第26回 労働契約の終了事由(3)~使用者に対する破産宣告~

Q:上海市所在の独資企業X社は、業績が悪化し、債務超過の状態に陥っていることから、破産申立を行うことを検討しています。X社が破産申立を行った場合、従業員との労働関係はどのように処理されるでしょうか?

A:X社が破産申立を行い、裁判所から破産宣告を受けた日に従業員との労働関係は終了します。また、X社が従業員に対して支払うべき未払賃金、経済補償金等は、他の一般的な債務よりも優先的に弁済されることになります。

解説

1 労働契約の終了について
(1)労働契約の終了事由
 労働契約法(以下「本法」といいます)第44条は、労働契約が終了する場合について以下のとおり規定しています。

 ①労働契約の期間が満了した場合
 ②労働者が法に従い基本養老保険給付を受け始めた場合
 ③労働者が死亡し、又は人民法院から死亡を宣告され、もしくは失踪を宣告された場合
 ④使用者が法に従い破産宣告を受けた場合
 ➄使用者が営業許可証を取り消され、廃業もしくは取消を命じられ、又は使用者が繰上解散を決定した場合
 ⑥法律、行政法規に規定するその他の場合

 本件では、X社について、上記④の「使用者が法に従い破産宣告を受けた場合」(以下「終了事由④」といいます)に該当するかが問題となりますので、当該事由について説明致します。

(2)終了事由④の内容
 終了事由④で言及する「破産宣告」については、中国の企業破産法が規定しています。ここでは詳細には立ち入りませんが、企業が債務超過などの一定の事由を満たす場合、企業自ら、又はその債権者が破産の申立を行い(企業破産法第7条)、申立が認められる場合、裁判所によって破産宣告がなされます(企業破産法第107条)。破産宣告の決定日については、決定日から5日以内に債務者(破産宣告をされた企業)に送達されます。

 終了事由④では、「使用者が法に従い破産宣告を受けた場合」としていますので、使用者が、上記企業破産法に従い破産宣告を受けた日、つまり破産宣告の決定日に労働契約が終了すると解されます。実際の裁判例においても、使用者が裁判所から破産宣告の決定を受けた日をもって、労働契約が終了すると判断しています。

 なお、企業破産法では、破産の他に「重整」及び「和解」の手続についても規定していますが、これらと「破産」は明確に区別されており、また労働契約法では「破産宣告」のみを明示的に規定していますので、「重整」及び「和解」の決定があったとしても、労働契約が直ちに終了することにはならないと考えます(この点について、上海市の労働当局にヒアリングを行ったところ、同趣旨の回答がありました)。

(3)労働契約終了後の賃金等の精算
 企業破産法第113条は、破産手続における、破産費用及び共益債務を弁済した後の残りの弁済の優先順位について規定しています。そして、以下の従業員に関する賃金等は、最も高い優先順位とされています。

【弁済が優先される従業員に関する賃金等】

破産者が未払いの従業員賃金及び医療、身体障害者補助及び救済費用、従業員の個人口座に振り込むべき未払いの基本養老保険及び基本医療保険費用、並びに法律、行政法規において従業員に支給が義務付けられている補償金

 それでは、経済補償金については、上記に含まれるでしょうか?

 この点については、本法第46条が、経済補償金が支払われる事由について規定しているところ、同条第6号において本法第44条第4号、つまり終了事由④によって労働契約が終了した場合を挙げています。このように、経済補償金は、終了事由④によって労働契約が終了した場合も本法に基づき支払いが義務付けられる補償金であるため、上記優先弁済される事由の中の「法律・・・において従業員に支給が義務付けられている補償金」に該当すると考えられます。

 以上のとおり、終了事由④によって労働契約が終了する場合、未払いの賃金は当然ながら、経済補償金についても、最も高い優先順位で、従業員に対する精算がなされることになります。

 なお、企業破産法第113条第3項で、「破産企業の董事、監事及び高級管理職の賃金は、当該企業の従業員の平均賃金に従い計算する」とされている点にも留意が必要です。

2 本件
 本件のX社においても、仮に破産申立を行い、裁判所から破産宣告を受けた場合、破産宣告を受けた日にX社と従業員との労働関係は終了することになります。

また、X社が従業員に対して支払うべき未払賃金、経済補償金等は、他の一般的な債務よりも優先的に弁済されることになります。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第795号)に寄稿した記事です。