第79回 会社都合で労働契約を解除する場合、賞与を支給すべきか。

Q:中国で会社の就業規則において「年末賞与支給前に退職した従業員は年末賞与の支給対象に該当しない」と規定されている場合、年末賞与支給前に会社都合で労働契約を解除した従業員に対して年末賞与を支給すべきか。

A:会社の就業規則等の社内関連規定において、年末賞与支給前に退職した従業員は年末賞与の支給を受けることができない旨が規定されているとしても、①労働契約の解除が従業員側の一方的な過失または自発的な辞職によって引き起こされたものでなく、且つ②従業員が業務上、当該年度の任務を既に完了しており、従業員の業務パフォーマンスや仕事ぶりが年末賞与の支給対象レベルに達していないことを会社が証明できない場合、年末賞与を支給しなければならない。

参考裁判例((2018)滬02民終11292号)

(1)事案の基本的な経緯

A氏は2011年1月にB社に入社し、戦略部門の高級マネージャーを担当することで合意した。その後、2017年10月にB社は戦略部門を廃止することを決定し、A氏のポジションを廃止することとなった。双方は労働契約の変更について協議を行ったが、合意に至らなかった。2017年12月29日にB社は、客観的な状況に重大な変化が生じたことによる労働契約の変更についてA氏と合意に至らなかったため、A氏に契約解除通知書を発行した。B社の就業規則では、年末賞与は会社の方針に従って、会社の業績、従業員の仕事ぶりに基づいて支給されるが、支給対象に該当する従業員は当年度の10月1日以前に入社した者でなければならず、仮に賞与支給月またはそれ以前に退職した場合には、賞与の支給を受けることができないと規定している。また、B社は毎年度の年末賞与を翌年の3月頃に支給することにしていた。このため、B社はA氏に対して2017年度の年末賞与を支給しなかった。A氏はB社の労働契約の解除及び年末賞与の不払いを不服として、労働仲裁手続きを経た後、裁判所に訴えの提起をし、労働契約の違法解除を主張するとともに2017年度の年末賞与の支払いを求めた。

(2)判決の結果

本稿においては労働契約の違法解除に該当するかどうかの判決部分の分析は割愛し、賞与を支給すべかどうかについて説明、分析をする。一審裁判所は、B社の「就業規則」では賞与支給の条件について明確に規定しており、A氏は2017年の12月29日に労働契約が解除されたため、2018年3月のB社の2017年末賞与支給前に既に退職しており、賞与支給条件を満たしていないとし、A氏の2017年度の年末賞与の支払いの訴えは支持しないと判決した。

二審裁判所は、次のとおり判断した。年末賞与を如何に支給すべきかについて現行の法令には強制的な規定がなく、使用者は自らの経営状況、従業員の業務パフォーマンス等に基づいて、賞与を支給するかどうか、支給条件と支給基準を自主的に決定する権利を有するが、使用者が定める支給規則は公平合理の原則を遵守しなければならず、年末賞与支給前に退職した従業員が年末賞与を受給できるかどうかについては、従業員の退職の原因、退職時期、仕事ぶり、会社への貢献度など多方面から総合的に考慮しなければならない。本事案において、B社はその組織構造について調整を行い、労働契約の変更について双方が合意に至らなかったため、労働契約を解除した。A氏はB社で2017年12月29日まで勤務し、その後の二日間は土日の休日であったことから、A氏は2017年度においてB社で丸1年勤務したことになる。B社がA氏の2017年度の業務パフォーマンス、仕事ぶり等が年末賞与の支給対象レベルに達していないことを証明できていない状況では、A氏は当該年度においてB社のために丸一年労働し、その職責を履行し、B社のためにしかるべき貢献をしたと認めることができる。以上の理由に基づき、A氏は年末賞与の支給前に退職したことにより賞与を受給することができないというB社の主張には合理性がないため、B社はA氏に対して2017年度の年末賞与を支払わなければならないと判決した。

裁判要旨

年末賞与支給前に退職した従業員が使用者に対して年末賞与の支払いを要求した場合、裁判所は従業員の退職の原因、退職時期、仕事ぶりおよび使用者への貢献度などの要素により総合的な評価を行う。使用者の規定制度が、年末賞与支給前に退職した従業員は年末賞与の支給を受けることができないと規定していても、労働契約の解除が従業員側の一方的な過失または自発的な辞職によって引き起こされたものでなく、且つ従業員が業務上、年度の任務を既に完了しており、従業員の業務パフォーマンスや仕事ぶりが年末賞与の支給対象レベルに達していないことを使用者が証明できなければ、年末賞与支給前に退職した従業員が使用者に対して年末賞与の支払いを主張した場合、裁判所はこれを支持する。

弊所コメント

1.本事案にかかる中国法の関連規定の説明

1)中国において、判例は他の裁判に対して法的効力がない。即ち、類似の事案であれば必ずすでにある類似の判例に従って判決をしなければならないということにはならない。もっとも、類似の判例、特に最高人民法院(最高裁判所)が公布する指導判例は全国の裁判所の判決の参考になる。本判例は中国の最高人民法院(最高裁判所)が公布した指導判例である。

2)中国の労働契約法第40条第1項第3号によれば、労働契約を締結した時に拠り所とした客観的な状況に重大な変化が生じ、労働契約の履行が不可能となり、使用者と労働者が協議を経ても労働契約の変更について合意できない場合、使用者は労働契約を解除することができる。本事案においては、使用者は当該法令を根拠に労働契約を解除した。

3)中国の労働紛争の処理は、労働仲裁を行い[i]、労働仲裁の判断に不服がある場合、裁判所に訴えの提起をし、労働訴訟を行うことになる。労働訴訟は二審制であり、一審の判決に不服がある場合、二審へ上訴することができ、二審の判決が最終判決となる。

2.類似事案についてのアドバイス

1)使用者側が労働者の過失によらず、労働契約を途中で解除する場合、又は労働契約が終了する(例えば期間満了による終了)場合、労働契約解除時・終了時に、当該賞与評価期間が満了しているか否か、当該労働者が当該賞与評価期間の全期間において役務を提供していたか否かを確認すること。

2)労働者が賞与評価期間の全期間において役務を提供していた場合、使用者の賞与評価規定に基づいて評価を行う。評価の結果、賞与の支給対象に該当する場合、賞与を支払うこと。四半期、半年、年度賞与の規定がある場合、いずれも同じ対応をすること。

[i] 下記の状況においては、労働仲裁を経ず、直接裁判所へ訴えの提起をすることができる。労働者が使用者の賃金未払い証書を証拠として直接人民法院に訴えを提起し、請求の趣旨が労働関係の他の紛争に関わらない場合、労働報酬未払いに関する紛争とみなし、普通民事紛争として受理される(「労働紛争事件の審理における法律適用の若干の問題についての最高人民法院の解釈(二)」第三条)。

以上


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。