第47回 クレジットカード決済

皆さん、こんにちは。Poblacionです。最近、私の利用しているフィリピンの銀行からメールが届き、私のクレジットカードで「不審な」取引があったと連絡を受けました。誰かが私のカードを使って約2万5千ペソ(約6万円)のスポーツ用品をイギリスで買ったようです。私には、クレジットカードでスポーツ用品を買った記憶がありません(それどころか、一番最近でスポーツ関連用品を買ったのはいつだったかも覚えていないくらいです)。しばらく東京以外の場所にも行っていません(しかもイギリスには一度も行ったことがありません!)ので、そんな買い物ができるはずはありません。そこで私はその取引を無効にして私のクレジットカードを停止するよう銀行に依頼しました。今は、再発行カード(完全に新規のカードになります!)が銀行から届くのを待っているところです。

この経験から、今回はクレジットカード決済に関するフィリピンの規則についてお話します。いつかお役に立つことがあるかもしれません。

クレジットカードの手数料及び料金の開示義務

昨今の商取引には技術の進歩や「アクセスデバイス」使用の普及が認められることから、フィリピンの国会は、アクセスデバイスの発行及び使用を規制する必要があると判断し、共和国法第8484号、いわゆる1998年アクセスデバイス規制法(「ADRA」)を制定しました。「アクセスデバイス」という用語は、お金、物品又はサービスを手に入れるために利用できるカード、プレート、コード、アカウントナンバー等のアカウント手段の他、金銭授受に利用できる一切の方法を指します。アクセスデバイスの一般的な例が、クレジットカードです。

ADRAは、クレジットカード会社に様々な義務を課しています。そうした義務の1つが、カード保有者に課される手数料や請求(年利、年間手数料、ミニマムファイナンスチャージ、決済手数料、違約金他、カードの使用に関する手数料等)、残高計算方法、キャッシングサービス料、及び利用限度額超過手数料に関する全情報を開示する義務です。クレジットカード会社は、請求や手数料の計算方法についても詳細に説明しなければなりません。これらの情報については、クレジットカードアカウントを勧誘し開設する際だけではなく、アカウントの更新前にも開示する必要があります。

要求されている情報をクレジットカード会社が開示しなかった場合、クレジットカード発行認可の一時停止又は取消等、厳格な罰則が科されることになります。

法外な利子と違約金は厳禁

支払期限までにクレジットカードの請求書の支払をしないと、借金で首が回らなくなることがあります。フィリピンのクレジットカード会社は通常、高額な違約金、追加料金、弁護士費用及び損害金に加え、月利3%の利子を課します。利子と違約金だけで金額がかさみ、元の債務額を超えることさえあります。

しかし、焦らなくても大丈夫です!フィリピンには、利率や違約金の上限を定めた法律はありませんが、債務者を身動きの取れない状態にしたり破産させたりするほど恣意的に利率を引き上げることが債権者に認められているわけではありません。実際、多くの事例において裁判所は、法外な利率を認めた合意を、法律には違反していなくても道徳に反しているとして無効にしてきました。たとえば、よく知られているMacalinao 対 BPI事件(G.R. No. 175490, September 17, 2009)において最高裁判所は、支払期限が経過したクレジットカード債務に対して銀行が課した月利3%の利子と3%の違約金は、法外なものであると判断しました。その結果、裁判所は銀行に対し、利率及び違約金率をひと月あたり1%(又は年利24%)まで引き下げるよう命令しました。

ただし、誤解しないでください。クレジットカードの請求書については、そもそも期限までに全額支払を済ませ、利子や違約金が発生しないようにすることが原則です。それでもいざという時には、期限を過ぎたクレジットカード債務について、途方もなく法外な利子や違約金を強制的に支払わされることはない、と知っておけば安心でしょう。

クレジットカード債務の不払による懲役はありません

支払いが遅れたクレジットカード保有者に嫌がらせをする取立業者の話をよく聞きます。請求書の支払をさせたいばかりに、刑事告訴や逮捕や懲役刑の話を持ちかけ、カード保有者を脅す者もいます。でも、このような脅しに屈することはありません。フィリピン憲法第III条第20項には、債務の支払不履行に懲役刑は科されないことが明示的に規定されています。従って、クレジットカード債務を決済できなかった場合でも何らかの正当な理由があれば、それだけで刑務所に入れられることはありません。債務不履行に対してはせいぜい、債権回収を求める民事訴訟が提起されるだけでしょう。

ただし、クレジットカード債務の不払に詐欺が伴った場合には、刑事告訴を受けることもあります。例えば、ADRAに基づき、欺罔の意図をもって、すなわち儲けた後に逃げる意図をもって、アクセスデバイスを利用しお金等の有価物を手に入れることは、刑法上の犯罪行為として懲役刑及び罰金刑の対象となります。同法にはさらに、支払期限から90日以上が経過したカード保有者の未払い額が1万ペソを超えており、そのカード保有者が自分と連絡の取れる連絡先をクレジットカード会社に伝えずに勤務先や自宅の住所からいなくなっていたという状況の場合、欺罔の意図をもってクレジットカードが使用されたと推定されることが規定されています。そのため、もしクレジットカード債務があり、引越や転職、日本への帰任を計画している場合には、クレジットカード会社に新しい住所を連絡するのを忘れないでください。これを忘れてしまうと、銀行を欺罔し債務から逃げた罪に誤って問われ、不本意にも重大なトラブルに巻き込まれることにもなりかねません。

クレジットカード詐欺は犯罪です

ADRAでは、「アクセスデバイス詐欺」にあたる様々な行為が刑事罰の対象として列記されています。違法行為の例をいくつか以下に挙げます。

(a) 偽造クレジットカードの作成又は使用
(b) 欺罔の意図を伴うクレジットカードの不正使用
(c) 詐欺的に申請されたクレジットカードの使用又は所持

アクセスデバイス詐欺で有罪とされた者は、犯罪行為の内容に応じて、6年から10年又は10年から12年の懲役と、1万ペソ又は犯罪者が稼いだ金額の倍額の罰金が科されることになります。再犯の場合には、更に長い12年から20年の懲役と罰金が科されます。

言うまでもなく、クレジットカード詐欺に会わないための最善の方策は、用心することです。常にご自分のクレジットカードに注意を払ってください。信用できる人以外には、自分のクレジットカード情報を提供しないことはもちろん、オンラインショッピングをする際には、必ず評判のいい信頼できるお店で購入するようにしてください。転ばぬ先の杖、といいますよね!?


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。