第74回 資金凍結命令に関する基本事項

皆さん、こんにちは。Poblacionです。2016年3月、マネーロンダリングのスキャンダルが大いに注目を集め、フィリピンのニュースを賑わせました。一連の騒動は、バングラデシュ中央銀行がニューヨーク連邦準備銀行に保有していた口座からフィリピンの地方銀行宛に、8,100万ドルの送金「指示」を行ったことから始まりました。結局、その「指示」は、正当に行われたものではなく、バングラデシュ中央銀行のコンピュータシステムがハッキングされたことによりおこった不正送金であった、と判明しました。バングラデシュ中央銀行は直ちに、送金の中止と資金の留保をフィリピンの銀行に要求しましたが、残念なことに、その日はフィリピンの祝日であったため、フィリピンの銀行がメッセージを受領したのは翌日のことでした。その間に、送金された資金の大半は引き出されてペソに換金された後、フィリピンの大規模なカジノの銀行口座を含む複数の銀行口座に入金されました。

こうした取引の特殊性に促される形で、フィリピン資金洗浄防止評議会(AMLC)が介入し、行動を起こすことになりました。AMLCは直ちに、マネーロンダリング計画にかかわっていると思われる個人及び企業の銀行口座に対する資金凍結命令を申し立て、その後、この申立は控訴裁判所によって認められました。AMLCと上院は、この特殊な銀行取引についてそれぞれの調査を実施しました。

今回のコラムでは、この問題に関連するお話をしましょう。第1回のコラムでフィリピン資金洗浄防止法(AMLA)の重要な特徴についてお話したのを覚えていらっしゃるでしょうか。今回は、より具体的な内容に踏み込んで、政府がマネーロンダリング事件を調査する際にしばしば活用する、極めて強硬な措置である「資金凍結命令」についてお話します。

資金凍結命令とは、政府がマネーロンダリング事件に際して活用することのできる特別な一時的措置です。Ligot 対 フィリピン共和国事件(G.R. No. 176944、2013年3月6日)においてフィリピン最高裁判所が説明したとおり、資金凍結命令の主たる目的とは、不法行為又はマネーロンダリング犯罪にかかわる資金や財産を、資金凍結命令が発行されている期間、その所有者が利用できないよう、資金や財産を一時的に留保することです。これは性質上、先制措置であり、財産の所有者による、財産処分や、政府による事件の立件又は最終的な民事上の没収手続の申立/所有者の訴追という取組みへの阻害行為を防ぐことを意図したものです。

資金凍結命令申立の手続は、まず、AMLCが実施する調査から始まります。AMLCの調査に基づき、当該資金又は財産が何らかの形でAMLA上の不法行為/犯罪行為又はマネーロンダリング犯罪にかかわっていると思われる理由があった場合、AMLCは、資金凍結命令の発行を求める申立を控訴裁判所に提起することができます。この申立は「一方的」なものです。すなわち、資金凍結命令発行の申立は、命令の対象となる当事者に対し、申立に関する通知を行うことも、同当事者に抗弁の機会を与えることもなく、裁判所による決定が下されます。これは、命令の対象となる当事者が、口座の資金を凍結する政府の意図について「警告」されるのを阻止するためです。知られてしまえばすぐに、銀行口座が閉鎖されたり犯罪による収益が隠蔽されたりすることになります。

控訴裁判所は、申立の提起から24時間以内に行動しなければなりません。申立が正当なものであれば、申立対象の資金及び財産に対する資金凍結命令が控訴裁判所から発行され、資金凍結命令は、即時に発効となります。

AMLAの適用を受ける機関(銀行及びその他金融機関等)は、資金凍結命令を受領次第、確認できる限りの口座を凍結します。そして、銀行は、資金凍結命令の受領から24時間以内に、凍結した口座の番号、口座保有者の氏名、凍結時の金額、口座を凍結した日時、並びに凍結した口座及びその他関連口座に関する情報を全て明記した詳細な報告書を、控訴裁判所及びAMLCに提出する必要があります。

一方、口座を凍結された者は、凍結命令の解除を求める申立を提出することができます。口座凍結の対象となった者は、解除を申し立てるにあたり、凍結命令が解除されるべき理由(口座凍結の然るべき理由がないこと、又は凍結命令の効力が既に消滅していること等)を主張する必要があります。一般的に、口座凍結の対象となった者が、他の裁判所に足を運び、一時的緊急差止命令、すなわち凍結命令に対する差止命令を求めることはできません。最高裁判所のみが、実質性の高い事件において、凍結命令に対する差止命令を発行することができます。

通常、裁判所は凍結命令を発行後、すぐに略式審理(「発行後審理」と称されます)を実施します。審理の過程で裁判所は、銀行又はAMLAの適用を受けるその他機関による凍結命令の遵守について確認し、口座凍結の対象となった者が提起した凍結命令解除の申立の実体を評価します。最終的に裁判所は、凍結命令の修正もしくは解除又はその効力の延長のいずれを行うかを判断します。

凍結命令の有効期間は裁判所によって決められますが、最長で6ヶ月です。政府は、凍結命令の有効期間中に証拠を集め、刑事犯罪行為をしたと疑われる者に対する適切な立件(通常は没収事件)を行います。凍結命令期間中に立件がなされない場合、凍結命令は解除されたとみなされます。

フィリピンに限らず、世界各国で行われているマネーロンダリングですが、色々な手口があるので皆さんもお気をつけ下さい!


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。