第400回 支払命令の強制執行の時効

 いわゆる「支払命令」とは、簡単に説明しますと、債権者から裁判所に申し立てが行われ、裁判所が審査を経て発した「債務者は金銭または財物を支払え」という命令のことを指します。

 例えば、債務者・乙が債権者・甲に10万台湾元(約41万円)の債務があり、返済を拒んでいる場合、甲は乙の借用書を根拠として裁判所に支払命令を申し立てることができ、裁判所は許可した後、乙に対して「乙は甲に対し10万元を支払わなければならない」という内容が記載された書面の命令を郵送します。支払命令の法的根拠は、民事訴訟法第508条第1項「債権者の請求が、金銭またはその他の代替物または有価証券の一定数量の給付を対象とする場合、督促手続きにより支払命令を発するよう裁判所に申し立てることができる」となります。

 民事訴訟法第521条第1項には「債務者が支払命令について法定期間内に適法に異議を申し出なかった場合、支払命令と確定判決は同一の効力を有する。」と規定されていましたが、当該条文は2015年7月に「債務者が支払命令について法定期間内に適法に異議を申し出なかった場合、支払命令は執行名義とすることができる」と改訂されており、現行法に従うと、支払命令は強制執行の効力を有するのみで、確定判決と同一の効力は有しません。

 注意が必要なのは、上記の条文の改訂の影響を受け、これに伴い支払命令の強制執行の時効も変更されているという点です。民法第137条には、「確定判決または確定判決と同一の効力を有するその他の執行名義により確定された請求権について、その元々の消滅時効期間が5年未満だった場合、中断により再び起算する時効期間は5年とする。」と規定されており、上記条文の改訂までは支払命令は確定判決と同一の効力を有していたため、請求権時効が短期の債権(例えば、小切手の債権の請求権時効は1年のみ)を根拠として債権者が支払命令を申し立てかつ裁判所の許可を得た場合、その元の請求権時効が一律に5年延長されることになっていました。しかし、上記条文の改訂後の条文に従うと、当該請求権時効は延長されません。

 弊所の顧客は、小切手債権を回収しようと裁判所に支払命令を申し立てることを別の法律事務所に依頼しましたが、担当弁護士が上記の時効の問題に注意していなかったため、支払命令を獲得した1年後、当該小切手債権の時効が既に完成してしまい、強制執行手続きをすることができなくなりました。そのため、債権回收作業を行うときは、この点にご注意ください。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。