第89回 フィリピンに駐在員事務所を設立するステップ

皆さん、こんにちは。Poblacionです。以前のコラム(第25回及び第28回)で、フィリピンにおいて子会社又は支店を設立する際のステップについて、それぞれお話しました。今回は、フィリピンにおける別の投資形態である、駐在員事務所についてお話しましょう。

そもそも、駐在員事務所とは何でしょうか?駐在員事務所とは、外国企業がフィリピン国内に設立することを許可されている事業所の一形態です。子会社や支店の場合とは異なり、駐在員事務所は、限定された活動のみをフィリピン国内で行なうことが認められています。たとえば、本国の親会社のための連絡業務や、会社の製品に関する情報を広めることや、製品の販売促進及び品質管理等です。駐在員事務所は、フィリピン国内で所得を発生させることは認められていないため、所得税は免除されています。また、駐在員事務所には、親会社が100%出資します。法律に基づき、親会社には、年間3万米ドル以上を駐在員事務所の運転資金として拠出する義務があります。

では、どうやってフィリピンに駐在員事務所を設立したらよいのでしょうか?その手順及び要件は、支店設立の場合と同様ですが、若干簡素化されています。具体的なステップは、以下のとおりです。

ステップ1駐在員事務所名称の確保
申請人はまず、駐在員事務所が使用を予定している名称を確保しなければなりません。名称が確保できると、証券取引委員会(SEC)から名称確認書が発行されます。名称の確保にかかる費用は少額です。

ステップ2申請書の記入
申請人の授権代表者は、SEC書式F-104(外国企業によるフィリピン国内駐在員事務所設立申請書)に必要事項を記入する必要があります。書式は、こちらから入手できます。

ステップ 3:必要書類の作成
適式に記入されたSEC書式F-104の他に、申請人には、下記の裏付書類の作成も必要です。

①取締役会決議
(a)フィリピン国内における駐在員事務所設立を承認し、(b)本国の企業に代わり法的書面の送達を受ける居住者代理人を指名し、かつ (c) 居住者代理人が不在の場合、又はフィリピンでの営業を停止した場合、法的書面の一切をSECに送達してよいことを定める決議

②定款
本国企業の定款(英語以外の言語の場合、英訳を添付する)

③財務諸表
本国の公認会計士による監査済みの前年度財務諸表(本国の法律により財務諸表の認証が要求されない場合、申請人は、その旨の証明書も提出し、その根拠となる法律又は規則を当該証明書に記載しなければならない)

フィリピン以外で作成された書面は全て、その作成地におけるフィリピン大使館又は総領事館による公証を受けたものでなければならない。

ステップ4財務比率の遵守
駐在員事務所が満たすべき財務比率は、支店の場合に比べて単純です。具体的には、下記の総負債比率を満たすことが要求されています。

比率

計算式

基準値

総負債比率

総資産÷総負債

1:1

ステップ5外国送金証明の確保
駐在員事務所の最低資本金額は3万米ドルであり、この金額は、親会社からフィリピンに外国送金されなければなりません。申請人は、かかる送金の証明書(通常、資金の送金を行った現地の銀行が発行する外国送金証明書)の提出を要求されます。

ステップ6:居住者代理人の受任の確証
居住者代理人が申請書の署名者でない場合には、居住者代理人による受任証明書の提出が必要です。支店の場合と同様に、駐在員事務所の居住者代理人を務めることができるのは、(a) フィリピンに居住し、善き性格と健全な財務状態を備えた個人、又は (b) フィリピンで事業活動をしている内国企業になります。

ステップ7特別要件の充足
駐在員事務所が、規制対象や、特別な登録を必要とするその他の活動を行なう場合、管轄の規制当局の承認を得る必要があります。たとえば、駐在員事務所が経済特区内に設立される場合には、フィリピン経済特区庁の承認を取得する必要があります。

ステップ8事前承認
SECに書面を提出し、事前に承認を受けます。書面に不備又は大きな誤りがあった場合には、不備の補完や誤りの是正がSEC職員から求められます。

ステップ9:申請料の支払い
書類が整うと、申請料の支払いが必要になります。申請料として、外国送金額の1%の10分の1に相当する金額(ただし、2,000ペソを最低額とする)に、少額の法的調査費用が上乗せされます。

ステップ10:実体審査後、許可書の発行
その後書面はSECに提出され、実体審査が行われます。書面が適切であれば、SECからフィリピンにおける事業許可書が発行されます。

なお、上述のSECにおける基本的な登録手続以外にも、手続き完了後の営業許可証の取得や内国歳入庁への登録等が必要になりますのでご留意ください。

駐在員事務所のメリットとして、他の投資形態に比べて手続きが比較的簡素化されていることや、所得税が免除されることが挙げられます。一方で、駐在員事務所には、フィリピンにおいて限定的な活動しか認められないというデメリットもあります。従いまして、もしフィリピンでより広範に活動し、フィリピン国内で所得を発生させたい場合には、他の投資形態(子会社や支店等)の設立の方が、適切にニーズに応えるものとなるでしょう。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。