第3回 人員削減(リストラ)(3)~人員削減対象者の選別に関する規制~

Q:上海市所在の独資企業X社は、これまで自社工場において製品を製造し販売してきましたが、思うように利益が上がらないことから、製造よりも販売に力を入れる経営方針に転換し、製造についてはできる限り外部に委託することを考えています。当該方針転換に伴い、主として製造部門の従業員の人員削減を検討しています。 人員削減対象者の選別にあたって何か注意すべき点があるでしょうか?

A:X社は、人員削減対象者の選別にあたって、人員削減が禁止される者を対象者に含めないようにする必要があり、また、優先的に雇用を継続すべき者については、他の者よりも優先的に雇用を継続しなければなりません。

解説

1 人員削減(リストラ)対象者の選別に関する規制
前々回、前回と労働契約法[1](以下「本法」といいます)第41条に基づく人員削減が可能となる法定事由について概説しました。もっとも、本法では、仮に第41条で定める人員削減の法定事由が存在したとしても、人員削減の対象者の選別について、以下のとおり一定の規制を行っています。

(1)人員削減を理由とする労働契約の解除が禁止される者
本法第42条では、労働者について以下に掲げる各事由のいずれかが存在する場合、本法第41条(人員削減)の規定に従い労働契約を解除してはならないとしています。

①職業病の危険性に触れる業務に従事した労働者に離職前職業健康診断を行わず、又は職業病が疑われる病人で診断中もしくは医学観察期間にある場合
②当該使用者において職業病を患い、又は業務上の事由により負傷し、かつ労働能力の喪失もしくは一部喪失が確認された場合
③病を患い、又は業務上の事由によらずして負傷し、規定の医療期間内にある場合
④女性労働者が妊娠、出産、授乳期間にある場合
➄当該使用者の下において勤続満15年以上で、かつ法定の定年退職年齢まで残り5年未満である場合
⑥法律、行政法規に規定するその他の場合

 これら①~⑥の事由に基づく労働契約の解除の禁止は、使用者からの予告解除(本法第40条)にも適用され、人員削減の場合に限らない重要な内容が含まれます。このため、①~⑥については改めて説明することとし、本稿では、下記(2)優先的に雇用を継続すべき者について概説します。

(2)優先的に雇用を継続すべき者
ア 本法の規定

 上記(1)の人員削減を理由とする労働契約の解除が禁止される者に加え、本法第41条第2項では、以下に掲げる者については、優先的に雇用を継続しなければならないとしています。

 ⅰ 当該使用者と比較的長期間の期間の定めのある労働契約を締結している者
 ⅱ 当該使用者と期間の定めのない労働契約を締結した者
 ⅲ 世帯に他の就業者がおらず、扶養が必要である老人又は未成年者がいる場合

イ 法令法規上の関連規定

全国的に適用される法令法規においても、上海市のみで適用される地方法規においても、上記ⅰ~ⅲの具体的な内容について規定したものはありません。

ウ 実務上の取り扱い

ⅰ 当該使用者と比較的長期間の期間の定めのある労働契約を締結している者

 まず、ⅰの者については、「比較的長期間」と規定されていますが、具体的に何年であれば「比較的長期間」に該当するというような絶対的な評価基準としてではなく、人員削減の対象者を選別するための相対的な評価基準(例えば、2年の者と1年の者がいた場合に2年の者を優先雇用するとの基準)として用いるべきであると解釈されています。

 また、「比較的長期間」との文言から労働契約期間の長短のみで判断され、労働契約期間が短い者から順番に人員削減の対象としなければならないようにも思えます。しかし、実際の裁判例の中には、ⅰの者が優先雇用されるのは同等の条件下で労働者を比較した場合という前提条件を設けるものがあり、部門、職責及び待遇等の条件が異なる労働者の間では、必ずしもⅰの者を優先的に雇用継続する必要はないとの解釈が可能です。

ⅱ 当該使用者と期間の定めのない労働契約を締結した者

 ⅱの者についても、実際の裁判例において、いわゆる「優先」とは、同等の条件下における「優先」であるべきであることを明示し、実質的な優先順位の判断がされています。すなわち、ⅱの労働者と期間の定めのある労働者に対する人員削減対象者の選別の判断が争われた裁判例において、第一審が、使用者が、期間の定めのある労働者が専門の技術操作証書を有することを理由に優先雇用する一方、ⅱの者を人員削減の対象とすることも不当ではないとの判断を下し、かつ第二審でも原審の判断を是認したものがあります。

ⅲ 世帯に他の就業者がおらず、扶養が必要である老人又は未成年者がいる場合

 ⅲの者については、まず中国の婚姻法第21条において父母は子に対し扶養の義務を負い、子は父母に対し扶養の義務を負うとされていることから、ここでいう「老人」とは父母を、「未成年者」とは「子」を指すものと解釈できます(この点について、弊所において上海市の関連当局に電話にてヒアリングを行ったところ、同趣旨の回答がありました)。

 次に、「扶養が必要である」との点については、実際の扶養の要否によって判断されており、実際の裁判例においても、子は既婚であり、母親は社会保険の収入があり、父親は既に他界していることを理由に、世帯に他の就業者がいないだけであって、「扶養が必要である老人又は未成年者がいる」との条件は満たさないとして、ⅲの者に該当するとの主張を斥けたものがあります。

 なお、ⅲの者については、同等の条件下でのみ優先されることを明示した裁判例は見当たりませんでした。この点について、ⅰの者及びⅱの者と同様、同等の条件下でのみ優先されると解釈することも可能であると考えられます。しかし、ⅲの者については、当該労働者の世帯にまで影響が及ぶため、各企業が実際に人員削減を実行する際には、事前に労働当局の意見を聴取し、労働当局の取り扱いを確認すべきであり、同等の条件下でのみ優先雇用すればよいとの判断を下すことには慎重を期すべきであると考えます。

2 本件
X社は、人員削減対象者の選別にあたって、上記1(1)のとおり、人員削減が禁止される者を対象者に含めないようにする必要があります。

また、上記1(2)のとおり、優先的に雇用を継続すべき者については、他の者よりも優先的に雇用を継続しなければなりません。なお、X社は、製造よりも販売に力を入れる経営方針に転換し、当該方針転換に伴い、主として製造部門の従業員の人員削減を検討しているとのことです。上記1(2)ⅰ及びⅱの裁判例に基づけば、X社は、仮に製造部門の従業員の中に期間の定めのない労働契約を締結している者や販売部門の従業員と比較して長期間の期間の定めのある労働契約を締結している者がいたとしても、必ずしもこれらの者を販売部門の従業員よりも優先的に雇用を継続する必要はないと考えられます。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第746号)に寄稿した記事です。