第87回 抵当権の設定

皆さん、こんにちは。Poblacionです。人生における大きな買い物のひとつがマイホームの購入でしょう。不動産の購入にはオンラインの不動産情報を検索したり、家探しを手伝ってくれる仲介業者に連絡したりとなにかと手間がかかります。そして、当然ながら、私達が考えなければならないもう1つの大きな問題は、どのように不動産の購入代金を支払うか、ということです。フィリピンの不動産価格は、日本と比較すれば安いですが、それでも、不動産の購入代金を全額即金で支払うのはそれほど簡単ではないでしょう。このような場合に、多くのフィリピン人が頼るのが、夢のマイホームのために購入資金を融資してくれる銀行ローンです。

銀行に融資を申し込む際には、それが家や車を購入するためであっても、個人的出費の資金調達のためであっても、融資金返済の担保として担保物件を提供することが、銀行から要求されるのが通常です。そこで今回のコラムでは、フィリピンでごく一般的な担保権の設定である、不動産抵当、質権及び動産譲渡抵当についてお話しましょう。

担保権の設定

担保権を設定する際には、それが不動産抵当、動産譲渡抵当又は質権のいずれであるかにかかわらず、当事者らは常に以下の事項を確実に遵守しなければなりません。

・元本債務(通常は貸付金)の返済を確保するために、抵当権又は質権を設定すること。

・抵当権又は質権の設定者は、抵当権又は質権の対象資産の絶対的所有者であり、当該資産を自由に処分できる立場にあること。
(つまり、自分が所有していない物に抵当権や質権を設定することはできません)

・元本債務の支払期限が到来した時点で、抵当権又は質権が設定された資産に対する担保権を行使し、元本債務の支払に充当することが可能であること。
(担保権を実行し、行使する手順はやや複雑で、該当する契約に応じて異なります)

1. 不動産抵当

不動産抵当は、その名称が表すとおり、不動産(土地や建物など)のみを抵当の対象とすることができます。その他の種類の動産(車や株式など)は、質権又は動産譲渡抵当の対象とするのが適切です。

不動産抵当権設定契約を作成する際に、従うべき特定の書式や文言はありません。抵当権設定の対象となる不動産と、その抵当権が担保となる元本債務について記載すれば十分です。原則として、適切な締結さえ行われていれば、抵当権設定契約は、両当事者間で拘束力を有します。ただし、第三者に対抗するためには、登記所に抵当権の届出を行うことが重要です。抵当権設定の対象資産に関する権限について、当事者らが抵当権の詳細を注記するのも一般的です。元本債務が弁済された場合には、当事者の一方から登記所に請求するだけで、抵当権に関する注記を取消すことができます。

抵当権の届出が適切に行なわれると、抵当権設定の対象資産に関して、抵当権者の優先権が発生します。これにより、対象資産が抵当権設定者によって売却されたとしても、その資産は、元本債務に対する担保としての役割を果たし続けます。従って、抵当権者/債権者は、新たな所有者に対し、抵当権設定の対象資産に対して担保権を行使することにより、債務の返済を要求することができます。

2. 動産譲渡抵当

動産譲渡抵当とは、その名称が表すとおり「人的財産」、すなわち(車などの)動産を対象に設定される抵当権です。動産譲渡抵当を有効に成立させるためには、以下の手続に従わなければなりません。

・動産譲渡抵当権設定契約には、抵当権設定の対象資産とその抵当権を担保とする元本債務を記載すること。
・契約には、両当事者と2名の立会人が署名した後、公証人の認証を受けること。
・当事者らは、主契約の他に、「善意の宣誓供述書」に署名すること。これにより当事者らは、宣誓の下で以下のことを誓います。
(i)動産譲渡抵当は、主債務に対する担保の提供のみを目的として設定されたこと
(ii)主債務は、正当かつ有効なものであって、詐欺的目的による取決めではないこと

・動産譲渡抵当契約及び善意の宣誓供述書を、管轄する登記所の動産譲渡抵当記録簿に記録すること。

・資産の種類によっては、追加の届出が必要になる場合もあります。たとえば、私有車に関する動産譲渡抵当は、陸上交通庁に届出が必要となり、航空機に関する動産譲渡抵当は、フィリピン民間航空庁に届出が必要です。

適切な届出が行われた動産譲渡抵当は、不動産抵当と同様に、契約の当事者以外の人に対しても拘束力を有します。一方、契約の届出が行われない場合、その動産譲渡抵当は、有効ではありますが、当事者間における拘束力しかありません。

3. 質権

質権は、動産譲渡抵当と同様に、動産に対して設定することができます。ただし、質権と動産譲渡抵当の主な相違点はその契約手続にあります。具体的な相違点は、質権設定契約は、登記所に届出をする必要がなく、単に質権設定の対象資産を記載し、質権設定日を記入した上で、公証人の認証を受けてさえいれば、第三者に対抗することができます。質権の特徴としてもう1つ重要なのが、質権設定の対象物を、質権者又は質権者の指定する第三者に引渡すことです。元本債務が返済されると、質権設定の対象資産は、質権設定者に返還されます。

私たちも早く夢のマイホームを手に入れたいと願っています!


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。