第34回 集団契約(2)~集団契約締結、変更、解除のプロセス~

Q:上海市所在の独資企業X社は、従業員からの要望に応じて集団契約の締結を検討することとなりました。
集団契約締結のプロセスはどのようなものでしょうか?また、集団契約締結後、変更、解除の必要が生じることもあると思いますが、締結した集団契約の変更、解除のプロセスはどのようなものでしょうか?

A:集団契約締結のプロセスは以下のとおりです。
①集団協議における代表者(協議代表)の選出→②交渉前の準備→③協議及び協議による集団契約案の合意→④従業員側での集団契約案についての討論、採択→⑤双方の首席代表による署名→⑥労働行政部門への届出→⑦労働行政部門による審査、登記→⑧効力が生じた集団契約の公開

また、集団契約変更のプロセスは、集団契約締結のプロセス①~⑧と同じであり、集団契約解除のプロセスは、集団契約締結のプロセス①~④と同じであると考えます。

解説

1 集団契約締結のプロセス

(1)集団協議の開始
まず、全国的に効力を有する集団契約規定(以下「本規定」といいます)第32条及び上海市の規定である上海市集団契約条例(以下「上海市条例」といいます)第15条は、以下の内容を規定しています。

  • 労使のいずれも、集団契約の締結について書面の形式で相手側に集団協議の開催要求を提出できる
  • 一方当事者が集団協議の開催要求を提出した場合、他方の当事者は集団協議の要求を受領した日から20日(上海市条例では15日)以内に書面の形式で回答しなければならず、正当な理由なくして集団協議の開催を拒絶してはならない

なお、上海市条例第39条では、使用者側が正当な理由なく集団協議を拒絶する又は引き延ばす場合、市及び区、県の総労働組合が、改正意見書を作成し、企業に是正を要求できる旨、企業が是正しない場合、上海市の公共信用情報管理の関連規定に基づき、上海市人力資源及び社会保障部門が当該情報を上海市の公共信用情報サービスプラットフォームに掲載する旨が規定されています。

(2)集団契約締結のプロセス
集団契約の締結プロセスは以下のとおりです。

①集団協議における代表者(協議代表)の選出→②交渉前の準備→③協議及び協議による集団契約

案の合意→④従業員側での集団契約案についての討論、採択→⑤双方の首席代表による署名→⑥労

働行政部門への届出→⑦労働行政部門による審査、登記→⑧効力が生じた集団契約の公開


① 集団協議における代表者(協議代表)の選出
 使用者と労働者双方がそれぞれ集団協議における代表者である協議代表を選出します。
まず、その人数は同数でなければならず、少なくとも3人以上選出し、1名の首席代表を確定する必要があります(本規定第19条第2項)。
次に、従業員側の協議代表は、使用者に労働組合が存在する場合には労働組合から選出され、労働組合が存在しない場合には従業員による民主的な推薦及び従業員の半数以上の同意を経て選出されます(本規定第20条第1項)。これに対して、使用者側の協議代表は、使用者の法定代表者が指名して派遣します(本規定第21条)。なお、集団協議の当事者双方の首席代表は、書面で外部の専門人員(弁護士等の専門家が想定されているものと思われます)に自分側の協議代表になるよう委託できますが、その数は自分側の代表の3分の1を超えてはなりません(本規定第23条第1項)。

また、首席代表は、従業員側では、ⅰ労働組合の主席、ⅱ労働組合の主席により書面で委託されたその他の協議代表、ⅲ労働組合の主席が空席の場合の労働組合の主要責任者、又はⅳ労働組合がない会社において協議代表の中から民主的に推薦して選出された者が担当し(本規定第20条第2項)、使用者側では、ⅰ使用者の法定代表者、又はⅱその書面での委託を受けたその他の管理者が担当します(本規定第21条)。なお、労使いずれの首席代表も、当該使用者の人員でない者(会社外の専門人員)が代理することはできません(本規定第23条第2項)。

② 交渉前の準備
 協議代表は、交渉前の次の各号に掲げる準備作業を行わなければなりません(本規定第33条)。

 ⅰ集団協議の内容に関係する法律、法規、規章及び制度を熟知しておく
 ⅱ集団協議の内容に関係する状況及び資料を把握し、使用者及び従業員の交渉の目的に対する意見をそれぞれ使用者及び従業員から収集する
 ⅲ集団協議の議題を制定する。集団協議の議題は、交渉を申し出た側が起草することができ、また、当事者双方が代表を派遣して共同で起草することもできる
 ⅳ集団協議の日時、場所等の事項を確定する
 ⅴ集団協議の記録係を担当させる非協議代表1名を共同で確定する

③ 協議及び協議による集団契約案の合意
 集団協議は、当事者双方の首席代表が主宰して実施されます。当事者双方による討論を経て合意に達した場合には、当事者双方で集団契約案を作成し、双方の首席代表が署名します(本規定第34条)。

④ 従業員側での集団契約案についての討論、採択
 集団協議によって合意された集団契約案は、従業員側(従業員代表大会又は全従業員)における討論に付されます。集団契約案の討論には、全従業員代表又は全従業員の3分の2以上の者が出席しなければならず、また採択には、全従業員代表又は全従業員の半数以上の者の同意が必要です(本規定第36条)。

⑤ 双方の首席代表による署名
 集団契約案について従業員側で採択された後、集団協議の当事者双方の首席代表が正式に集団契約に署名をします(本規定第37条)。

⑥ 労働行政部門への届出
 使用者は、双方の首席代表が署名した日より10日以内に、労働行政部門に集団契約の届出を行い、その審査を受けなければなりません(労働契約法(以下「本法」といいます)第54条第1項、本規定第42条第1項)。

また、仮に労働行政部門から異議が出された場合、当該異議が出された事項について集団協議を経て、集団契約を新たに締結したときは、使用者は、労働行政部門に集団契約の届出を行い、再度その審査を受けなければなりません(本規定第46条)。

⑦ 労働行政部門による審査、登記
 労働行政部門は、届出がなされた集団契約について審査した上で、異議がなければ登記を行います(本規定第42条第2項)。
労働行政部門は、異議がある場合、書面を受領した日から15日以内に「審査意見書」を当事者双方の協議代表に送付します(本規定第45条第1項)
なお、労働行政部門が、集団契約書面を受領した日から15日以内に異議を出さない場合、集団契約は直ちに効力を生じます(本法第54条第1項、本規定第47条)。

⑧ 効力が生じた集団契約の公開
 効力が生じた集団契約については、その発効日より、協議代表が速やかに然るべき形式で自らの人員全体へ公開します(本規定第48条)。

2 集団契約変更、解除のプロセス

続いて、締結された集団契約の変更、解除のプロセスです。

(1)集団契約の変更、解除事由
 まず、集団契約は、当事者双方の協議代表が協議により合意に達した場合、又は次の各号のいずれかに該当する場合に、変更し、又は解除することができます。

ⅰ使用者が合併、解散、破産等の原因により、集団契約を履行できなくなった場合
ⅱ不可抗力等の原因により、集団契約の全部又は一部を履行できなくなった場合
ⅲ集団契約で約定する変更又は解除条件が生じた場合
ⅳ法律、法規又は規章で規定するその他の場合

(2)集団契約変更、解除のプロセス
 本規定は、集団契約の変更又は解除には本規定の「集団協議の手続」(本規定第4章(第32条~第35条))を適用する旨を規定しており(本規定第41条)、また、集団契約を変更した場合にも、労働行政部門に届出を行い、審査を受ける旨を規定しています(本規定第42条)。

このため、集団契約変更のプロセスは、集団契約締結のプロセス①~⑧と同じであると考えられます。

また、集団契約解除のプロセスは、本規定の「集団協議の手続」(本規定第4章(第32条~第35条))がカバーする集団契約締結のプロセス①~④と同じであると考えます。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第824号)に寄稿した記事です。