第24回 労働契約の終了事由(1)~労働契約の期間満了~

Q:上海市所在の独資企業X社は、生産型企業として、自社工場で製品を製造し販売してきました。しかし、今年に入り業績があまりよくないため、リストラ(解雇)の実施までには至らないものの、労働契約期間の定めのある従業員は期間満了とともに退職してもらうことを考えています。
働契約期間の定めのある従業員について、期間が満了すれば退社させられるとの理解でよろしいでしょうか?例えば、期間満了時に妊娠中の従業員Aについてはどうでしょうか?
従業員との労働関係を精査していたところ、従業員Bについて、当初の期間の定めのある労働契約(期間2年)が終了したにもかかわらず、契約更新の手続は行われずに、更に2年が経過しようとしていることがわかりました。Bについて、更に2年(当初の労働契約からは4年)が経過する時点で退社させることができるでしょうか?

A:労働契約期間の定めのある従業員は、原則として期間が満了すれば退社させることができますが、例外も存在します。期間満了時に妊娠中のAについてもこの例外に該当するため、Aを期間満了時に退社させることはできません。
次に、Bについては、既に期間の定めのない労働契約を締結しているとみなされるため、当初の労働契約から4年が経過することを理由に退社させることはできません。

解説

1 労働契約の終了について
(1)労働契約の終了事由
 労働契約法(以下「本法」といいます)第44条は、労働契約が終了する場合について以下のとおり規定しています。

  • 労働契約の期間が満了した場合
  • 労働者が法に従い基本養老保険給付を受け始めた場合
  • 労働者が死亡し、又は人民法院から死亡を宣告され、もしくは失踪を宣告された場合
  • 使用者が法に従い破産宣告を受けた場合
  • 使用者が営業許可証を取消され、廃業もしくは取消を命じられ、又は使用者が繰上解散を決定した場合
  • 法律、行政法規に規定するその他の場合

 本件では、A及びBについて、上記①の「労働契約の期間が満了した場合」(以下「終了事由①」といいます)に該当するかが問題となりますので、当該事由について説明致します。

(2)終了事由①の内容
 終了事由①は「労働契約の期間が満了した場合」としています。当該事由によって終了するのは、期間の定めのある労働契約及び一定の業務上の任務の完成を期限とする労働契約です。
 なお、具体的な労働契約の終了日時は、労働契約の期間の最後の一日の24時が基準とされます(「労働契約制度の実行に関する若干問題についての労働部の通知」第5条第2項)。

(3)終了の例外
 原則は終了事由①が存在する場合には労働契約が終了しますが、その例外があります。

ア 終了の例外1(労働契約解除の制限事由がある場合)
 労働者が、前稿まで6回に亘り取り上げた以下の「労働契約解除の制限事由」に該当する場合、終了事由①が存在する場合であっても、労働契約は「労働契約解除の制限事由」がなくなるまで延長してから終了します(本法第45条本文)。

  • 職業病の危害に触れる業務に従事した労働者に離職前職業健康診断を行わず、又は職業病が疑われる病人で診断中もしくは医学観察期間にある場合
  • 当該使用者において職業病を患い、又は労災により負傷し、かつ労働能力の喪失もしくは一部喪失が確認された場合
  • 病を患い、又は業務外の理由で負傷し、規定の医療期間内にある場合
  • 女性従業員が妊娠、出産、授乳期間にある場合
  • 当該使用者の下において勤続満15年以上で、かつ法定の定年退職年齢まで残り5年未満である場合
  • 法律、行政法規に規定するその他の場合

イ 終了の例外2(期間の定めのない労働契約へ移行する場合
 労働契約終了の例外の2つ目として、期間の定めのない労働契約へ移行する場合が挙げられます。
 まず、本法第14条第2項では、以下に列挙する事由のいずれかに該当し、かつ労働者が労働契約の更新、締結を申し出、又は同意した場合は、労働者が期間の定めのある労働契約の締結を申し出た場合を除き、期間の定めのない労働契約を締結しなければならないとしています。

  • 労働者が当該使用者の下において、勤続満10年以上である場合
  • 使用者が初めて労働契約制度を実施し、又は国有企業を再編して労働契約を締結する時に、労働者が当該使用者の下において、勤続満10年以上であり、かつ法定の定年退職年齢まで残り10年未満である場合
  • 連続して期間の定めのある労働契約を2度締結し、かつ労働者が本法第39条(労働契約を即時解除できる場合) 及び第40条第1号、第2号(30日前の通知で労働契約を解除できる場合) に定める事由に該当せずに、労働契約を更新する場合

 次に、本法第14条第3項においても、期間の定めのない労働契約を締結したものとみなされる場合を規定しています。すなわち、労働契約の期間満了後も、労働者が元の使用者において引き続き勤務し、元の使用者が異議を示さなかった場合は、双方が元の条件で労働契約を継続して履行しているものとみなすとされている(「労働紛争事件の審理における法律適用上の若干の問題に関する解釈」第16条)ところ、この場合に、書面契約を締結されずに、労使関係が継続された日から起算して満1年が経過すると、満1年が経過した日をもって期間の定めのない労働契約を締結したものとみなされる旨が規定されています。なお、書面契約が締結されない場合、労使関係が継続された日から起算して満1か月が経過すると、使用者は、満1か月が経過した日の翌日から書面の労働契約締結までの間(最長満1年が経過する日の前日まで)、毎月2倍の賃金も支払わなければなりません(本法第82条第1項)。

2 本件
 まず、上記1(3)で言及したとおり、終了事由①による労働契約の終了には例外が存在します。このため、労働契約期間の定めのある従業員については、原則として期間が満了すれば退社させることができるものの、例外事由が存在する場合には、退社させることができません。

 Aは期間満了時に妊娠中であり、上記(3)ア「終了の例外1」のⅳに該当するため、Ⅹ社は、Aを期間満了時に退社させることはできません(授乳期間が終わるまで労働契約が延長されます)。

 次に、Bについては、期間満了後もX社で勤務を継続し、書面契約が締結されないまま既に満1年が経過しています。このため、上記1(3)イ「終了の例外2」で言及したとおり、X社とBは期間の定めのない労働契約が締結したものとみなされます。期間の定めがない以上、Bについては期間の経過が 意味を有さず、当初の労働契約から4年が経過することを理由にBを退社させることもできません。なお、X社は、Bに対して、当初の労働契約の期間が満了した日から起算して満1か月が経過した日の翌日から満1年が経過する日の前日までの間の賃金を2倍で支払う必要があります。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第784号)に寄稿した記事です。