第46回 会社の権力機関(株主会)

Q:日本企業X社は、中国において、中国企業Y社と合弁会社Z社(有限責任会社)を設立しました。
持分割合はX社が30%、Y社が70%です。
 Y社が選任したZ社の董事長であるAはZ社の株主会を招集し、勝手にZ社の経営方針や投資計画を決定する決議を行っていました。
AはZ社の社内掲示板に株主会の通知をしていたと主張をしていますが、X社は株主会について何ら通知がされておらず、議決権を行使できていません。このようなZ社の株主会の決議に問題はないのでしょうか?

A:株主に株主会の会議の通知がされない中でされたZ社の株主会の決議は、招集手続についての瑕疵があり取り消される可能性が高いです。

 解説

1 総論 
 従来の中外合弁会社では、中外合弁企業法に基づき、会社の意思決定は董事会により行われていました(中外合弁企業法第6条第1項、第2項)。中外合弁企業法は外商投資法の施行により失効したものの、2024年12月31日までは従来の董事会による意思決定方法を維持することができます(外商投資法第42条第1項、第2項)。しかし、それは限られた期間内の経過措置ですので、今後は株主会を設置し、株主会の議事や議決に関する規則を定め、現在の権力機関である董事会の権限を承継させる必要があります。そこで今回は、株主会の具体的な規定について、日系企業の多くが採用している有限責任会社を例に説明していきます。

2 株主会の権限
(1)権限の内容
 中国の有限責任会社の機関については、最高意思決定機関が株主会(中国会社法第36条)、経営の執行機関が董事会(設置が無い場合は執行董事)(中国会社法第44条、第50条)、経営の監督機関が監事会(設置が無い場合は監事)(中国会社法第51条)となっています。
 株主会は、全株主によって構成される有限責任会社の最高意思決定機関であり、以下のような広い権限を有しています(中国会社法第37条第1項)。

①会社の経営方針及び投資計画を決定すること
②従業員代表でない者が務める董事及び監事を選出及び更迭し、董事及び監事の報酬に関する事項を決定すること
③董事会の報告を審議し承認すること
④監事会又は監事の報告を審議し承認すること
⑤会社の年度財務予算案及び決算案を審議し承認すること
⑥会社の利益配当案又は欠損補填案を審議し承認すること
⑦会社の登録資本金の増加又は減少について決議を行うこと
⑧社債発行について決議を行うこと
⑨会社の合併、分割、解散、清算又は会社形態の変更について決議を行うこと
⑩会社定款を修正すること
⑪会社定款に定めるその他の権限

(2)権限行使の方式
 株主会は、原則として株主会の会議を招集して上記のような権限を行使しなくてはなりません。
しかし、全株主が書面により全員一致で同意した場合は、株主会の会議を招集せずに、全株主が書面に署名、捺印して決議をすることができます(中国会社法第37条第2項)。
 また、権限を行使するには、中国会社法第38条から第43条及び会社定款の関連規定が定める手続を遵守する必要があります。

(3)一人有限責任会社の例外
 株主が一人である一人有限責任会社の場合には、株主会を設置する必要がありません。そのため、一人有限責任会社が上記のような権限を行使するときは、書面によらなければならず、かつ株主が署名をして会社に備え置かなければなりません(中国会社法第61条)。

3 株主会の招集手続
(1)定期会議
 株主会の会議は定期会議臨時会議に分かれ、定期会議は会社定款の定める期日に開催しなければなりません(中国会社法第39条第1項、第2項)。

(2)招集及び主宰者
 最初の株主会の会議は最も多く出資した株主が招集し主宰します(中国会社法第38条)。
通常、最初の株主会では董事会と監事会の選挙を行う必要があります。2回目以降の株主会は、下記順序で定められた各機関又は株主により招集、主宰されます。

①有限責任会社に董事会が設置されている場合は、董事会が株主会の会議を招集し、董事長が主宰します(中国会社法第40条第1項)。董事長が職務を履行できないとき、又は職務を履行しないときは、副董事長が主宰します。
副董事長が職務を履行できない、又は職務を履行しないときは半数以上の董事が共同で推薦する1名の董事が主宰します(中国会社法第40条第1項)。
株主の人数が比較的少なく、又は規模が比較的小さい有限責任会社は、董事会を設置せず執行董事を置くことができます(中国会社法第50条第1項)。そのため、董事会が設置されていない場合は、執行董事が招集し主宰します(中国会社法第40条第2項)。

②董事会又は執行董事が招集の職責を履行できない又は履行しないときは、監事会(設置していない場合は監事)が招集し主宰します(中国会社法第40条第3項前段)。

③監事会又は監事が招集及び主宰しないときは、10分の1以上の議決権を代表する株主が自ら招集し主宰することができます(中国会社法第40条第3項後段)。

(3)株主会の通知
 株主会の会議の招集をする際には、会議の15日前に全株主に対して通知をしなければなりません。但し、会社定款に別の定めがある又は全株主が別の約定をした場合はこの限りではありません(中国会社法第41条第1項)。

(4)開催場所
 開催場所については、中国会社法には具体的な規定がなく、会社定款でこれを定めることができます。通常、法律に明文規定がないものは会社定款等で自由に定められるのが原則であり、支配株主が明らかに悪意をもって、特定の株主の議決権を排除するような株主権を濫用する状況が存在しない場合は、会社自治の事項として定めることができます。実務上は、会社所在地で株主会を開催することが通常です。  

4 株主会の議事方式及び議決手続
(1)総論 
株主会の議事方式と議事手続は、中国会社法に規定がある場合を除いて、会社定款により規定されます(中国会社法第43条)。

(2)議決権
株主の議決権は、株主の出資比率に基づいて行使します。但し、会社定款に別の定めがある場合はこの限りではありません(中国会社法第42条)。
 そのため、出資比率ではなく一人一票方式とすることも可能です。

(3)重大事項の決議
 中外合弁企業法においては、登録資本の増加・減少、会社定款の修正等の会社の重大事項の決定権は董事会にあり、出席董事の全員一致により決議するものとされていました(中外合弁企業法実施条例第33条)。
これに対し、中国会社法においては、重大事項の決定権は株主会にあり、3分の2以上の議決権を有する株主により決議されます(特別決議といいます)。この特別決議が求められる事項は、①会社定款の修正、②登録資本の増加又は減少、③合併、④会社分割、⑤解散、⑥会社形態の変更です(中国会社法第43条2項)。
 これらの重大事項以外については、会社定款により自由に規定することができ、株主全員の一致による決議や、特定の株主に否決権を与えることも可能です。

5 株主会決議の瑕疵
(1)株主会決議の取消請求
 株主会が決議した内容が法律又は行政法規に違反する場合には、無効となります。また、株主会の招集手続又は議決方式が法律、行政法規又は会社定款に違反する場合、又は決議の内容が会社定款に違反する場合は、株主は決議が出された日から60日以内に、人民法院に株主会決議の取消を請求することができます(中国会社法第22条第1項、第2項)。

(2)裁量棄却
 しかし、会議の招集手続又は議決手続に軽微な瑕疵があるにすぎず、決議に対し実質的な影響がない場合には株主会決議の取消請求が裁量的に棄却される可能性があります(会社法適用の若干問題に関する規定(四)第4条)。

6 本件の検討
 本件では、招集手続について株主会の会議の通知がなされていません。Z社が行ったのは会社の掲示板内に公告を貼ったのみで、X社は通知を受けておらず、事実上株主会の会議に関与する権利を奪われています。
 そのため、本件の通知の方式には瑕疵が存在し、株主会の会議の招集手続は違法となるため、中国会社法第22条第2項によって、本件の決議は取り消される可能性が高いと考えられます(類似の裁判例でも同旨の判断がされています)。

 なお、軽微な瑕疵に過ぎず、決議に影響がないため裁量棄却されるべきというZ社、Y社の反論も考えられるところです。たしかに通知期間が1日少なかったにすぎなかったことや、わずか2日前の通知であったにもかかわらず議決権を行使できたことを理由に裁量棄却をした裁判例がありますが、本件では通知をしておらずX社が議決権を行使できていないのであり、裁量棄却が認められる可能性は低いと考えられます。

このような株主会決議の瑕疵に関する訴えについては、次回詳しく解説していきます。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第870号)に寄稿した記事です。