第109回 動産担保

皆さん、こんにちは。Poblacionです。先般、共和国法第11057号、いわゆる動産担保法が大統領によって署名されました。この法律は、人的財産を債務の担保とするための統一的かつ近代的な法律の枠組みを確立させるものです。

この法律にはどのような影響があるのでしょうか。銀行は従来、融資の担保には土地等の不動産が望ましいとしてきました。しかし、こうした慣行の下では、不動産を所有しない農業/漁業従事者や、その他零細/小規模/中規模企業(MSME)の事業主は、事業の経営及び発展のための資金調達に銀行の融資を利用することができません。動産担保法が承認されたことにより、MSMEは、装置、商品、家畜のような動産の他、知的財産権も自由に担保として提供できるようになりました。動産担保法の狙いは、MSMEによる融資の利用を促してMSMEに便宜を与えるのみならず、銀行の顧客層拡大を可能にして銀行にも恩恵を与えることです。

動産担保法の主なポイントを以下に記載します:

  • フィリピン土地登記局(「LRA」)は、集中型電子登記簿の構築及び管理を行い、これに、人的財産に対する担保権及び留置権を登記できるようにする。そのような登記簿が構築され運用されるようになって初めて、動産担保法の完全施行となる。
  • 人的財産に対する担保権は、担保設定契約の締結により作出することができる。将来的財産を担保の対象とすることもできるが、担保権を設定する人(「担保権設定者」)が対象財産に対する権利を取得した後に初めて、担保が作出される。
  • 担保設定契約は、書面で作成され、両当事者の署名がなければならない。担保設定契約には、担保として提供される人的財産を合理的に特定できる記述が含まれていなければならない。
  • 人的財産に対する担保が、第三者対抗要件を具備しているとみなされるためには、(i) 当該担保に関する届出が電子登記簿に記録されているか、又は (ii) 当該人的財産が有体物(機器及び装置等)の場合には、債権者に担保対象物の占有権が与えられていなければならない。一方、担保が投資資産又は預金勘定に対して設定される場合、担保権は、以下の場合に第三者対抗要件を具備するものとなる: (i)当該担保に関する届出が電子登記簿に記録されている場合、又は (ii) 当該投資資産又は預金勘定に対する支配権が債権者に提供されている場合。
  • 担保設定契約の規定に、債権者は、裁判所手続を経ることなく担保対象物を占有できるとある場合には、かかる占有が認められる。ただし、これは穏便な形で行われるものとする。担保対象物の占有権取得を穏便に行うことができない場合、債権者は、担保対象物の占有を認める命令の発行を求める申立を裁判所に対して行わなければならない。
  • 債務者が債務不履行に陥った場合、債権者は、担保対象物の売却又は処分を行うことができ、その方法は、商業上合理的な方法であれば、競売又は任意売却のいずれでも構わない。債権者は、担保対象物を処分する前に、担保設定者を含む全利害関係者に対して通知しなければならない(ただし、当該担保対象物が、性質上消滅し得るものである場合、又はその価値が急速に減じると予想される場合は除く)。売却利益は、債権者が財産の処分に費やした合理的費用の支払、担保が設定された債務の弁済、及び同財産に対する他の劣後する担保権の実行に充当されるものとする。売却利益の残高は、担保権設定者に返還される。逆に不足分があった場合、債務者は、別段の取決めがある場合を除き、当該不足分について引き続き債務を負う。
  • 債務不履行があった場合、債権者は、債務者兼担保権設定者に対し、担保設定された債務の全体又は一部の履行として、担保として提供された人的財産の全部又は一部を買取るよう提案することもできる。

関連政府機関は現在、動産担保法施行規則を策定中です。LRAによる電子登記簿の構築もまだ完了していないようです。

新しい動産担保法は、フィリピン経済の重要セクターに繁栄の扉を開く可能性を有するもう一つの法律と言えます。MSMEはフィリピン経済の根幹であり、仕事の創出にも重要です。貧困の削減と地方の発展には、農業及び漁業セクターの持続可能な成長が不可欠です。動産担保法の完全な施行が、最終的により公平かつ全体的な成長をフィリピンにもたらすことを期待しています。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。