第27回 アクティビスト対応

1 アクティビストから買収を受けやすい企業とは

「株主の視点から経営が非効率なために株価が相対的に割安な企業、すなわち経営の規律付けを行うことで株価の上昇余地のある企業をターゲットとし、ファンド自身が投資先企業に対して積極的に経営者面談を通じて経営改善を実現することで株価を引き上げ、それにより超過リターンを獲得することを意図している」ファンドのことを、一般に「アクティビスト」と呼んでいる。

アクティビストの目的は、一般的に、①投資先の株価の値上りを通じた売却益の実現と②株主還元を通じた利益の獲得に存在する。

では、どのような会社がアクティビストからのターゲットとなりやすいのだろうか。

 2 アクティビストによる新たな投資対象として狙われるリスク

アクティビストには、(a)株式市場において形成される株価でのリターンを追求するタイプ(以下、「一般的なアクティビスト」という。)と(b)株式市場において形成される株価の範囲に留まらず、投資先に対し、会社法上のあらゆる手段を用いて最大限のリターンを要求してくると思われるタイプ(本稿ではこのような株主のことを、「特殊なアクティビスト」という。)が存在する。

(1)狙われやすい投資先の一般的な傾向

アクティビストは、一般的に投資先の株価の値上りを通じた売却益の実現と株主還元を通じた利益の獲得を目指している。また、投資先の経営陣に自己の意見に耳を傾けさせるだけの発言権を得ることにも熱心である。そのため、以下のような要素が含まれている企業が新規の投資先として狙われやすいといえる。

要素①:「株価が相対的に割安な企業」
(a)簿価純資産に比して時価総額が低い企業
(b)経営の非効率が業績に現れている企業

要素②:「株主還元が不十分な企業」
(a)キャッシュリッチで配当財源が潤沢にある企業
(b)非事業用資産に含み益が大きい企業

要素③:「一定の発言権を得やすい企業」
(a)時価総額が高過ぎない企業
(b)株式の流通量が確保されている企業

(2)「特殊なアクティビスト」から狙われるリスク

アクティビストと言っても、彼らが目指す経済的リターンは、通常は、株式市場で形成される株価上昇の範囲内であり、「特殊なアクティビスト」も、「一般的なアクティビスト」と同様に、「株価が相対的に割安な企業」「株主還元が不十分な企業」「一定の発言権を得やすい企業」を狙っているものと考えられる。

しかし、「一般的なアクティビスト」と異なり、一部のアクティビスト(「特殊なアクティビスト」)が相当割合の持分を取得した事例においては、アクティビストから株式取得の対象となった上場会社が、アクティビスト対応のためにプレミアム付き自社株TOBを実施していると考えられる事例も散見される

(3)プレミアム付き自社株TOB

自社株TOBは(立会内取引やToSTNetを利用した自社株買いとは異なり)柔軟な価格設定が可能であることから、市場株価に対して、ディスカウント又はプレミアムを付した価格で一定量の自社株を短期間で取得することを目的とする場合には一般的な取得方法とされている。

友好的な大株主からの自社の株式の買取りを目的とする場合には、他の株主からの応募を受けないためにディスカウントした価格で行われることになるが(ディスカウント率の平均値・中央値は市場株価に対して約10%程度)、アクティビストから株式取得の対象となった上場会社が、アクティビスト対応のために自社株TOBをプレミアム付きで実施していると考えられる事例がある(プレミアムが付されることで他の株主も応募してくる可能性が高まるため、応募が買付予定数を上回る場合には、按分比例で平等に取り扱われる)。プレミアム付き自社株TOBにおいて、高過ぎるプレミアムを付ける場合には、会社財産を過度に外部流出させたことに対する取締役の善管注意義務違反のリスクを生じさせることとなる。

このように万が一、「特殊なアクティビスト」に相当割合の持分を取得されてしまった場合には、「一般的なアクティビスト」に買われた場合に比して、大きなコストを要することが想定されることは留意しておかなければならない。


*本記事は、法律に関連する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者

パートナー弁護士 飯田 直樹