業が一方向の貿易(輸入のみ又は輸出のみ)を行う貿易モデルを指します(「渉外収支取引分類とコード(2014版)」参照)。貨物は販売に用いられ、関税、輸入段階の増値税、消費税が徴収されます。
4:中華人民共和国主席令第81号、2021年4月29日公布、同日施行。
5:税関総署令第249号、2021年4月12日公布、2022年1月1日施行。
6:税関総署令第248号、2021年4月12日公布、2022年1月1日施行。
7:https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/kigyoutouroku2.html
8:中華人民共和国国務院令第746号、2021年7月27日公布、2022年3月1日施行。
9:中華人民共和国税関総署令第253号、2021年11月19日公布、2022年1月1日施行。
10:中華人民共和国国家食品医薬品監督管理総局令第37号、2017年11月17日公布、同日施行。
11:http://43.248.49.223/index.aspx
12:最新の附属書の中文版:絶滅のおそれのある野生動植物輸出入管理事務室2010年第2号公告。2010年7月15日公布、同日施行。
13:中華人民共和国国家林業局令第7号、2003年2月21日公布、同日施行。
14:国質検食函[2011]411号、2011年6月13日公布、同日施行。
15:国家品質監督検査検疫総局公告2011年第44号、2011年4月8日公布、同日施行。
16:福島県、群馬県、茨城県、栃木県、宮城県、新潟県、長野県、埼玉県、東京都及び千葉県。
17:https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_faq/fishers/answer02.html
(2023年4月17日作成)
*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。
*本稿は、三菱UFJ銀行会員制情報サイト「MUFG BizBuddy」(2023年4月掲載)からの転載です。