第5回 人員削減(リストラ)(5)~広義の人員削減とその選択~

Q: 上海市所在の独資企業X社は、生産型企業として、自社工場で製品を製造し販売してきましたが、一向に利益が上がらないため、解散(閉鎖)する方針です。もっとも、一部の取引先との間において、半年先までの製品の供給責任があるため、同時期を待って解散する予定です。上記を踏まえて、従業員の処理を行う必要がありますが、法定の人員削減手続に従って処理を行わなければならないのでしょうか?

A:X社は、法定の人員削減手続以外の方法で処理を行うことも可能です。

仮にX社が全従業員を一斉に解雇する希望を有する場合には、供給責任が終了する半年後に企業の解散に伴う人員削減を実施することが考えられます。また、仮にX社が製品の供給責任を果たせる限度でのみ一部の従業員を存続させ、他の従業員の削減を先行して実施する希望を有する場合には、先に法定の人員削減又は従業員との合意に基づく人員削減を実施し、その後に解散に伴う人員削減を実施することも考えられます。

解説

1 広義の人員削減の種類とその選択
(1) 広義の人員削減の種類

人員削減は、労働契約法(以下「本法」といいます)上では、本法第41条で規定する要件及び手続に従った使用者側からの労働契約の解除を意味します。

もっとも、企業においては、上記の要件を満たさないものの、経営判断により規模の大きな人員の整理・削減のニーズが生じる場合もありますし、今回のX社のように企業の解散に伴って必然的に全従業員との労働契約を終了させざるをえないこともあります。これらを広義の意味での人員削減に含めると、広義の人員削減の種類としては以下のものが考えられます。

① 本法第41条に基づく人員削減(以下「法定人員削減」といいます)
② 従業員との合意に基づく人員削減(以下「合意人員削減」といいます)
③ 企業の解散に伴う人員削減(以下「解散人員削減」といいます)

(2) それぞれの特徴

ア 法定人員削減
 法定人員削減については、これまで4回にわたり取り上げてきたとおりです。改めて簡単にまとめると、まず、法定の要件(ⅰ人員削減の法定事由を満たすこと、ⅱ人数が一定規模であること)を満たさなければならず、また法定の手続(ⅰ30日前までに労働組合又は全従業員に対して状況を説明し、労働組合又は従業員の意見を聴取する、ⅱ人員削減計画を労働行政部門に届出る)を踏まなければなりません。さらに、人員削減の対象とできない者や優先的に雇用を継続すべき者などの対象者の選別に関しても法定されています。このように、全てが法定されており、融通が利きにくいといえます。

他方で、法定人員削減の場合、法定の要件、手続及び対象者の選別に関する事項等の規定を遵守すれば、従業員の同意を得ることなく、使用者側が一方的に人員削減を実施できます

イ 合意人員削減
 合意人員削減は、実際には希望退職制度や早期退職制度等として実施されます。

当該人員削減は、従業員と合意できれば実施可能であり、法定人員削減におけるような法定の要件、手続、及び対象者の選別に関する法律上の規制はありません

 他方で、従業員との合意に基づかなければ実施できない点が難点といえ、従業員からの合意を得る過程で従業員と交渉、駆け引きを行わなければなりません。その際、経済補償金の金額について、法定金額に上乗せをするか、どの程度上乗せをするかが主な争点となります。

ウ 解散人員削減
 解散人員削減は、労働契約の終了を規定する本法第44条をその根拠とします。

解散人員削減については、法定の要件として企業が解散を決定することが必要であるものの、本法第41条の法定の要件と比較すると単純明快な要件といえます。また、労働契約の終了にあたっては、法定人員削減で要求される手続及び対象者の選別に関する法律上の規制はありません。さらに、法定の要件を満たせば、従業員の同意を得ることなく実施できます
 他方で、解散人員削減は、企業の解散を前提とするため、経営を継続したい企業においては実施できません
解散人員削減においても、経済補償金の支払いが必要です(本法第46条第6号)。

なお、当該解散人員削減については、企業自体が解散してしまうため、企業の経営継続が前提である他の人員削減とは異なり、実施にあたっての考慮要素は少ないようにも思えます。しかし、企業が解散せざるをえなくなった場合であっても、X社のように生産型企業では解散直前まで顧客への供給責任があることも多く、従業員による想定外の勤務停止、怠業等を回避する必要があります。また、これは他の人員削減でも同様ですが、従業員との間に紛糾が生じた場合、出資する親会社にレピュテーションリスクが生じたり、親会社からの出向人員の身に危険が及んだりすることもありえます。このため、解散人員削減についても慎重に実施する必要があります。例えば、法律上は要求されていないものの、法定人員削減で要求される手続と類似の手続を行ったり、経済補償金の法定金額に多少の上乗せを行ったりすることで、従業員の不満の解消を図ることや所在地の労働当局からの理解を得ておくことを検討すべきです。

エ まとめ

上記ア~ウの内容を簡単に表にまとめると以下のとおりとなります。

 

法定人員削減

合意人員削減

解散人員削減

法定の要件、手続、及び対象者の選別に関する法律上の規制

あり

なし
(地方によっては地方法規に基づく手続規制あり)

一部あり
(法定の要件のみ)

従業員の同意

不要

必要

不要

経営継続

不可

経済補償金の支払い

必要

必要

必要

 

(3) 種類選択のポイント

 第一のポイントは、経営継続の有無です。経営継続をしたいようであれば、解散人員削減はできません。他方で、企業を解散する方針を有する場合には、解散人員削減の実施が可能です。

第二のポイントは、法定の要件の充足の有無です。法定人員削減では、法定の要件がありますので、これを満たさない限り実施できません。このため、当該要件の充足が確実でない限り、合意人員削減の実施を候補とする必要があります。

第三のポイントは、人員削減の対象予定者の特性及びその多寡です。法定人員削減では、対象者の選別に関する法律上の規制があります。このため、対象者の選別に関する規制に該当する者が多く存在する場合には、合意人員削減の実施を候補とする必要があります。

第四のポイントは、費消可能なコストの多寡です。従業員との合意が不要な人員削減についても、法定金額に上乗せをした経済補償金を支払うケースがありますが、合意人員削減では、従業員との合意を得るために、一般的により多くの上乗せを行う必要があります。このため、当該上乗せ分のコストを踏まえてその実施を検討する必要があります。

2 本件
 X社についても、上記種類選択のポイントに沿って検討をしてみると、第一のポイントである経営継続の有無に関して、X社は、解散する方針を有しており、製品の供給責任が終了する半年後の経営継続は不要ですので、解散人員削減を選択することが可能です。

▶一斉解雇を行う場合
 その上で、まず、仮にX社が全従業員を一斉に解雇する希望を有する場合には、半年後に解散人員削減を実施することが考えられ   ます。この場合、法定人員削減で要求されるような手続は不要ですが、上述のとおり、仮に解散人員削減を実施する場合であっても、法定人員削減で要求される手続と類似の手続を行ったり、経済補償金の法定金額に多少の上乗せを行ったりすることも考慮に値します。

▶一部の従業員の削減を先行して行う場合
 次に、仮にX社が製品の供給責任を果たせる限度でのみ一部の従業員を存続させ、他の従業員の削減を先行して実施する希望を有する場合には、先に法定人員削減又は合意人員削減を実施することが考えられます。そこで、第二のポイントである法定の要件の充足の有無を検討すると、X社は、解散の方針を有するに至るほど利益が上がっておりませんので、法定人員削減の法定の要件[12]を満たす可能性も十分にあると考えられます。このため、第三のポイント(人員削減の対象予定者の特性及びその多寡)、及び第四のポイント(費消可能なコストの多寡)によって、法定人員削減又は合意人員削減のいずれを実施するかを決定することになると考えられます。但し、このように一部の従業員の削減を先行して行う場合、先行して削減される従業員、及び存続する従業員のいずれにも削減の先後による不満が生じないように注意しなければなりません。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第753号)に寄稿した記事です。