論文の執筆を代行した場合の法的責任

最近、台湾中の注目を集めている「政治家の林氏(以下『林氏』といいます)が他人の論文を盗用した」問題について、新たな進展がありました。台湾メディアの報道によりますと、「林氏は自身の論文の執筆をアシスタントに代行させたのであって、林氏自身が他人の修士論文を盗用したわけではない」とのことです。

本件の概要は次のとおりです。

林氏は2022年11月26日に行われる桃園県知事選挙に出馬する予定でしたが、先日、何者かが「林氏の台湾大学国家発展研究所の修士論文は、余氏という別人の修士論文を盗用したものだ」と告発しました。林氏は台湾において知名度が非常に高く、良いイメージを持たれているため、当該論文盗用問題は台湾社会全体の高い関心を集め、台湾大学が盗用の事実の有無を調査することとなりました。

台湾大学は、1カ月余りの調査を経て、2022年8月10日、「林氏の論文とそれよりも早く発表されている余氏の論文の内容は、誤字を含め、高度な重複が存在している」、「台湾大学は林氏に対し説明会への参加を3回要請したが、林氏はいずれも出席を拒否した」等の理由により、林氏が余氏の論文を盗用した情状は重大であると認定し、同日に林氏の修士学位を取り消しました。

しかしながら、最近、台湾メディアが「林氏は自身の論文の執筆をアシスタントに代行させたのであって、林氏自身が他人の修士論文を盗用したわけではない」と報道しました。

もしこの報道が事実であれば、当該アシスタントは30万台湾元以上100万台湾元以下の過料に処されます。その法的根拠は学位授与法第18条第1項第2号「次に掲げる状況のいずれかに該当する場合、行為者又は責任者を30万台湾元以上100万台湾元以下の過料に処するものとし、かつ1回ごとに処罰することができるものとする。二、論文、作品、業績証明、書面報告、技術報告又は専門実務報告につき、実際に執筆を代行した場合、又は書き写せるよう口述、映像等によるカンニング行為をした場合」です。

また、当該アシスタントが余氏等の論文を盗用したのであれば、他人の著作権を侵害したという刑事責任も発生します。法的根拠は著作権法第91条第1項「無断で複製の方法をもって他人の著作財産権を侵害した場合、3年以下の有期懲役、拘留に処し、又は75万台湾元以下の罰金を科し又は併科する」です。

台湾において、論文の執筆代行、盗用は道徳的な問題であるばかりでなく、上述のとおり違法行為でもありますので、特にご留意ください。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修