第77回 中国からの撤退手法と留意点
一、はじめに
不動産業界の低迷を筆頭に中国を取り巻くビジネス環境が厳しさを増している。これに伴い、撤退に関する相談も増えている。もっとも、撤退を円滑に進めるためには、撤退手法ごとの留意点を事前に知っておく必要がある。そこで、本稿では、主要な撤退手法である持分譲渡と解散清算について、それぞれの特徴、留意点をご紹介する。
二、主要な撤退手法と留意点
- 持分譲渡手法の特徴、留意点
(1)持分譲渡手法の主な特徴
① 譲渡相手の存在
持分譲渡手法の特徴は、何といっても、「譲渡相手がいないと実行できない」点である。持分譲渡は、解散清算と比較すると、手続がシンプルであり、また従業員の解雇、債権債務の処理等も不要となる。このため、撤退にあまり労力を割きたくない日本企業においては、持分譲渡手法の方を優先的に検討するケースが多い。
もっとも、持分譲渡手法は、当然ながら譲渡相手がいないと実行できない。また、場合によっては、譲渡相手との交渉、交渉妥結後の実行に想定外の時間を要するケースもあり、撤退完了までの時間を読めないという特徴がある。
② 持分譲渡後も譲渡対象会社との関係が続くことがある
持分譲渡手法の場合には、持分譲渡後も持分の譲渡対象となる会社(以下「対象会社」とう)が存続することから、商号、商標などの継続使用のためにライセンスを求められることがあり、対象会社との関係が続くケースもある。しかし、安易にライセンスを許してしまうと、対象会社が品質、サービス上の問題を生じさせた場合に、自社にもレピュテーションリスクが生じるため、注意が必要である。
(2)留意点
持分譲渡を行うにあたっての留意点は多々あるが、ここでは以下の2点を挙げる。
① 譲渡相手及び対象会社を知っておく必要がある
持分譲渡の交渉の前提として、譲渡相手及び対象会社のことを知っておく必要がある。
このうち、譲渡相手については、通常の取引と同様、信用情報の調査等を行うことになる。
また、対象会社に対しては、譲受側がデューデリジェンス(以下「DD」という)を実施することになるが、譲渡側もDDの実施を検討すべきである。子会社であるとはいっても、DDを実施すると、労務問題、行政手続の不備、社会保険料の未納など、様々な問題が発覚することが非常に多い。持分譲渡の交渉に想定外の影響が生じることを防ぐためにも、DDを実施し、事前に解決可能な問題は解決した上で、交渉に臨むべきである。
② 交渉時の主な議題について事前に検討しておく
交渉に臨むにあたり、主な議題については内部であらかじめ検討しておくべきである。主な議題について、個別の案件に即して、相手方との間で争点となりそうな点、こちら側として譲れない条件などを検討した上で、社内のコンセンサスを取っておくことで、スムーズに交渉を進められる可能性が高まるためである。主な議題としては、譲渡対価の価額、対価の支払日・支払方法(一括、分割)、表明保証、譲渡側・譲受側の特別な義務、準拠法・紛争解決方法(仲裁か訴訟か、どこでやるか)などがある。
3.解散清算手法の特徴、留意点
(1)解散清算手法の主な特徴
① 対象会社の法人格の消滅
解散清算手法の場合には、清算手続が完了すれば、対象会社の法人格が消滅することになるが、このために、清算手続において、対象会社の債権債務の処理を確実に行わなければならない。例えば、継続的契約における債務の履行もできなくなるため、その場合の違約責任や親会社、グループ会社による保証の有無等を確認しておかなければならない。
② 清算プロセスが煩雑
次に、解散清算手法は、その清算プロセスが煩雑であることが挙げられる。解散の公告から始まり、清算組の設立、債権者への通知、債権債務の処理、対行政機関の手続の処理等を実施していく必要がある。これらのプロセスは、スムーズにいく場合であっても6か月程度を要し、1年を超えるケースも珍しくない。なお、設立から間もなく、債権債務が発生していない企業等においては、簡易抹消手続を利用できる場合もある。
(2)留意点
解散清算を行うにあたっての留意点も多々あり、特に従業員の解雇は大きなトピックの1つであるが、紙幅の関係もあり、ここでは以下の2点を挙げる。
① 債権債務の処理
債権債務の処理は、清算手続の中でも重要な地位を占め、債権債務の処理が終わらなければ、清算手続も完了させることができない。
このうち、債権の回収に関しては、会社の解散を知った債務者が債務の弁済を遅らせたり、弁済を免れようとすることがある点に留意が必要である。このため、特に高額な債権がある場合、その履行後に解散清算に入った方がいいか検討すべきである。
次に、債務の弁済については、継続的契約における債務で、違約金の設定があるような場合、債務の履行期間を確認した上で、それに合わせたスケジューリング、在庫の確保などの対応をする必要がある。
また、債権の回収、債務の弁済の両方に言えるが、これらに関連して訴訟を提起された場合、当該訴訟が終わるまでは、債権債務の処理も終わらない点にも留意が必要である。
② 土地の返還
土地の返還に関するリスクにも留意が必要である。中国政府から土地の払下げを受け、工場の建設を行った生産型の企業等においては、土壌汚染防止法や払下げ時の契約に基づき、土地の返還時に、土壌汚染状況の調査、土壌汚染の除去(入替)、地下水の浄化等が必要となることがある。土壌汚染の除去(入替)、地下水の浄化には、莫大な費用(数億元~数十億元)が生じることもあるので、土地の返還が必要となるケースでは、早めにそのリスクの有無、大きさ及び対応方法について、検討すべきである。
三、おわりに
以上、簡単ではあるが、中国からの主な撤退手法とその留意点についてご紹介した。撤退で躓いているケースを見聞きすると、事前の検討が不十分であり、いざ実行段階に移行した際に、想定外の大きな問題が生じ、そこでストップしてしまうことが少なくない。あらゆるすべての問題を事前に想定し、対応策を準備しておくことは難しいが、上記で挙げた留意点を含め、撤退に伴い発生しがちな問題、リスクについては、事前に検討し、その対応策を練っておくことが重要である。なお、事前検討の段階においては、一部の関係者のみに情報開示がなされることになると思われるが、その情報統制、管理が重要となる点にも付言しておく。
以上
*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。
