第72回 外国投資家による中国の上場会社に対する戦略的投資に関する規制

概要

中国の「外国投資家による上場会社に対する戦略的投資の管理弁法」が改正され、2024年12月2日から施行されました。今回の改正によって、外国投資家個人による戦略的投資が認められ、外国投資家に対する資金要求も緩和されました。本稿では、改正内容を含め、外国投資家による中国の上場会社への戦略的投資に関する規制について概説します。

1.はじめに

外国投資家による中国のA株(上海・深圳・北京証券取引所おいて人民元建てで取引されている株式。詳細は後述します)上場会社に対する投資に関する部門規則である「外国投資家による上場会社に対する戦略的投資の管理弁法」(以下「本弁法」といいます)は、2006年の施行1後、2015年に一度改正が行われています2(上場会社の第三者割当増資を通じた戦略的投資方式においては、必ず商務部の「原則返答書」を取得しなければならないとの要求が取り消されるなどの改正がなされています)。

今回、本弁法は三度目の改正を迎えました3。今回の主な改正点としては、①外国自然人による戦略的投資の実施を認めること、②外国投資家の資産に関する要求を緩めること、③株式公開買付という戦略的投資方式を追加すること、④第三者割当増資、株式公開買付の方式で戦略的投資を実施する場合、国外の非上場会社の株式を支払対価とすることを認めること、⑤持株比率及びロックアップ期間に関する要求を適切に引き下げること、が挙げられます。本稿では、今回の改正内容を含め、外国投資家が中国の上場会社に対して戦略的投資を行う場合の規制の概要を紹介します。

2.外国投資家による中国の上場会社に対する戦略的投資の概説

(1)外国投資家
外国投資家とは、外国の自然人4、企業又はその他の組織をいいます(本弁法第3条)。なお、香港特別行政区、マカオ特別行政区、台湾地域の投資家、及び国外に定住する中国公民が上場会社に戦略的投資を実施する場合も、本弁法を参照する必要があります(本弁法第35条)。

外国投資家は、次の条件を満たさなければなりません(本弁法第6条第1項)。

①法に基づいて設立、経営される外国の企業又はその他の組織であって、財務が健全で、信用が良好であり、かつ成熟した管理経験を備え、健全なガバナンス構造及び良好な内部統制システムを有し、経営行為が規範に適合していること。自然人である場合には、相応のリスク識別及び負担能力を具備する外国の自然人であること。

②現に所有する資産の総額が5,000万米ドル5を下回らないか、又は現に管理する資産の総額が3億米ドル6を下回らないこと。外国投資家が上場会社の支配株主となっている場合は、現に所有する資産の総額が1億米ドルを下回らないか、又は現に管理する資産の総額が5億米ドルを下回らないこと。

③過去3年以内に、国内外で刑事処罰又は監督管理機構による重大な処罰を受けていないこと。なお、企業又はその他の組織の成立から3年を経過していないときは、成立の日から起算します。

外国の企業又はその他の組織が、現に所有する資産の総額又は現に管理する資産の総額は②の条件を満たしていないが、その全額出資投資家(前記の主体を全額出資により所有する外国の自然人、企業又はその他の組織を指す)が前項に定める条件を満たしている場合は、本弁法に基づいて戦略的投資を行うことができます。この場合、当該全額出資投資家は、関係する投資行為について共同で責任を負うことを誓約し、又は当該外国の企業又はその他の組織と約定しなければなりません(本弁法第6条第2項)。

(2)戦略的投資の対象
戦略的投資の対象は、中国のA株7上場会社及び中国の全国中小企業株式譲渡システム店頭公開会社です(本弁法第2条及び第34条)。中国A株とは、人民元建て普通株式のことであり、中国国内登録会社が発行し、中国国内で上場され、額面金額が人民元で明示されており、引き受け及び取引が人民元建てで行われる普通株式です。全国中小企業株式譲渡システム8は、通称「新三板」といい、国務院の許可を受け、「証券法」9に基づいて設立された、上海証券取引所、深圳証券取引に次ぐ三番目の全国規模の証券取引所のことです。なお、中国で初めて会社制により運営される証券取引所でもあります。

(3)戦略的投資方式
①戦略的投資を上場会社の第三者割当増資の方式を通じて実施する場合、外国投資家は上場会社の董事会が前もって確定した発行対象として、又は競売方式を通じて確定した発行対象として、新株を引き受けることができます(本弁法第11条)。

②戦略的投資を合意による譲渡の方式を通じて実施する場合、外国投資家が取得する株式の比率は、当該上場会社の発行済み株式の5%を下回ってはなりません(本弁法第14条)。

③戦略的投資を株式公開買付の方式を通じて実施する場合、外国投資家が買い付ける予定の上場会社の株式の比率は、当該上場会社の発行済み株式の5%を下回ってはなりません(本弁法第15条)。

(4)その他
①持分の置き換え:外国投資家は、一定の条件を満たす場合には、その保有する国外の会社の持分、又は外国投資家がその新たに発行した株式を支払手段として、上場会社に対して戦略的投資を実施することができます(本弁法第7条)。

②ロックアップ期間:外国投資家は戦略的投資の方式を通じて取得した上場会社の株式を、12カ月間10譲渡することができません(本弁法第10条)。

③外商投資ネガティブリスト:外国投資家は、外商投資参入ネガティブリスト11の規定により投資が禁止されている分野に関係する上場会社に対して、戦略的投資を行ってはなりません。外国投資家が、外商投資参入ネガティブリストの規定により投資が制限されている分野に関係する上場会社に対して戦略的投資を行う場合、ネガティブリストに定められている持分に関する要求、高級管理職に関する要求等の制限性参入特別管理措置に適合しなければなりません(本弁法第5条)。

④中国国内の仲介機構の招聘及びデューデリジェンス:外国投資家が戦略的投資を行う場合、外国投資家、上場会社は中国で登録登記されている「証券法」の規定に適合する財務顧問機構、保証推薦機構又は弁護士事務所(以下、総称して「仲介機構」といいます)を招聘して顧問を務めさせなければなりません(本弁法第8条第1項)。

戦略的投資を上場会社の第三者割当増資の方式を通じて実施する場合、外国投資家が招聘する仲介機構が、当該戦略的投資が本弁法の戦略的投資に関する規定に適合しているか否かについて、デューデリジェンスを行います。また、上場会社が招聘する仲介機構が、当該戦略的投資が国の安全に影響を与えるか否か又は影響を与えるおそれがあるか否か、外商投資参入ネガティブリストに関わるか否か、本弁法第5条に適合するか否かについて、デューデリジェンスを行います(本弁法第8条第2項)。

戦略的投資を合意による譲渡、株式公開買付の方式を通じて実施する場合、外国投資家が招聘する仲介機構が、当該戦略的投資が国の安全に影響を与えるか否か又は影響を与えるおそれがあるか否か、外商投資参入ネガティブリストに関わるか否か、戦略的投資に関する本弁法の規定に適合するか否かについて、デューデリジェンスを行います(本弁法第8条第3項)。

3.終わりに

今回の改正を改正前の規定と比較すると、外国投資家が国外において現に所有する資産の総額に対する要求が引き下げられ、株式公開買付という戦略的投資方式が追加され、国外の非上場会社の株式を支払対価とすることが認められ、ロックアップ期間が12カ月に短縮されるなどの緩和が図られています。中国の景気動向については予断を許さない状況が続いていますが、中国市場に投資する意向を有する国外の投資家にとっては、本弁法の改正は良い影響をもたらすものといえると考えられます。

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1:中華人民共和国商務部、中国証券監督管理委員会、国家税務総局、国家工商総局、国家外貨管理局令2005年第28号、2005年12月31日公布、2006年1月31日施行。
2:中華人民共和国商務部令2015年第2号、2015年10月28日改正公布、同日改正施行。
3:中華人民共和国商務部、中国証券監督管理委員会、国務院国有資産監督管理委員会、国家税務総局、国家市場監督管理総局、国家外貨管理局令2024年第3号、2024年11月1日改正公布、同年12月2日改正施行。
4:2024年改正前は投資家が外国法人又は組織であることが前提とされていました。
5:2024年改正前は1億米ドルでした。
6:2024年改正前は5億米ドルでした。
7:中国のA株の証券取引所は以下の3つです。
上海証券取引所 https://www.sse.com.cn
深圳証券取引所 https://www.szse.cn
北京証券取引所 https://www.bse.cn
なお、情報開示に用いられる証券取引情報開示プラットフォームのURLはhttp://www.cninfo.com.cn/です。
8:https://www.neeq.com.cn/
9:中華人民共和国主席令第12号、1998年12月29日公布、1999年7月1日施行、2019年12月28日最終改正公布、2020年3月1日最終改正施行。
10:2024年改正前は3年でした。
11:外商投資参入ネガティブリストとは、外国投資者の投資を禁止する事業、持分、管理者に関する制限等を記載するリストです。最新の2024年版(国家発展改革委員会、商務部第23号)は、2024年9月6日公布、同年11月1日施行。https://zfxxgk.ndrc.gov.cn/web/iteminfo.jsp?id=20435

(2024年12月30日作成)


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本稿は、三菱UFJ銀行会員制情報サイト「MUFG BizBuddy」(2025年1月掲載)からの転載です。