第19回 解雇 − 人員削減計画

皆さん、こんにちは。Poblacionです。第2回のコラムでは、フィリピンの労働法に基づき雇用者が従業員を有効に解雇するために遵守すべき法律上の義務についてお話しましたが、今回は従業員を解雇する際によく挙げられる理由の1つ、事業損失回避のための人員削減について見ていきましょう。

人員削減とは、雇用者側が従業員の過失の有無に関係なく行う労働力の削減です。不況、産業不振、季節変動の時、又は注文の減少や材料不足による事業停滞時において事業損失を回避するためにこのような極端な措置が取られます。事業損失は簡単に取り繕うことができますので、不誠実な雇用者によって「人員削減」が故意的に行われるのも事実です。そこで、従業員を保護するため、フィリピン労働法には雇用者が人員削減計画を有効に実施するために厳守しなければならない様々な条件が定められています。以下に、その条件をいくつか挙げましょう。

1. 人員削減は、実在している、あるいは切迫している甚大、重大かつ現実的な事業損失の回避に、合理的に必要なものでなければならない

おそらく、この条件は、人員削減計画を有効に実施するために雇用者が遵守しなければならないもっとも重要な条件と言えるでしょう。実際、この条件を雇用者が満たさなかったことを理由に、裁判所及び労働機関によって人員削減計画が無効と宣言された例が多くあります。

この条件を満たすには、説得力のある十分な証拠によって事業損失の裏付けがなされる必要があります。事業損失の存在は、通常、貸借対照表、損益計算書及び年次法人税申告書等、会社の財務諸表により立証されます。これらの書面が、独立した監査人又は公認会計士による監査を受けたものであることも重要です。もし会社の財務諸表が監査を受けていない場合、自社の都合に合わせて作成されたものとして拒絶されます。

また、事業損失は、さらに甚大で、重大で、現実的なものでなければなりません。最高裁判所が明確にしたところによれば、会社が損失を被っている、あるいは被ると予測されるからと言って必ずしも人員削減が正当と認められるわけではありません。雇用者が人員削減を理由に従業員を有効に解雇するには、損失が一定の期間を通して増大し続けており、会社の状況が近い将来好転するとは思えない、あるいは数年の間に損失が減少するとは期待できないことを示す必要があります。単に総収益が下降又は減少しているというだけで、すぐに人員削減が正当化されるものではありません。

最後に、人員削減とは最終的手段であるため、雇用者は、人員削減を行う前に現実的な範囲でもう少し穏やかな他の手段を講じている必要があります。その対策には、営業費削減、経営陣の報酬カット、会社資産の売却、会社への新規資本投入等があります。

2. 雇用者は、人員削減を行う権限を誠実に行使しなければならない

雇用者は、人員削減計画を、誠実にかつ善意をもって実施しなければなりません。従業員に認められた職の保証を迂回するような方法で人員削減することはできません。たとえば、雇用者は「人員削減」計画を実施すると見せかけて労働組合員を解雇し、その後、代わりの労働者を雇用する、ということはできせん。そのような場合、雇用者は、違法な解雇及び不公正な労務の責任を問われることになり、様々な行政罰、民事罰及び刑事罰の対象となります。

3. 雇用者は、人員削減又は退職の対象者を決定するにあたり、公正かつ合理的基準を用いなければならない

従業員の中で誰を解雇し、誰を留まらせるのかを判断する際、雇用者には公正かつ合理的な基準を用いることが求められます。そうした基準には、地位、能力、勤続年数、健康状態、年齢、及び経済的困窮度(特定の労働者の場合)が含まれます。

4. 雇用者は、労働雇用省(DOLE)と従業員の両方に対し、雇用終了予定日の1ヶ月前までに書面で通知しなければならない
5. 雇用者は、人員削減対象の従業員に対し、退職手当を支給しなければならない

労働法の規定により、人員削減の場合雇用者は、1ヶ月分の給与額又は2分の1ヶ月分の給与額×勤続年数のいずれか高い方の金額以上の退職金を従業員に支給しなければなりません。当然ながら、雇用者は、法の規定を上回る金額の給付金を人員削減対象の従業員に支給することもできます。

上記条件のうち最初の3つの条件が満たされていない場合、その人員削減は違法となり、雇用者には、人員削減の対象となった従業員を元の地位に戻し、過去に遡って給与の全額を支払うことが命じられます。過去の給与分とは、その従業員に報酬が支払われなくなった時点から、実際に復職する時点までの分となります。従って、過去の給与分が法外な金額にまで膨らむ可能性もあります。さらに、もはや復職が不可能な場合には、過去の給与分に加えて、1ヶ月分の給与額×勤続年数以上の金額の退職手当が、裁判所によって認められることになります。

一方、残りの2つの条件は、手続き的な性質のものであるため、これらの条件が満たされていないからと言って必ずしも人員削減計画が無効になるものではありませんが、雇用者には罰金が科されることになります。従業員及びDOLEに必要な通知がなされなかった場合、雇用者は、名目的損害賠償の責任を負わされます。その金額は通常、従業員1人あたり5万ペソに設定されています。また、雇用者が人員削減した従業員に退職金を支給しなかった場合、従業員はDOLE又は労働裁判所に訴訟を提起し、退職金(正当な理由がある場合は損害賠償金を含む)を受領ことができます。

雇用者は、従業員を解雇する場合、その解雇が正当な理由によって有効になされたことを立証する責任を負います。従って、雇用者は人員削減計画を実施する前に、上記条件が全て確実に満たされるようにすることが非常に重要です。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。