第424回 ストーカー防止規制法

 台湾で注目を集めている「ストーカー防止規制法(以下『本法』といいます)」がまもなく2022年6月から施行されます。本法の重要な部分は以下のとおりです。

一、「ストーカー行為」の定義について

 本法第3条によれば、いわゆるストーカー行為とは、人員、車両、工具、設備、電子通信、インターネットまたはその他の方法により、特定の者に対してその意に反する、性または性別に関する行為を繰り返しまたは持続的に行うことにより、その者に恐怖心を与え、その日常生活または社会活動に影響を及ぼすに足ることをいいます。

 また、同条では、行動監視、尾行、差別・軽視、通信による嫌がらせ、不当な求愛、物品の送り付け、名誉棄損および個人情報の冒用など、8種類のストーカー行為の態様を列挙しています。

二、警察機関が事件の届出を受理した後に講じなければならない措置

 本法第4条では「警察機関はストーカー事件を受理した後、直ちに調査し、書面の記録を作成しなければならず、調査の結果、ストーカー犯罪の疑いがある場合、職権または被害者の請求に基づき、行為者に対し書面の警告を交付し、また、必要な場合、その他被害者を保護するための適切な措置を講じなければならない。行為者または被害者は、警察機関による書面の警告の交付または不交付に不服がある場合、当該決定を受け取ってから10日以内に、原警察機関を通じてその上のクラスの警察機関に異議を表明することができる」と規定しています。

三、裁判所による保護命令の発令

 本法第5条ないし第17条によれば、行為者が書面の警告の交付を受けてから2年以内に再びストーカー行為をした場合、被害者は裁判所に保護命令を申し立てることができるほか、検察官または警察機関も職権に基づき裁判所に保護命令を申し立てることができます。

 保護命令事件の審理は非公開で、別々に証人尋問を行うことができ、必要な場合は、法廷外での証人尋問やビデオリンク方式による証人尋問も可能です。また、公示する必要のある関係文書についても被害者の身分を識別するに足る情報を開示することはできません。

 保護命令の有効期間は最長2年であり、延長する場合、1回につき2年を超えて延長することはできません。

四、ストーカー行為者に対する処罰

 本法第18条および第19条によれば、ストーカー行為を実施した場合、1年以下の有期懲役、拘留に処され、もしくは10万台湾元(約44万円)以下の罰金を科され、またはこれらを併科されます。

 凶器またはその他の危険物を携帯してストーカー犯罪を行った場合には、処罰が重くなります。また、裁判所の保護命令に違反した行為者は、3年以下の有期懲役、拘留に処され、もしくは30万台湾元以下の罰金を科され、またはこれらを併科されます。

 本法において規範化されているストーカー行為の範囲は非常に広く、6月以降に大量に出現するストーカー事件に対応するのに現有の警察力では不十分な可能性が極めて高いと話す警官もいます。

 従って、本法施行後の実務における対応状況は注目に値します。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。