第21回 使用者からの労働契約の解除(14)~労働契約の解除不可事由4~

Q:上海市所在の独資企業X社(従業員300人規模)は、生産型企業として、自社工場で製品を製造し販売してきました。しかし、昨年から業績が急激に悪化しているため、一部生産ラインの廃止、及びこれに伴う整理解雇を実施予定です。 整理解雇の対象候補者の選定を行っていたところ、従業員A及びBがその候補に上がりました。もっとも、Aからは、自身が現在妊娠している旨(産休取得前)、Bからは、産休が明けて既に職場に復帰しているものの出産からまだ10か月しか経過していない旨の申し出がありました。
日本では、産休期間(原則産後8週間まで)とその後30日間は、整理解雇の対象とできないこととされていますが、中国では、A及びBについて整理解雇の対象者とできるでしょうか?

A:X社は、A及びBの申し出が真実である限り、A及びBについて整理解雇の対象者にすることはできないと考えます。

解説

1 労働契約の解除不可事由について
(1)各解除不可事由
 労働契約法(以下「本法」といいます)第42条は、使用者からの労働契約の解除のうち、即時解除(本法第39条)を除く、予告解除(本法第40条)及び整理解雇(本法第41条)に関し、たとえ労働者に法定の労働契約解除事由が存在したとしても、以下のいずれかの事由が存在する場合には労働契約を解除してはならないと規定しています。

➀職業病の危害に触れる業務に従事した労働者に離職前職業健康診断を行わず、又は職業病が疑われる病人で診断中もしくは医学観察期間にある場合
②当該使用者において職業病を患い、又は労災により負傷し、かつ労働能力の喪失もしくは一部喪失が確認された場合
③病を患い、又は業務外の理由で負傷し、規定の医療期間内にある場合
女性従業員が妊娠、出産、授乳期間にある場合
➄当該使用者の下において勤続満15年以上で、かつ法定の定年退職年齢まで残り5年未満である場合
⑥法律、行政法規に規定するその他の場合

 本件では、A及びBについて、上記④の「女性従業員が妊娠、出産、授乳期間にある場合」(以下「解除不可事由④」といいます)に該当するかが問題となりますので、当該事由について説明致します。

(2)妊娠、出産、授乳期間(以下「三期」といいます)の始期及び終期について
 解除不可事由④に該当するかは、女性従業員が三期の期間内であるか否かが問題となります。このため、以下では、三期の始期及び終期について見ていきます。

ア 三期の始期について
 まず、三期の始期は、従業員の「妊娠期間」の開始時点ということになります。
もっとも、本法及び労働法のほか、母子保健法及びその実施弁法、人口及び計画出産法、女性権益保障法、女性労働者労働保護特別規定等の関連法令では「妊娠期間」について直接規定していません。

 この点については、「妊娠」との文言からすれば、医学的に「妊娠」をしたと認められる時点、すなわち医師によって「妊娠」したと判断された時点をもって、「妊娠期間」の開始時点、ひいては三期の始期であると解釈することでよいと思われます。実際の裁判例においても、「診察記録」や「疾病証明書」等の医師発行の証書によって、「妊娠」の有無の証明が行われています。なお、「妊娠期間」に該当するか否かとの点については、労働者が、産休前であるか、産休中であるかによって区別されていません。

イ 三期の終期について
 次に、三期の終期については、「授乳期間」が終了した時ということになります。
 この点については、まず、女性労働者保護特別規定第9条第1項が、「使用者は、1歳未満の乳児に授乳中の女性従業員に時間外労働又は深夜労働をさせてはならない」とした上で、同条第2項で、「使用者は、授乳期間中の女性労働者に対して、毎日、労働時間内において1時間の授乳時間を与えなければならない・・・」と規定しており、第1項を受けた第2項で「授乳期間」という文言を用いていることから、第2項でいう「授乳期間」とは、1歳未満の乳児に授乳をしている期間であると考えることができます。

 また、地方の規定である「『上海市女性労働者労働保護規則』における関連問題に関する上海市労働局の解釈」第5条では、「・・・女性労働者が妊娠6か月以上(7か月を含む)及び授乳期間(乳児が1歳未満)である場合、当該女性労働者を夜勤労働に従事させてはならない・・・」と規定しており、「授乳期間」とは「乳児が1歳未満」であることを指すことを明確にしています。

 以上のことから、三期の終期である「授乳期間」の終了した時とは、出産した女性労働者の子供が1歳に達した時であると考えることができます。

2 本件
 まず、本件のAについては、現在妊娠しているとのことであるため、産休前であるか産休中であるかにかかわらず、解除不可事由④の三期の期間中であるといえます。なお、ここで注意すべきなのは、Aの申し出が真実であるか否かを、十分に確認することです。中国では、「診察記録」や「疾病証明書」等が偽造されることもありますので、場合によっては、発行主体となっている病院、医師等に従業員から提出された書面の真偽を確認することも重要です。

 次に、本件のBについても、産休が明けて既に職場に復帰しているとはいうものの、まだ出産から10か月しか経過しておらず、「授乳期間」(乳児が1歳未満)にあります。このため、解除不可事由④の三期の期間中であるといえます。なお、Bについても、念のため、「診察記録」や「出産証明書」等を提出させることで、出産の有無や出産日等について確認する必要があります。

以上のことから、X社は、A及びBの申し出が真実である限り、A及びBについて整理解雇の対象者にすることはできないと考えます


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第777号)に寄稿した記事です。