第86回 迷惑電話も犯罪になる??

皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。

今年は台風の話をあまり聞かないなぁと思っていたら、いきなり同時に3つもの台風が発生しましたね〜。3つのうち一番最初に台湾に近づいた台風「蓮花」は、台湾の南西部に影響を与えた後、西側に逸れて、中国の広東省で猛威をふるい、真偽のほどは不明ですが13億人民元の損害が予想されるというニュースをテレビで見ました。二番目に台湾に近づいた台風「昌鴻」は、7月10日に台北市などの北部の地域で公共機関や学校などがお休みとなる「停班停課」となるなどの影響を与えました。

台風は人間の経済活動や生活に大きな影響を与えますが、実は沖縄の珊瑚の生育にも影響を与えると聞いたことがあります。沖縄の珊瑚は海水温が高すぎる場合に、白化し、この状態が続くと死んでしまうらしいのですが、台風がその大きなエネルギーで海水をかき混ぜ、水温を下げることで、この白化を防ぐのに貢献しているんですって。台風は悪いことばかり引き起こすわけではなく、役に立つ側面もあるってことなんですね〜。

本日は迷惑電話に関して取り上げてみます。

迷惑電話が犯罪となったケースで、例えば日本の裁判例では、「そば屋の営業を妨害するため3ヶ月の間に約970回にわたり昼夜を問わず無言電話をかけるなどした行為」がありました。当該行為は日本の刑法上の偽計業務妨害罪に当たるとされたのですが、「偽計」という言葉を耳慣れない言葉ですよね。

辞書を見ると「人を欺く計略」として説明されていますが、裁判例では「人の業務を妨害するため他人の不知又は錯誤を利用する意図を持って錯誤を生じさせる手段を施すこと」をいうとされています。少し分かりにくいですが、おおよそ人を欺く意図で、何かしらの業務妨害行為をする場合に、当該行為を行った者を処罰する犯罪といえそうです。日本でこの偽計業務妨害罪を犯した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。

同様のケースが台湾で行われた場合ですが、実は、台湾には業務妨害罪という犯罪類型が刑法上、存在しておりません。よって、現在の台湾の法律上では、会社やレストランなどに無言電話を大量にかけ、業務を妨害しても、「加害者を刑務所に放り込むことは難しく、民事上の損害賠償しかできない可能性がある」というのが、同僚の台湾弁護士の見解でした。

次に、業務妨害ではなく、個人に迷惑電話をかけた場合、何らかの犯罪に該当しないか確認してみました。
日本では、「約半年間、ほぼ連日にわたり、深夜から早朝にかけて、被害者方に電話をかけて電話の呼出音を鳴らし、その際、受話器を取上げて応待した場合には、無言で電話を切り、応待しない場合には、長時間にわたり電話をかけ放しにして同人方の電話の呼出音を鳴らし続け、被害者に著しく精神的不安感を与え、かつ不眠状態に陥れるなどして心身を極度に疲労させ、精神衰弱症に陥らせた」という事案で、傷害罪の成立を認めた裁判例がありました。

同様のケースを求めて、迷惑電話が関係する台湾のニュースを探したところ、無言電話を半年間で12万回も昼夜を問わず個人にかけ、電話を受けた人が眠れなくなり医師にかかったという案件がありました。日本と同じく、傷害罪に該当しそうなものですが、台湾の検察官は立証が困難であったためか、起訴をあきらめたという結論になっていましたね〜。

同僚に聞いてみると、やはりケースバイケースで電話と病気の因果関係が証明できれば、日本と同様に傷害罪として処罰できる可能性はあるとのことでしたが、実務上は、「被疑者が本当に迷惑電話をかけたのか」、そして、「迷惑電話をかけたとして、それが原因となって被害者が発症したか」の証明が困難であることも多いようです。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。