第88回 出張中に感染症にかかり死亡した場合、労災に該当するか
【事例】
甲社は、その従業員Aをアフリカの某国へ出張に派遣した。Aは帰国後まもなく風邪のような症状を示し、病院へ搬送され、翌日に悪性マラリア原虫によるマラリアと診断された。その後、何度も入院治療を受けたが、治療の甲斐なく死亡した。
Aの入院中、甲社は現地の人的資源社会保障局(以下「人社局」という)に対し、労災認定の申請を行った。人社局は甲社に対し、職業病に関する資料の追加提出を求めた。甲社は「マラリアは伝染病であり、職業病には該当しない」として、職業病に関する資料を提出できない旨を説明した。人社局はこれに基づき、Aの状況は「労災保険条例」第14条、第15条に規定される労災又は労災とみなす状況に該当しないとして、「不支給決定書」を出した。
甲社はこれを不服として行政訴訟を提起した。第一審の裁判所は不支給決定を取り消し、人社局に対し再決定を命じる判決を下した。人社局は控訴したが、第二審の裁判所は控訴を棄却し、原判決を維持した。[1]
【分析】
「労災保険条例」第14条第5号では、「従業員が業務上外出した期間中に、業務上の理由により傷害を受け、又は事故に遭い行方不明となった場合」、労災に認定すべき旨を規定している。本件の争点は、Aが出張先のアフリカでマラリアに感染したことが「業務上の理由による傷害」に該当するか否かである。従来、「傷害」とは、交通事故や暴力行為など、外力が直接的に引き起こす身体損傷を指すことが多かった。しかし、社会の発展や職業リスクの形態の多様化に伴い、労働環境に起因する疾病や感染症も「傷害」の合理的な範囲に含めるべきと考える。本件において、Aはマラリア流行地域に派遣され、蚊に刺されたことでマラリアに感染した。このリスクは、特定の労働環境に固有の、予見可能な職業上のリスクである。マラリア感染は、個人的な生活や休暇行動に起因するものではなく、出張という業務の遂行と直接の因果関係がある。そして、労災保険制度の根本的な目的は、職業上のリスクを分散し、業務上の傷害を受けた労働者とその家族を保護することにある。経済のグローバル化と人の越境移動の頻繁化に伴い、労働者が直面する職業リスクの形態はますます多様化している。したがって、本件を「業務上の理由による傷害」と認定することは、労働者を保護するという「労災保険条例」の立法目的に合致すると考える。
本件において、第一審の裁判所は次のように判断した。「マラリアは伝染病であり、職業病の範囲には属さない。人社局が職業病の診断書の提出を求めたのは、誤った指示である。中国は2021年までにマラリア根絶の目標を達成しており、マラリアは主にアフリカや東南アジアで流行している。Aが派遣されたアフリカの某国はマラリアの流行地域であり、Aがマラリアに感染した時期はその出張期間中であると基本的に推定できる。Aは労働環境によりマラリアに感染し、帰国後に発症して死亡した。その状況は『労災保険条例』第14条第5号の『業務上外出した期間中に、業務上の理由により傷害を受けた場合』に該当し、労災と認定されるべきである」。第二審の裁判所はさらに明確に次のように述べた。「マラリアの主な感染経路は蚊に刺されることであり、感染から発症までには潜伏期間がある。人社局は、当該地域に土着の症例が存在することや、国内感染の可能性があることを証明する証拠を提出しなかった。一方、Aの派遣先はマラリア流行地域であったため、Aが勤務期間中に感染したと推定できる。当該感染は特定の労働環境によって生じたものであり、業務上の理由による傷害に該当し、『労災保険条例』第14条第5号に適合する。人社局の認定は主要な証拠が不十分であり、法律の適用を誤り、さらに手続上の違法があった。一審判決が取り消しと再決定を命じたことは妥当である」。
本件において、裁判所は「労災保険条例」第14条第5号を正しく解釈し、業務上の理由で流行地域に渡航した際のマラリア感染を労災と認定した。これは労働者を優遇的に保護する原則を体現するとともに、現実の要請に応えたものであると考える。
【本件を踏まえた実務上の示唆】
本件において、甲社が速やかに労災認定を申請し、積極的に立証を行うことで、従業員の権益を擁護したことは評価に値する。しかし、グローバルな交流の頻繁化に伴い、使用者はこのようなリスクに先んじて備えるべきであるとも考える。すなわち、従業員を伝染病流行地域や高リスク地域に派遣する前に、健康リスクについて十分な周知を行い、必要な防護用品や医薬品を提供し、対応する商業保険に加入させ、渡航の前後で健康診断を手配するなどが考えられる。これらの措置は、従業員の生命・健康に対する責任を果たすものであると同時に、紛争が発生した場合に、より十分な証拠(出入国記録、海外滞在中の行動記録、防護措置の証明など)を提供することにもつながると考える。
[1] (2026)湘09行終5号
以上
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