第29回 バーチャルオンリー株主総会の勧め

バーチャルオンリー株主総会の開催を許容する産業競争力強化法(以下、「産競法」といいます)が施行されて2年が経過しました。筆者はこの2年を含む直近の3年間で、ハイブリッド型バーチャル株主総会(参加型)、同(出席型)のみならず、バーチャルオンリー株主総会にも立ち合う経験をしてきましたので、この経験からバーチャルオンリー株主総会のデジタル型社会における新しい意義を改めて考えてみました。

1 バーチャルオンリー株主総会の開催数

バーチャルオンリー株主総会を開催するには「場所の定めのない株主総会」を開催できる旨の定款の定めが必要ですが産競法66条1項、経過措置として施行日から二年が経過するまでの間(2023年6月16日まで)は、経済産業大臣及び法務大臣の「確認」を受けることを条件に定款の定めがなくてもバーチャルオンリー株主総会を開催することができました。

今年の6月16日をもってこの経過措置は終了しましたが、バーチャルオンリー株主総会を開催するために2023年3月までに384社が定款変更をしたものの、実際にこれを開催したのは、2022年に8社(商事法務2313号42頁)、2023年に11社(日経新聞2023年6月11日)と僅かにとどまっており、ほとんどの会社はバーチャルオンリー総会を開催することに躊躇していることが窺われます。

2 バーチャルオンリー株主総会の3つの主なリスク

多くの会社がバーチャルオンリー株主総会を躊躇している主な理由は、①通信障害が発生するリスク、②会社が経営陣に都合の良い質問のみを取り上げる(いわゆる“チェリーピッキング”)と株主に批判されるリスク、③悪意のある株主が現れた場合に通信を切断することが許されないリスクを懸念していることにあると思われます。

では、実際にバーチャルオンリー株主総会を開催した筆者の経験からこれらのリスクについて述べてみます。

①通信障害のリスクについては、会社からインターネットに接続する回線、株主がインターネットに接続する回線の2とおりがあり、それぞれ、アップロードとダウンロードがあります。

一般的にダウンロードの方がアップロードに比べて、通信速度が速く、通信障害のリスクは低いと言われているようです。そこで、アップロードする会社からインターネットに接続する回線を冗長化することにより、アップロードにおける通信障害のリスクを回避できる一方、株主側ではダウンロードが主ですから、現在の通信環境では通信障害のリスクは大きなリスクではないように思われます。実際のバーチャルオンリー株主総会では株主の端末がフリーズした場合にはまずは再起動をするように予め説明するのがいいでしょう。

実際に、筆者も、ハイブリッド型株主総会を含めて、通信障害が発生したという情報には接したことはありません。

②チェリーピッキングのリスクに対しては、株主の質問を事後的に(株主専用サイトなどに)開示することで透明性を確保し、このリスクを回避することが可能と思われます。

③悪意のある株主との通信を切断することが許されないというリスクについても、バーチャルオンリー株主総会では株主の質問はテキストで入力する方法によるとすれば、悪意のある株主との通信を切断する必要が生じるケースはほとんどないと考えられます。

3 バーチャルオンリー株主総会の勧め

バーチャルオンリー株主総会はコロナ禍において急ごしらえで作られた制度である感は否めませんが、実際の運用においては

・株主の質問をテキストで受け付けるケースでは、質問や意見のポイントが整理されて有意義な質疑応答・意見交換ができること

・リアル株主総会では出席できなかった地方の株主のみならず、海外の株主も株主総会にアクセスすることが可能となること

といったメリットの他、会社としては、

・開催場所を柔軟に設定することが可能となり、会場を確保することによる手間とコストを削除できること

・運営のスタッフの員数を大幅に少なくする事ができること

といった数多くのメリットも考えられます。

4 バーチャルオンリー株主総会の手続き

バーチャルオンリー株主総会を開催するには、「場所の定めのない株主総会」を開催できる旨の定款変更が必要となり、その前提として経産大臣及び法務大臣による「確認」をとることが必要となります。

この「確認」の申請は経済産業省に対して行うことになり、申請から「確認」までおよそ2か月程度見込んでおく必要があります。

会社法の改正によって導入された株主総会関係書類の電子提供制度も今年から施行され、株主総会のデジタル化も待ったなしです。まずは、次回の株主総会での定款変更に向けて、経産大臣及び法務大臣による「確認」の申請を検討してみてはいかがでしょうか。


*本記事は、法律に関連する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者

パートナー弁護士 飯田 直樹