第10回 外国企業による株式保有の制限の遵守:Gamboa 対 Teves 訴訟

皆さん、こんにちは。Poblacionです。
今回は外国企業による株式保有の制限についてお話します。

一部国営化されている産業に外国資本の参入を促すため、議決権や経済的権利の異なる様々な種類の株式を作出し、これに頼る企業もあります。そこでは、優位性の高い権利を伴う株式が外国企業に提供され、それ以外の株式はフィリピン国籍の者に提供されます。こうすることにより、一部国営化されている企業は、出資する外国資本の企業に安心感を与えることができます。その一方で、外国資本の企業は発行済み株式の総額に外国資本保有株式の価額が占める割合を法律で認められた上限を超えないようにするだけで、外国企業に課せられる制限を遵守することができます。

上記のような仕組みの有効性について判断したのが、後の指標にもなったGamboa対Teves事件(G.R. No. 176579, June 28 2011 [Decision], October 9, 2012 [Resolution])における最高裁判所判決です。当該事件において裁判所は、公益事業に関して外国企業に認められる所有権の範囲を判断するにあたり、「資本」の定義を確立させました。当該事件は、一部国営化された産業に従事し、活動する企業に対して広く影響をもたらせました。

Gamboa対Teves事件は、フィリピン最大手の電気通信会社、Philippine Long Distance Telephone Company(PLDT)に関する事件です。公益事業の経営権は、フィリピン国籍の者又は「フィリピン国籍の者が資本の60%以上を所有している」内国企業にのみ認められるという憲法第XII章第11条の規定に基づき、公益事業であるPLDTには、40%という外国企業の資本の上限が適用されます。

PLDTの当時の資本構成は、議決権を伴う普通株22.15%と議決権を伴わない優先株77.85%という構成になっており、PLDTの普通株の過半数は外国籍の者が保有し、議決権を伴わない優先株の殆どはフィリピン国籍の者が保有していました。

Gamboa対Teves事件の発端は、PLDTの普通株を保有していたPhilippine Telecommunications Investment Corporation(PTIC)が、PLDTの普通株を保有していた外国企業であるFirst Pacific Company Limitedの関連会社(First Pacific)にPTIC株式を売却したことでした。Gamboa対Teves事件における上訴人は、PTIC株式が売却されたことにより、First PacificのPLDT普通株保有率が間接的に30.7%から37%に上昇した、と主張しました。これを日本企業であるNTTドコモによる普通株保有率と合わせると、外国企業による普通株保有率は51.56%となり、憲法に定められた40%という上限を超過しているという主張でした。ただし、上記取引が行われてもPLDTの発行済み株式(すなわち、普通株及び議決権を伴わない優先株)の総額は、フィリピン国籍の者が保有している議決権を伴わない優先株数が多いことから、依然として60%以上がフィリピン国籍の者による所有となっていました。

この事件の判決を下すにあたり、最高裁判所は新しい問題に直面しました。それは、憲法でいう「資本」とは普通株のことのみを指しているのか、それとも全発行済み株式(普通株及び議決権を伴わない優先株)を指しているのかという問題でした。

裁判所は結果として、憲法で用いられている「資本」という用語は、取締役選任の議決権を有する株式のみを指すものであるとの判断を下しました。PLDTの場合、40%という外国企業による資本の持分上限は、普通株に適用されるべきものであり、普通株及び議決権を伴わない優先株の両方を含む発行済み株式の総額に適用されるべきものではない、という見解を下しました。このように判示するにあたり最高裁判所は、外国企業による資本の持分上限は国営企業においてフィリピン国籍の者が「支配権」を有することを確実にするために設定されたものである、と説明しました。企業の支配又は経営に参加する株主の権利は、取締役の選任に投票することを通じて行使されるということでした。

「資本」という用語を、普通株及び議決権を伴わない優先株の両方を含む発行済み株式の総額と広義に解釈してしまうと、「国家は、フィリピン国籍の者が実効的に支配し、自立させ独立した国家経済を発展させるべきである」という憲法の意図及び文言に大きく背くことになる、と裁判所は述べ、さらに以下のとおり、そのような解釈を採用すれば変則的結果がもたらされることは明らかであるとしました。

… ある企業の普通株100株を外国籍の者が所有し、議決権を伴わない優先株1,000,000株をフィリピン国籍の者が所有し、どちらの種類の株式も1株当たりの額面価額は1ペソ(P1.00)であると仮定する。「資本」という用語を広義に定義すると、当該企業は、公益事業の外国企業による資本の持分について憲法で課された40%という上限を遵守していると判断されることになる。発行済み株式の総額の大半、すなわち99.999パーセント以上をフィリピン国籍の者が所有しているからである。これは明らかにばかげている。

上記例の場合では、普通株を保有する外国籍の者のみが、その保有株数は100株に過ぎないにもかかわらず、取締役選任の議決権を有する。0.0001パーセント以下という極めて少ない持分しか有しない外国籍の者が、公益事業に対する支配権を行使する。その一方で、当該企業の99.999パーセント以上を保有するフィリピン国籍の者は、取締役選任の投票をすることができないため、当該公益事業に対する支配権を有しない。これは、公益事業に対する支配権をフィリピン国籍の者のものにしようという、憲法の起草者の意図のみならず、憲法の明確な文言にも完全に反している。…

Gamboa対Teves事件における最高裁判所の判決が下された後、証券取引委員会(SEC)は2013年覚書回覧第8号を発行し、国営企業に関する国籍要件を満たしているか否かを判断するための下記2つの基準を確立させました。

  • 取締役選任の議決権を有する株式について、フィリピン国籍の者による所有が要求される割合を満たしていること
  • 発行済み株式総数について、フィリピン国籍の者による所有が要求される割合を満たしていること

上記のことから、一部国営化されている外国企業とそのパートナーとなるフィリピン企業は、投資の構成に適切な注意を払う必要があります。一部国営化されている外国企業の発行済み株式の総額のうち、要求されている割合をフィリピン国籍の者が所有しているだけではもはや十分と言えず、さらに一歩進んで、当該企業の議決権付株式のうち、要求されている割合をフィリピン国籍者が所有していることが必要とされます。外国企業の得る経済的利益がフィリピン国籍を有するパートナーを上回ることについては一切禁止されていませんが、国営化企業の支配権の過半数は、常にフィリピン国籍の者の株主が握っていなければなりません。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。 また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。 フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。