労働者がAIを利用して作成した職務上の資料に係る著作権の帰属

近時、AIの利活用が急速に進展し、企業においても、社内資料の作成等にAIを利用する機会が増えています。このような中、台湾当局から、労働者がAIを利用して職務上作成した資料(以下、「本件資料」といいます。)の著作権の帰属に関する注目すべき見解が示されましたので、本稿ではその概要をご紹介します。

1.著作権法上の規定

台湾著作権法(以下、「本法」といいます)第11条には、以下の定めがあります。

(1)労働者が職務上完成した著作については、当該労働者を著作者とする。ただし、契約により使用者を著作者とする旨を定めた場合には、その定めに従う。

(2)前項の規定により労働者を著作者とする場合、その著作財産権*は使用者に帰属する。ただし、契約により当該著作財産権を労働者に帰属させる旨を定めた場合には、その定めに従う。

(3)前二項にいう労働者には、公務員を含む。

* 台湾法上の「著作財産権」は、日本法上の「著作権(著作者人格権を除く)」に相当する概念です。

このため、本法に基づくと、契約において著作者及び著作財産権の帰属について定めがある場合には、その合意に従うこととなり、他方で、合意がない場合には、労働者が著作者となり、使用者が「著作財産権」を有することとなります。

2.関連する行政解釈のご紹介

⑴経済部知的財産局2022年10月31日電子メール字第1111031号(中国語:經濟部智慧財產局111年10月31日電子郵件字第1111031號)参照

人間が自ら創意工夫を行い、AI(例えば、描画ソフトウェア)を補助的なツールとして利用するにすぎない場合、補助ツールを利用しつつ、創作者の創意によって完成した創作物は、なお著作権による保護を受けることができ、その著作権は、当該創意工夫をした自然人に帰属する。ただし、本法第11条および第12条に該当する場合を除く。

⑵経済部知的財産局2026年7月24日電子メール字第1150724号(中国語:經濟部智慧財產局115年7月24日電子郵件字第1150724號)参照

「職務上完成した著作」とは、雇用関係に基づき、労働者が勤務先の業務として、または勤務先からの指示を受けて完成した著作をいう。これに該当するか否かは事実認定の問題であり、業務の性質に即して実質的に判断する必要があり、勤務時間や勤務場所とは必ずしも直接的な関係はない。

⑶経済部知的財産局2026年7月16日電子メール字第1150716号(中国語:經濟部智慧財產局115年7月16日電子郵件字第1150716號)参照

本法による保護を受ける美術の著作物に該当し得る画像(以下、「本件画像」といいます)をプレゼンテーション資料に使用し、インターネット上にアップロードする場合には、本法上の、他人の著作物の「複製」及び「公衆送信」に該当する行為が生じる。このため、本法第44条から第65条までに定める合理的利用(フェアユース)に該当する場合を除き、本件画像を適法に利用するためには、著作財産権者の許諾または同意を得る必要がある。

3.検討するにあたっての流れ

上記1及び2を踏まえると、本件資料に係る著作権の帰属については、以下の流れに沿って検討することとなります。

(1)本件資料の中に、当該労働者が実際に創意工夫を加えた部分があるかを確認する。

(2)本件資料が、「職務上完成した著作」に該当するかを検討する。

(3)仮に上記⑴⑵のいずれもが認められた場合には、「職務上完成した著作」に関する合意が締結されていたか否かを確認する。

(4)上記⑶にかかる合意が締結されていなかった場合には、①労働者が本件資料の著作者として著作者人格権を有し、②雇用者が著作財産権を有する。

なお、本件資料が「職務上完成した著作」に該当しない場合には、本法の規定に基づき、当該資料を作成した労働者が、その完成時から著作権を有することとなります。

このように、日常的な業務の思わぬ場面から、法的トラブルが生じる可能性があります。労働者の雇入れ時に労働契約等を締結するにあたっては、事前に各条項を十分に検討し、将来的な法的リスクを可能な限り低減できるよう、権利関係を明確に定めておくことが重要です。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修 弁護士 秋口麻貴