第6回 周知商標の保護

皆さん、こんにちは。Poblacionです。今回は、周知商標の所有者がフィリピン法に基づき与えられる特別な保護についてお話します。

第一に、自己の所有商標が「周知」であるかどうか知る方法は

商標の所有者が自分の商標はよく知られている、あるいは自分の製品は海外で幅広く使用されていると宣言しただけでは、その商標は「周知」とはなりません。フィリピンで商標が周知とみなされ、法律に基づく特別な保護を受けるためには、「所管当局」(裁判所、フィリピン知的財産庁等(IPO)、IPO法務局、その他行政機関を含む)によって「周知」商標であると宣言されなければなりません。フィリピンの最高裁判所によって周知商標として認められたものが以下のとおりいくつかあります。

・「LACOSTE」(La Chemise Lacoste SA v. Fernandez, G.R. No. L-63796-97, May 2, 1984)
・「IN-N-OUT」(Sehwani, Incorporated v. In-N-Out Burger, Inc., G.R. No. 171053, October 15, 2007)
・「HARVARD」(Fredco Manufacturing Corporation v. President and Fellows of Harvard College, G.R. No. 185917, June 1, 2011)。

なお、フィリピンには周知商標の登録簿はありませんし、商標所有者が自己所有商標について「周知」の宣言を求めることができる独立した手続もありません。通常、ある商標が「周知」と分類されるのは、この問題がIPO又は裁判所に提起された事件の論点になった場合のみです。

IPO及び裁判所がある商標について周知であるか否かを判断する際には、以下の要因を考慮します。

  • 商標の使用及び宣伝の期間、頻度及び領域
  • フィリピン国内外における商標が付された商品及び(又は)サービスのマーケットシェア
  • 商標の独自性
  • 商標が獲得している品質、イメージ又は評判
  • 世界における商標の登録の状況
  • 世界における商標の使用の状況
  • 商標が世界で有する商業的価値
  • 商標所有者が商標における権利の保護を得た記録
  • 商標が周知であるか否かについて論じた訴訟の結果
  • 同一又は類似の商品又はサービスにが既に登録又は使用されている同一又は類似の第三者所有商標であるかどうか

各基準のうち特にどれかを優先する、あるいは重視するということはありません。IPO又は裁判所は、ある商標が「周知」であるか否かを判断するにあたり、全ての要素を総合的に斟酌します。例えば、フィリピン国内における使用頻度又はマーケットシェアは、ある商標が「周知」であるか否かを判断する際に加味する要素の一つに過ぎません。フィリピン国内で使用されていなくても、上記した他の要素が十分に満たされていれば、商標が「周知」であるという宣言が妨げられることはありません。法律ではさらに、商標が周知であるか否かの判断において、当該商標の存在が一般公衆に知られていることは要求されない、と定められています。社会の関連セクターで当該商標が認識されていれば十分ということです。たとえば、医療器具に使用されている「ブランドA」が周知であるか否かを判断するにあたり、一般公衆の大半が「ブランドA」を耳にしたことがなくても、問題にはなりません。重要なのは「ブランドA」が医療関係者の間で周知と考えられているか否かということなのです。

第二に、周知商標の所有者に与えられる権利とは?

フィリピンは、工業所有権の保護に関するパリ条約の加盟国です。同条約に基づきフィリピンは、日本を含む加盟国の国籍を有する者に対し、その者が所有する知的財産権の侵害に対抗するための有効な保護を与えなければなりません。パリ条約第6条の2には、以下の通り規定されています。

第6条の2

(1) 同盟国は、ある商標が、ある別の商標でこの条約の利益を受ける者の商標としてかつ同一若しくは類似の商品について使用されているものとしてその同盟国において広く認識されていることをその登録国又は使用国の権限のある当局が認めるものの複製である場合、又は当該別の商標と混同を生じさせやすい模倣若しくは翻訳である場合には、その同盟国の法令が許すときは職権をもつて、又は利害関係人の請求により、当該ある商標の登録を拒絶し又は無効とし、及びその使用を禁止することを約束する。当該ある商標の要部が、そのように広く認識されている当該別の商標の複製である場合又は当該別の商標と混同を生じさせやすい模倣である場合も、同様とする。

周知商標に関する保護は、フィリピンの知的財産法にも受け継がれています。同法は、周知商標の所有者に以下の通り権利を与えています。

  • IPOは、周知商標と同一又は混同を生じさせる程に類似しており、かつ、同一又は類似の商品/サ−ビスに使用される商標については、たとえその周知商標がフィリピン国内で登録されていなくても、登録を拒絶することができます。かかる目的のため、周知商標の所有者は、たとえその周知商標がフィリピン国内で登録されていなくても、同一又は混同を生じさせる程に類似する商標について、その登録に異議を申し立てその登録の取消を請求すること、又は不正競争に基づく訴訟を侵害者に対して提起することができます。
    例えば、「HONDA」が車に使用される周知商標であることについては争いがありません。当該商標は、フィリピン国内のみならず全世界でよく知られています。したがって、IPOは、第三者による車及び車部品に関する「HONDA」という商標又は混同を生じさせる程に類似する商標(「HONDAH」や「HONDO」等)の登録出願を拒絶することができます。「HONDA」という商標の所有者が、フィリピンにおいて「HONDA」という周知商標が侵害者によって登録又は使用されるのを阻止するため、異議を申し立てたり、登録の取消を請求することもできます。
  • 周知商標がフィリピンで登録されている場合、保護の範囲は、類似しない商品又はサービスにまで広がります。「拡大保護」を受けるためには、周知商標の使用、採択又は模倣によって、周知商標の所有者の商品と侵害者の商品の間になんらかの関連性が示唆されることが法律上の要件です。また、周知商標の所有者は、侵害者による商標の使用によって損害を被る可能性があることも立証しなければなりません。
    上記の例で、周知商標である「HONDA」が、フィリピンにおいても、特に自動車について登録されているとしましょう(実際にもその通りです)。「HONDA」の所有者には、キーホルダー等の類似しない商品についても、フィリピン国内のいかなる者による同一又は類似の商標の使用又は登録を阻止する権利があります。しかしながら当該所有者は、(a)「HONDA」という商標がキーホルダー製品に使用された場合、侵害者のキーホルダーと「HONDA」の車との間の何らかの関係性が示唆されること、及び(b)かかる使用及び関係性により、商標「HONDA」の所有者が、損害を被るあるいは権利を毀損されること、も立証しなければなりません。

*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

当事務所 フィリピン弁護士 Krizelle Marie F. Poblacion

フィリピン大学法学部次席卒業。2010年フィリピン司法試験6位合格。フィリピンのPoblador Bautista & Reyes法律事務所に勤務し、フィリピンにおける事業展開の様々な側面に関する助言及び支援を国内企業及び多国籍企業に提供。専門は、フィリピンの会社法及び商標法。2014年、配偶者の海外赴任に帯同して来日。同年11月に黒田法律事務所での勤務を開始以来、日本企業による対フィリピン投資事案を専門に扱う。