第16回 外国仲裁判断に基づく強制執行の手続き、期間、コスト等

1.外国での仲裁判断に基づき強制執行するための主な手続き

外国での仲裁判断に基づき民事執行を行うためには、日本の裁判所による執行決定が必要である(仲裁法第45条1項)。このため、まず、管轄の裁判所に仲裁判断執行決定の申立てをする。

執行決定が確定したら、「確定した執行決定のある仲裁判断」を債務名義として(民事執行法第22条6号の2)、管轄の裁判所に強制執行の申立てをする。

2.仲裁判断に基づく強制執行に要する期間

仲裁判断執行決定の申立ての審理に要する時間は、事案の内容や難易により異なるが、裁判所による外国仲裁判断の承認拒否事由は限定的であるので(仲裁法第45条2項)、通常は、実体審理は行われず、申立てから数ヶ月~1年程度で1審の執行決定がなされる。執行決定に対して抗告された場合は、更に2~4ヶ月ほどを要する。

もっとも、弊所で対応した案件の中には、外国仲裁判断の当事者とされた複数の法人の同一性や債務の有無が執行決定の審理で激しく争われ、仲裁判断の一部の執行を認めない判断がなされるなどしたため、申立てから執行決定まで2年程度、執行決定に対する即時抗告及び特別抗告で6ヶ月以上を要したものもある。

強制執行の申立てから決定までの期間については、日本の裁判所の判決による強制執行と概ね同様である。執行対象とする財産により異なるが、概ね、申立てから数日~1ヶ月程度で差押決定がなされる。差し押さえた財産の換価、回収に要する期間は、対象とする財産により異なる。例えば、銀行預金などは、債権者に対して差押命令が送達された日から1週間を経過したときに取り立てることができるようになるので(民事執行法第155条1項)、残高が存在し銀行の反対債権などがなければ、比較的早く1ヶ月以内程度で回収できることが多い。また、不動産は、競売や配当等の手続きが必要であるため、6ヶ月以上が見込まれるが、2018年の統計資料によれば、9割以上の事件で1年以内に手続きが終了している。

上記期間は、裁判所における審理等の期間の目安である。それ以外に、債務者の財産調査、仲裁判断の正本の発行等、準備のための期間を要することがある。

3.仲裁判断に基づく強制執行に要するコスト

仲裁判断の執行決定の申立ての裁判費用は、1件あたり4000円である(民事訴訟費用等に関する法律別表第1の8の2)。また、強制執行申立ての費用は、基本は1件あたり4000円であり(同別表第1の11)、債権者及び債務者数により若干変動する。また、不動産、自動車、知的財産権等、競売が行われる事件では、競売手続に必要になる費用(現況調査手数料、評価料、売却手数料など)を申立人が予納する必要がある。予納した金額は、配当から優先的に支払いを受けることができる。また、例えば不動産と債権を同時に差し押さえる場合など、同時に複数の民事執行申立てを行う場合は、それぞれの執行申立てにつき執行文付債務名義が必要となるため、申立てごとに仲裁判断の正本の発行費用や執行文付与の費用がかかる。

上記以外にも、仲裁判断の翻訳費用や、弁護士の報酬等が発生すると考えられる。

4.仲裁合意と仮差押え

外国での仲裁が合意されていても、日本の裁判所に仮差押えを申立てることは可能である(仲裁法第15条)。仮差押えの裁判費用は1件あたり2000円で、債権者及び債務者数により若干変動する。仮差押命令を得るには、供託又は支払委託により請求金額に応じた担保を立てることが必要だが、供託した保証金は、債務者の同意(民事訴訟法第79条2項)、勝訴等(同条1項)、権利行使催告(同条3項)等の事由があれば、担保取消の申立てをして取り戻すことができる。


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執筆者

弁護士 森川 幸