第34回 フィリピン企業の株式購入

皆さん、こんにちは。Poblacionです。フィリピンへの投資方法として一般的かつもっとも簡単な手段とされているのは、既存のフィリピン企業の株を全部又は一部取得することでしょう。そこで、今回はフィリピンの内国企業の株式を購入する際に踏むべき基本的手順について、お話ししましょう。

ステップ1:その会社の株式を購入することが法律上認められているかどうかの確認

これまでのコラムでもお話してきましたが、フィリピンの一部産業には、国籍による制限が設けられています(8回 フィリピンのアンチ・ダミー法についての考察をご参照下さい)。従って、株の取得を希望している対象企業が、外国投資が認められない産業一覧(ネガティブリスト)に含まれていないかどうかを確認する必要があります(「ネガティブリスト」については、17回 「新」ネガティブリストの制定でもご参照頂けます)。その会社が一部国営の事業を行なっている場合には、投資によりその会社における外資持分が法律で認められた上限を決して超えてはなりません。たとえば、希望する投資先の会社がフィリピン国内に土地を所有している場合、その会社の株式の全部ないし50%を購入することは認められません。なぜなら、フィリピン法上、土地の所有権はフィリピン国籍を有する者や、フィリピン国籍を有する者がその60%以上を所有している企業にのみ、留保されているからです。

ステップ2:必要とされる承認(もしあれば)の取得

原則として、内国企業の株式の売買は、証券取引委員会の承認を得なければ有効とはならない、というものではありません。ただし、規制対象機関については所有権/支配権の変更に関する特別な規則が例外的に適用される場合があります。たとえば、ある人が銀行の議決権株式を20%以上所有又は支配することになる結果をもたらす取引については、金融政策理事会の事前承認が要求されます。さらに、購入を意図している株式が、売却する会社の資産の全部又は実質的全部にあたる場合、その取引は売却する会社の取締役会の過半数によって承認された上で、その資本金の3分の2以上にあたる株主により承認されなければなりません。

ステップ3:譲渡書類の作成

会社法上、株式譲渡は、単に裏書(株券の裏側に署名すること)をして、購入者に株券を引渡すことにより行なうことができます。ただし、実際には両当事者により株式売却の条件を具体的に記載した正式な売買証書の締結も行なわれます。

売買証書は簡略にすることをお勧めしますが、契約書には少なくとも以下の内容を記載しなければなりません。

  • 購入者の名称及び企業情報
  • 売却者の名称及び企業情報
  • 譲渡対象株式に関する情報(発行会社、株式数、額面価額等)
  • 株式の購入価格

その後、譲渡証書の認証が必要となります。認証は、譲渡を有効にするための法的要件ではありませんが、株式の登録証書を内国歳入庁(BIR)に申請する際に、認証済み譲渡証書の提出が要求されます(ステップ5参照)。

ステップ4:正しく納税

譲渡証書に署名した後、両当事者は以下の税金を納めなければなりません。

  • キャピタルゲイン税(CGT) – 正味利益Php100,000.00までは税率5%で、これを超える分については税率10%が課されます。正味利益とは、株式の取得価格と譲渡価格の差額です。CGTは、譲渡証書の認証日から30日以内に支払う必要があります。譲渡価格が株式の公正市場価格を下回っている場合、その差額は贈与とみなされ、贈与税(関連するのが個人の場合は税率2%~15%、企業の場合は税率30%)が課されます。
  • 印紙税(DST) – 譲渡される株式の総額面価額に対して税率0.375%で計算します。DSTは、譲渡証書が署名された月の翌月5日までに支払う必要があります。
ステップ5 BIRに登録証書(CAR)の申請

BIR発行のCARがないと、株式譲渡は会社の帳簿に正式に記録されません。CARの申請にあたりBIRに提出しなければならない主な必要書類は以下の通りです。

  • CGT申告書及びDST申告書、並びに納税証明書
  • 認証済の株式譲渡証書
  • 当該株式の株券のコピー
  • 取得費用の証明
  • 取引日と直近の日付の発行会社の監査済み財務諸表
  • 発行会社の通常定款、付属定款及び年次報告書

BIRでCARの申請手続にかかる期間は、通常1ヶ月から2ヶ月です。

ステップ6CAR及び納税証明書の会社秘書役への提出

その後、CAR及び納税証明書を会社秘書役に提出し、会社の帳簿に株式譲渡が適切に記録されるようにする必要があります。会社秘書役は、売却した者の株券の取消及び購入した者のための新規株券の発行も行ないます。

上述した規則は、発行後の株式の譲渡に適用されるものであって、最初の株式の引受に適用されるものではありません。また、フィリピン証券取引所に上場されている企業のような「株式公開企業」に分類された企業の株式譲渡については、異なる一連の規則が適用されることをご留意下さい。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。