第8回 近時の会社登記実務の変更

1.株式会社の代表取締役の居住者要件の撤廃

法務省は、平成27年3月16日付けで以下の内容を含む通知を出した。

昭和59年9月26日民四第4974号民事局第四課長回答及び昭和60年3月11日民四第1480号民事局第四課長回答の取扱いを廃止し、本日以降、代表取締役の全員が日本に住所を有しない内国株式会社の設立の登記及びその代表取締役の重任若しくは就任の登記について、申請を受理する取扱いとする。

会社法上は代表取締役の居住者要件はなかったにもかかわらず、昭和59年9月26日民四第4974号民事局第四課長回答及び昭和60年3月11日民四第1480号民事局第四課長回答の取扱いにより、株式会社の代表取締役のうち、少なくとも1名は、日本に住所を有する者であることが登記実務上求められてきた。つまり、事実上、1名以上の代表取締役が居住者であることが要件とされてきた。しかし、上記通知によりこのような要件は撤廃された。なお、上記要件の撤廃は、株式会社のみでなく、特例有限会社等にも適用されるものと解されている。

上記要件が撤廃されたことにより、日本に子会社を設立しようと考えている外国会社、及び既に日本に子会社を有する外国会社にとっては、居住者である代表取締役を無理に探す必要がないという点や、親会社のメンバーだけで日本の子会社をコントロール出来る等のメリットがあると考えられる。
なお、非居住者の代表取締役には限らないことであるが、正当な理由なく取締役を解任すると、損害賠償請求されるおそれがあり(会社法339条2項)、また、取締役職自体は解任せずに、単に平取締役に降格させる場合でも、報酬を減額する場合には、報酬の減額措置が無効とされる可能性もある(福岡高判平成16.12.21)。また、これまでの代表取締役が解任され、新たな代表取締役が選定される場合、新たな代表取締役の名義で、会社の実印の届出をしなければならない可能性もある。そのため、非居住者の代表取締役を選ぶ際には、現職者の解任または降格を伴う場合には損害賠償請求のリスクに注意し、新任者を短期で解任する可能性がある場合にはその任期及び役職に注意し、また手続等に想定以上の時間を要するおそれがあることを考慮する必要がある。

2.払込取扱機関

株式会社の設立の登記の申請において、発起設立の場合には、出資の履行としての払込み(会社法第34条第1項)があったことを証する書面を添付する必要がある。
その際には,以下の2つの書面を合わせて契印したものを「払込みがあった書面」として取り扱うことができる。
1 払込取扱機関に払い込まれた金額を証する書面(設立時代表取締役又は設立時代表執行役が作成)
2 払込取扱機関における口座の預金通帳の写し又は取引明細表その他払込取扱機関が作成した書面

この「払込取扱機関」には、日本銀行の日本国内本支店だけでなく、外国銀行の日本国内支店(内閣総理大臣の認可を受けて設置された銀行)も含まれる。また、日本銀行の海外支店も「払込取扱機関」に含まれる
非居住者が日本銀行の日本国内本支店で銀行口座を開設することは難しいことから、会社設立時の代表取締役を非居住者だけとする場合、外国銀行の日本国内支店や日本銀行の海外支店を「払込取扱機関」とできることは便宜であると言える。なお、日本の銀行が外国法に基づき設立したいわゆる現地法人である銀行は、日本の銀行の海外支店には該当せず、「払込取扱機関」に当たらないと解されていることに注意が必要である。

3.役員の就任・代表取締役の辞任登記の添付書面の変更

商業登記規則等の改正により、平成27年2月27日から、役員の就任・代表取締役の辞任登記の添付書面が変更された。

(1)役員の就任登記の添付書面の変更
ここでの役員とは、取締役、監査役及び執行役を指す。なお、「就任」には、重任は含まれないとされているため、重任登記の場合には、本人確認証明書は不要と考えられる。また、登記申請書に当該役員の印鑑証明書を添付する場合にも、本人確認証明書は不要とされている。
①変更前
・登記申請書
・就任承諾書
②変更後
・登記申請書
・就任承諾書
・本人確認証明書(以下のいずれかの書類)

  1. 住民票記載事項証明書(住民票の写し)
  2. 戸籍の附票
  3. 住基カードのコピー(住所が記載されているもの。裏面もコピーし、本人が「原本と相違ない。」と記載して、記名押印する必要あり。)
  4. 運転免許証のコピー(裏面もコピーし、本人が「原本と相違ない。」と記載して、記名押印する必要あり。)
  5. パスポートの写し(住所が記載されているもの。本人が「原本と相違ない。」と記載して、記名押印する必要あり。)
  6. 在留カードの写し(本人が「原本と相違ない。」と記載して、記名押印する必要あり。)
  7. サイン証明書(本国官憲が発行し、住所が記載されているもの。)

なお、(g)のサイン証明については、以下の通り作成されたものが受け入れ可能とされている(A国が本国である場合)。

  • 本国に所在する本国官憲作成(例:A国にあるA国の行政機関)
  • 日本に所在する本国官憲作成(例:日本にあるA国の大使館)
  • 第三国に所在する本国官憲作成(例:B国にあるA国の大使館)
  • 本国に所在する公証人作成(例:A国の公証人)

また、本国官憲の署名証明書を取得できないやむを得ない事情がある場合には、以下の署名証明書の添付が許容される場合がある。

  • 居住国官憲が作成した署名証明書
  • 居住国の公証人が作成した署名証明書
  • 日本の公証人が作成した署名証明書

(2)印鑑提出者である代表取締役の辞任登記の添付書面の変更
ここでの代表取締役は、印鑑提出者である代表取締役のみを指し、印鑑提出者でない代表取締役の辞任の登記申請においては、従来通り認印が押印された辞任届でも受理されるとされている。
また、印鑑提出者である代表取締役の取締役としての辞任の登記についても、変更後の添付書類が必要になる。

①変更前
・登記申請書
・辞任届
②変更後
・登記申請書
  ・辞任届(個人の実印または会社の実印が必要)
・個人の実印を辞任届に押印した場合、印鑑証明書


*本記事は、法律に関連する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者

弁護士 尾上 由紀