第576回 新幹線に席取り魔人現る!?
今月15日、1人の老婦人を取り巻く少し変わったニュースが報じられました。
ある老婦人が、台北駅から板橋駅に向かう台湾高速鉄路(高鉄)、いわゆる台湾新幹線の自由席車両で、空いている席に荷物を置く形で席取りをしていました。しかし、当時車内は立ち乗りが出るほどの満席。乗務員が老婦人に対し、他の乗客に席を譲るよう幾度となく伝えたにもかかわらず、老婦人は「友人がこの後乗ってくるから」と繰り返し述べ、最後まで乗務員からの注意に応じなかったところ、座席占用分の乗車券を追加購入させられたというのです。
乗客は利用規約の了承が前提
さて、「旅客運送契約」というものをご存じでしょうか。
法理論上、電車に乗るためには、住宅購入などの売買契約と同様に、利用者と鉄道会社との間で契約を締結する必要があります。しかし、毎回乗車前に契約書に目を通し、署名押印して初めて電車に乗れるといった運用は現実的ではありません。
そのため実際には、鉄道会社が定めている条件を「旅客運送契約」として一定の場所に公告し、鉄道利用者は当該契約書に記載されている内容を了承したという前提のもと、旅客輸送サービスが行われています。
座席の占用は乗車券が必要
台湾新幹線でも旅客運送契約(中国語名:台湾高速鉄路股份有限公司旅客運送契約)が定められており、同契約第33条は以下のように規定しています。
「旅客が携帯して乗車した物品は自身で保管しなければならず、当社は保管責任を負わない。物品で座席を占用する必要がある場合、乗客は乗車する列車及び車両(*座席の種類)に応じ乗車券を追加購入しなければならない。動物用容器を用いる場合は、第36条の規定に従い取り扱う。」
今回の一件は、同条に基づく対応であったと考えられます。ネット上では老婦人に対し、「席取り魔人」などと揶揄(やゆ)する批判や、台湾新幹線側の対応を賛辞する意見が見受けられます。その後実際にご友人が乗車されたか否かまでは報道がなされていませんが、いずれにせよ、常に周りの状況に応じた行動を心掛けたいものです。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
高校時代に参加した弁護士の講演がきっかけとなり、国際的に活躍できる法曹を志す。
高校卒業後、台湾の大学に進学し中国語の習得並びに国際感覚の涵養に励む。
在学中は積極的に日台比較法研究会への参加、現地の法律事務所でのインターン等を通して自身の法律知識を深めた。
台湾法のみならず、様々な法分野においてクライアントに寄り沿うことができる弁護士を目指し、日々研鑽を積んでいる。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。