第27回 労働契約の終了事由(4)~使用者による繰上解散~
Q:上海市所在の独資企業X社は、急激に業績が悪化しており、業績回復の見通しもない状況です。このため、親会社では、X社の解散を検討しています。X社が解散する場合、従業員との労働関係をどのように処理すればよいですか?解散に先立ち従業員との労働契約を解除することが必須ですか?もし必須ではない場合、解散に先立ち労働契約を解除する場合との差異がありますか?
A:X社が解散する場合、解散決定を行ったことを理由にX社と従業員との労働関係は終了しますので、X社は解散に先立ち従業員との労働契約を解除することが必須ではありません。次に、解散に先立って労働契約を解除する場合との差異としては、解除制限事由に縛られないこと、事前の従業員への意見聴取等が不要であること、法定の労働組合への通知が不要であることが挙げられます。
解説
1 労働契約の終了について
(1)労働契約の終了事由
労働契約法(以下「本法」といいます)第44条は、労働契約が終了する場合について以下のとおり規定しています。
①労働契約の期間が満了した場合
②労働者が法に従い基本養老保険給付を受け始めた場合
③労働者が死亡し、又は人民法院から死亡を宣告され、もしくは失踪を宣告された場合
④使用者が法に従い破産宣告を受けた場合
➄使用者が営業許可証を取り消され、廃業もしくは取消を命じられ、又は使用者が繰上解散を決定した場合
⑥法律、行政法規に規定するその他の場合
X社については、上記⑤の「使用者が繰上解散を決定した場合」(以下「終了事由⑤」といいます)が問題となりますので、当該事由について説明致します。
(2)終了事由⑤の内容
ア 繰上解散の決定について
使用者による繰上解散の決定について、本法にはより詳細な規定はありませんが、会社法、中外合弁企業法実施条例、外資独資企業法実施細則には、出資者による解散決定についての規定があります。これらの法令に基づく繰上解散の決定機関及び決定方法に着目すると、以下のとおりとなります。
- 中国内資企業
株主会での3分の2以上の議決権を代表する株主による決議(会社法第43条第2項)
- 中外合弁企業
董事会における全会一致決議(中外合弁企業法実施条例第33条第1項第2号)
- 外資独資企業
外国投資者による決定(但し、書面形式かつ投資者が署名後に会社に備える必要がある)(外資独資企業法実施細則第70条第1項第2号参照、会社法第61条)
イ 労働契約の終了時点
終了事由⑤では、「使用者が繰上解散を決定した場合」としていますので、当該文言からすれば、使用者が繰上解散を決定した日に労働契約が終了するようにも読めます。もっとも、実際の裁判例では、使用者が繰上解散を決定した日をもって労働契約の終了日と判断したケースもあれば、労働契約終了の通知書を従業員が受領した日[9]や、使用者が繰上解散決定に基づく会社登記の抹消日[10]をもって労働契約の終了日としたケースなど様々です。更に弊所の経験上、解散清算の場合には、清算委員会を組織して清算をスタートさせれば会社の営業活動や工場の稼働は止まること、解散清算の場合にも各労働者から労働契約の終了に関する同意書を受領することが多いことから、会社の解散清算に関する従業員向け説明会を開催し、その実施日を労働契約の終了日に設定して、同日に従業員から同意書を受領するケースもあります。
(3)労働契約を解除する場合との差異
それでは、解散に先立ち労働契約を解除する場合との差異としては何があるでしょうか?例えば、会社の解散を検討するほどの業績悪化が存在する場合には、人員削減(本法第41条)による労働契約解除が可能であると考えられますので、人員削減による労働契約解除と比較してみます。
主な差異としては、以下のものが挙げられます。
ⅰ 解除制限事由に縛られないこと
ⅱ 事前の従業員への意見聴取等が不要であること
ⅲ 法定の労働組合への通知が不要であること
ア ⅰ 解除制限事由に縛られないこと
人員削減による労働契約解除の場合には、本法第42条に列挙される事由による労働契約の解除はできません。
他方で、終了事由⑤による労働契約の終了の場合、最終的には使用者の法人格が消滅することもあり、本法第42条は適用されませんので、制限事由なく、労働契約を終了させることができます。
イ ⅱ 事前の従業員への意見聴取等が不要であること
人員削減による労働契約解除の場合には、30日前までに労働組合又は全従業員に対して状況を説明し、労働組合又は従業員の意見を聴取した後、人員削減計画を労働行政部門に届出なければならないとされています。
他方で、終了事由⑤による労働契約の終了の場合、このような法定の手続は規定されていません。もっとも、法定の手続は存在しないものの、従業員との無用な紛争が発生するのを防ぐため、従業員規模、解散理由、これまでの経緯等に鑑み、従業員向けに説明会を開催するなどの配慮が必要であると考えます。
ウ ⅲ 法定の労働組合への通知が不要であること
人員削減を含め、使用者が一方的に労働契約を解除する場合、事前に労働組合にその理由を通知することが義務付けられています(本法第43条)。
他方で、終了事由⑤による労働契約の終了の場合、当該通知も不要です。もっとも、この点についても、法定の義務はないものの、労働組合が存在する場合には、通知の要否について慎重に検討すべきであると考えます。
2 本件
本件のX社が解散する場合についても、解散決定を行ったことを理由にX社と従業員との労働関係は終了します。X社は解散に先立ち従業員との労働契約を解除することが必須ではありません。
解散に先立ち労働契約を解除する場合との差異としては、解除制限事由に縛られないこと、事前の従業員への意見聴取等が不要であること、法定の労働組合への通知が不要であることが挙げられます。もっとも、上述のとおり、法令上は要求されていないものの、従業員との無用な紛争が発生するのを防ぐため、従業員向け説明会等の要否については慎重に検討すべきであると考えます。
*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。
*本記事は、Mizuho China Weekly News(第798号)に寄稿した記事です。