第29回 経済補償金(2)~支払事由2(使用者による労働契約の解除)~

Q:上海市所在の独資企業X社は、従業員A、B及びCについて以下の事由に基づいて、X社から労働契約を解除することを検討しています。

 A:合理的な理由もなく連続5日の無断欠勤を行ったため(X社の就業規則では無断欠勤を明確に禁止している)
 
B:営業職として入社したものの営業成績が全く上がらず、外部講師を招いた研修を行っても営業成績が上がらないため
 C:X社が実施した部門の閉鎖に伴いCとの労働契約で約定されたCの職務が消滅してしまい、またCとの協議を経てもCの職務内容の変更について合意できなかったため 

 上記事由で労働契約を解除した場合、A、B及びCに対して経済補償金を支払う必要があるでしょうか?

A:X社は、Aについては経済補償金を支払う必要はありません。
他方で、X社は、仮にB及びCの主張する理由が事実どおりである場合には、B及びCに対して経済補償金を支払う必要があります。

解説

1 経済補償金について

(1)経済補償金の支払事由
 労働契約法(以下「本法」といいます)第46条は、経済補償金の支払いが必要な場合について以下のとおり規定しています。

①労働者が本法第38条の規定に従い労働契約を解除した場合
②使用者が労働者に対し労働契約の解除を申し出、かつ労働者との協議により労働契約解除の合意に達した場合
使用者が本法第40条(予告解除)の規定に従い労働契約を解除した場合
使用者が本法第41条第1項(整理解雇)の規定に従い労働契約を解除した場合
⑤期間を定めた労働契約を期間満了により終了した場合
⑥本法第44条第4号(破産宣告)、第5号(営業許可証の取消等)の規定に従い労働契約を終了した場合
⑦法律、行政法規に定めるその他の事由が発生した場合

 上記の支払事由の中では、「使用者が本法第40条(予告解除)の規定に従い労働契約を解除した場合」及び「使用者が本法第41条第1項(整理解雇)の規定に従い労働契約を解除した場合」が、使用者による労働契約の解除と関係があることがわかります。

(2)使用者による労働契約の解除と経済補償金の要否
 それでは、具体的にいかなる事由によって使用者が労働契約を解除した場合に経済補償金の支払いが必要になるのでしょうか?
 本法が規定する使用者による労働契約の解除事由と経済補償金の要否は以下のとおりです。

【使用者による労働契約の解除と経済補償金の要否】

 

解除事由

条文

要否

i           

試用期間において採用条件に不適格であることが証明された場合

本法第39条第1号

ii          

使用者の規則制度に著しく違反した場合

本法第39条第2号

iii        

重大な職務怠慢、私利のための不正行為があり、使用者に重大な損害を与えた場合

本法第39条第3号

iv         

労働者が同時に他の使用者と労働関係を確立しており、使用者の業務上の任務の完成に

重大な影響を与え、又は使用者から是正を求められたもののこれを拒否した場合

本法第39条第4号

v          

本法第26条第1項第1号に規定する事由により労働契約が無効となった場合

本法第39条第5号

vi         

法に従い刑事責任を追及された場合

本法第39条第6号

vii     

労働者が病を患い、又は業務外の理由で負傷し、規定の医療期間の満了後も元の業務に

従事できず、使用者が別に手配した業務にも従事することができない場合

本法第40条第1号

viii    

労働者が業務に不適任であり、研修又は勤務部署の調整を経ても依然として業務に不適

任である場合

本法第40条第2号

ix       

労働契約の締結時に拠り所とした客観的状況に重大な変化が生じ、労働契約の履行が不

可能になり、使用者と労働者との間で協議を経ても労働契約内容の変更について合意に

達することができない場合

本法第40条第3号

 

x        

法定の要件に従った人員削減がなされる場合

本法第41条第1項

 以上のとおり、使用者によって労働契約が解除されるすべての場合において、経済補償金が必要となるわけではありません。

 一般的には労働者に過失がある事由の場合には経済補償金は不要過失がない事由の場合には経済補償金が必要と言われていますが、誤解が生じやすいと思われるのは以下の点です。

  • 労働者の私傷病が原因で労働契約が解除される場合も必要(上記ⅶ)
  • 労働者が業務に不適任であることが原因で労働契約が解除される場合も必要(上記ⅷ)

 また、経済補償金の要否は、最終的にいかなる事由によって労働契約が解除されたかによって決まります。例えば、ある裁判例では、使用者が労働者との間の労働契約で約定していた職務が、使用者による部門閉鎖に伴い消滅し、また労働者との間で協議を経ても労働契約内容の変更について合意に達することができなかったとの状況において、使用者が当該状況を理由に労働契約を解除した場合について、上記ⅸに該当する(経済補償金の支払いが必要)と判断しています。

 他方で、例えば、ある裁判例では、経営状況の悪化によってある生産現場における生産を停止したため、使用者が当該生産現場の労働者を同じ敷地内の他の生産現場に異動するよう指示したところ、労働者が当該異動の指示に従わずに連続5日の無断欠勤をしたとの状況において、使用者が当該状況を理由に労働契約を解除した場合について、上記ⅱに該当する(経済補償金の支払いが不要)と判断しています。当該裁判例では、一見すると、「労働契約の締結時に拠り所とした客観的状況に重大な変化が生じ」(上記ⅸ)たとの事実があるようにも思えますが、最終的な労働契約の解除事由はⅱと判断されており、このために経済補償金の支払いが不要とされている点が注目に値します。

2 本件

 まずAについては、合理的な理由もなく連続5日の無断欠勤を行ったことが労働契約解除の事由とされています。X社の就業規則では無断欠勤を明確に禁止しているとのことであり、また合理的な理由もない連続5日の無断欠勤であれば、この事由は上記1(2)ⅱの「使用者の規則制度に著しく違反した場合」に該当すると考えられます(上記1(2)で言及した脚注5の裁判例においても、連続5日の無断欠勤を行ったことが、「使用者の規則制度に著しく違反した場合」に該当すると判断しています)。したがいまして、Aについては経済補償金を支払う必要はないと考えられます。

 次にBについては、営業職として入社したものの営業成績が全く上がらず、外部講師を招いた研修を行っても営業成績が上がらないことが労働契約解除の事由とされています。営業職として入社したものの営業成績が全く上がらないのであれば、Bは営業職に不適任であると考えられ、またBは外部講師を招いた研修を行っても営業成績が上がらないとのことですので、この事由は、上記1(2)ⅷの「労働者が業務に不適任であり、研修・・・を経ても依然として業務に不適任である場合」に該当すると考えられます。したがいまして、Bについては経済補償金を支払う必要があると考えます。

 最後にCについては、X社が実施した部門の閉鎖に伴いCとの労働契約で約定されたCの職務が消滅してしまい、またCとの協議を経てもCの職務内容の変更について合意できなかったことが労働契約解除の事由とされています。X社が実施した部門の閉鎖に伴いCとの労働契約で約定されたCの職務が消滅したことは労働契約の締結時に拠り所とした客観的状況に重大な変化が生じたといえ、かつCとの協議を経てもCの職務内容の変更について合意できなかったとのことですので、この事由は、上記1(2)ⅸの「労働契約の締結時に拠り所とした客観的状況に重大な変化が生じ、労働契約の履行が不可能になり、使用者と労働者との間で協議を経ても労働契約内容の変更について合意に達することができない場合」に該当すると考えられます。したがいまして、Cについても経済補償金を支払う必要があると考えます。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第806号)に寄稿した記事です。