第47回 会社決議の瑕疵

Q:日本企業X社は、中国において、中国企業Y社と合弁会社Z社(有限責任会社)を設立しました。
持分割合はX社が30%、Y社が70%です。
 Y社が選任したZ社の董事長であるAが、Z社の株主会を招集し勝手に決議をしていたようですが、X社がこの事実を知ったのは決議から3か月が経った後でした。
X社は株主会について何ら通知をされておらず、議決権を行使できていません。AはZ社の株主会を開催したといっていますが、議事録も残っておらず、X社としては株主会を開催しないで決議したのではないかと考えています。

このようなZ社の株主会の決議に問題はないのでしょうか?

A:株主会を開催しないで決議をしており、決議の不成立の瑕疵があると考えられるため、株主であるX社は株主会決議の不成立の確認の訴えをすることが可能です。

解説

1 総論 
会社決議は、株主会や董事会といった会社の機関が会社の意思決定をする行為です。もし会社決議の形成過程に手続上又は内容上の瑕疵が存在する場合には、会社、株主、第三者の権益に重大な影響を与えるため、瑕疵がある場合の決議の効力は日系企業の実務においてもしばしば問題となります。

そこで今回は、会社決議の瑕疵について、日系企業の多くが採用している有限責任会社を例に説明していきます。

2 会社決議の瑕疵
(1)中国法の規定
 会社決議の瑕疵の類型は3種類あります。まず、中国会社法には、会社決議の無効(中国会社法第22条第1項)と、会社決議の取消し(中国会社法第22条第2項)の類型が規定されています。

 また、会社法適用の若干問題に関する規定(四)には、会社決議の不成立の類型が新たに規定されています(会社法適用の若干問題に関する規定(四)第5条)。

(2)日本法との違い
 日本会社法においても、株主総会の決議の不存在確認の訴え(日本会社法第830条第1項)、株主総会の決議の無効確認の訴え(日本会社法第830条第2項)、株主総会の決議の取消しの訴え(日本会社法第831条第1項)の3種類が規定されています。

しかし、日本会社法では、これらの規定は株主総会の決議の瑕疵の場合に限定されており、取締役会の決議の瑕疵については具体的な規定がありません。
一方、中国会社法においては、瑕疵ある会社決議の効力に関する規定は、株主総会のみならず董事会(日本の取締役会に相当)の決議の瑕疵についても適用されます。

(3)会社決議の取消し
ア 訴え
 中国会社法第22条第2項では、会社決議の取消しの訴えについて規定しています。決議取消しの訴えについては、他の2種類の訴えと異なり訴訟の主体が株主に限定されている点に違いがあります。

イ 取消事由
 会社決議の取消事由は以下の3つです。

(ア)決議を行った会議の招集手続が法律、行政法規又は会社定款の規定に違反する場合

例えば、以下のような招集手続の問題がある場合です。

・議決権のある株主又は董事に会議の通知をしない場合
・期限内に通知をせず、株主又は董事が会議に参加する機会を害する場合
・招集者が招集手続に違反して、勝手に会議を招集する場合
・議事録に瑕疵がある場合(議事録に漏れがあり株主又は董事の判断や選択に影響がある等)

(イ)決議を行った会議の決議方法が法律、行政法規又は会社定款の規定に違反する場合

例えば、以下のような決議方法の問題がある場合です。

・決議事項に特別の利害関係のある株主又は董事が決議に参加している場合
・決議に参加する者が議決資格を欠いている場合
・議決権を行使する代理人に代理資格がない場合
・決議の過程が不公正な場合

(ウ)決議の内容会社定款に違反する場合

会社定款は会社組織と活動の基本的な準則であり、会社の組織、運営、解散及び株主との権利義務関係について規定します。そのため、会社定款は株主に対しても拘束力を有し、これに反する内容の決議は取消事由となります。

ウ 期限
 このような瑕疵の場合は、違反が比較的軽微で会社や株主の利益を害する程度が小さいです。そのため、決議の取消しの訴えは決議から60日以内に提起する必要があります(中国会社法第22条第2項)。

(4)会社決議の無効
ア 訴え
 会社の株主、董事、監事等は、株主会又は株主総会、董事会決議の無効の確認を請求することができます(会社法適用の若干問題に関する規定(四)第1条)。

イ 無効事由
 株主会又は株主総会、董事会の決議内容法律、行政法規に違反する場合は、会社決議は無効となります(中国会社法第22条第1項)。

ウ 期限
 会社決議の無効確認の訴えについては、中国会社法第22条第2項の期限規定が適用されず、会社決議の取消しの訴えのように決議から60日以内に提起しなければならない制限を受けません

(5)会社決議の不成立
ア 訴え
 従前の中国会社法では、会社決議の瑕疵の効力については無効と取消しの類型のみが規定されていました。しかし、会社法適用の若干問題に関する規定(四)では、新たに会社決議の不成立の類型が規定されています。

会社の株主、董事、監事等は、株主会又は株主総会、董事会決議の不成立の確認を請求することができます(同規定第1条)。

イ 不成立事由
 株主会又は株主総会、董事会決議に、以下のような瑕疵がある場合は、会社決議は不成立となります(同規定第5条)。

①会社が会議を開催していない場合
②会議において決議事項について決議が行われていない場合
③会議に出席した人数又は株主の保有する議決権が会社法又は会社定款に合致していない場合
④会議の議決結果が会社法又は会社定款の規定する採択の比率に達していない場合
➄決議の不成立をもたらすその他の状況

ウ 期限
 会社決議の不成立確認の訴えについても、中国会社法第22条第2項の期限規定が適用されず、会社決議の取消しの訴えのように決議から60日以内に提起しなければならない制限を受けません

会社決議の瑕疵の類型のまとめ 

類型

法的根拠

原告

法定事由

期限

決議取消し

中国会社法第22条第2項、会社法適用の若干問題に関する規定(四)第4条

株主

①決議を行った会議の招集手続が法律、行政法規又は会社定款の規定に違反する場合

②決議を行った会議の決議方法が法律、行政法規又は会社定款の規定に違反する場合

③決議の内容が会社定款に違反する場合

決議から60日以内(中国会社法第22条第2項)

決議無効

中国会社法第22条第1項、会社法適用の若干問題に関する規定(四)第1条

株主、董事、監事等

決議内容が法律、行政法規に違反する場合

決議から60日以内の制限を受けない

決議不成立

会社法適用の若干問題に関する規定(四)第1条、第5条

①会社が会議を開催していない場合

②会議において決議事項について決議が行われていない場合

③会議に出席した人数又は株主の保有する議決権が会社法又は会社定款に合致していない場合

④会議の議決結果が会社法又は会社定款の規定する採択の比率に達していない場合

⑤決議の不成立をもたらすその他の状況

 

3 本件の検討
 本件Z社の株主会の会議において、株主であるX社に通知がされない中でなされた決議には取消事由の瑕疵がありますが、決議からすでに60日が過ぎているため、X社は株主会決議の取消しの訴えを提起することはできません。

しかし、当該株主会の議事録も残っておらず、Z社は株主会を実際には開催していない可能性があり、これは不成立事由となるため、X社は株主会決議の不成立の確認の訴えを提起することが考えられます。この場合には決議から60日以内に訴えを提起する必要がありません。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第874号)に寄稿した記事です。