第97回 清算所得は中国から自由に持ち出せるか?―「外商投資法」施行後における日本企業の「越境送金」の勝訴事例
はじめに
中国に進出した外国投資者にとって、撤退・清算の最後に「清算後の残余財産を円滑に国外へ送金できるか」は、進出時からの大きな懸念事項です。外貨管理の厳しい中国においては、「投資の始末」に不透明感があるのではないかと指摘されたこともあります。
2020年に「外商投資法」が施行されてから、2021年に、上海市浦東新区人民法院が「外商投資法」および「民法典」を適用し、日本企業による清算所得の外国送金請求を全面的に支持する判決を下しました。外国投資者の投資収益・清算所得の自由な送金を裁判所が認めた事例として、実務上の示唆に富む事案を一件ご紹介します。
事例の概要―――合弁会社は清算完了、しかし銀行が送金を拒否
2006年、日本企業のA社(以下「A社」)は、中国企業2社との合弁により上海で合弁会社(以下「合弁会社」)を設立し、その40%の持分を保有し、2度の持分譲渡を経て、最終的な株主はA社と中国のB社の2社となりました。その後、営業期間の満了により事業を継続しないこととなり、2017年に合弁会社は法に基づき清算・抹消登記を完了しました。
残余財産の分配案に基づき、両株主は出資比率と出資通貨に応じて残余財産を分配することになり、その大部分は合弁会社の銀行口座に残っていました。B社は分配案どおり清算財産を速やかに取得しましたが、A社に分配されるはずの預金は、いつまで経っても送金されませんでした。銀行は、抹消前の合弁会社が要求される証憑類を提供していないこと、A社が権利者であることを証明する資料を提出できないことを理由に、支払いを拒否し、国外口座への直接送金も認めなかったのです。A社はやむなく、当該銀行を相手取り提訴しました。
裁判においては、主に下記の3点が争点となりました。
1、合弁会社名義の預金の支払請求権について
裁判所は、
①合弁会社は銀行と預金契約関係にあり、預金元利金の支払いを請求する債権を有していたこと
②合弁会社は清算を完了し法に基づき抹消されており、株主は残余財産分配案に基づき関連する権益を取得できること
③清算委員会の説明書および会計士事務所の清算監査報告書のいずれにも係争預金の帰属はA社と明記されており、両株主もこれを認めていること
から、A社に支払請求権があると認定しました。
2、原通貨による国外口座への直接送金の可否について
裁判所は、合弁会社は外商投資企業であり、A社は株主として法に基づき清算分配所得を受けるとした上で、「外商投資法」第21条に基づき、外国投資者は投資収益である清算所得を国内・国外のいずれへも自由に移転でき、「人民元または外貨により自由に送金できる」と判断しました。したがって、人民元資産・米ドル資産を原通貨のまま日方のA社の国外口座へ直接支払うよう求める請求は、法的根拠を有するとして支持されました。
3、合弁会社の銀行口座の閉鎖の可否について
合弁会社は営業期間満了後に清算・抹消登記を完了し、民事上の権利能力・行為能力を喪失しており、もう一方の株主も異議を唱えていないことから、口座閉鎖の請求も認められました。
以上により、裁判所はA社のすべての請求を支持する判決を下しました。
実務上の示唆
本事例を参考にしますと、日本企業が中国から撤退・清算する際には、下記のポイントに注意しなければならないと考えます。
第一に、清算分配案、清算委員会の説明書、監査報告書など、残余財産の帰属を明確に示す書類を完備しておくことが不可欠です。本件ではこれらの書類が権利帰属の立証において決定的な役割を果たしました。
第二に、銀行が外貨管理を理由に送金を拒否しても、「外商投資法」に明確な法的根拠がある以上、司法による救済が期待できるということです。
以上
*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。
