第442回 くじ引きは 不当な販売行為か?

最近、「業者によるくじ引きキャンペーンが公平交易委員会(以下「公平会」)により違法と認定され、課徴金を課されたが、裁判所は適法と判断した」という事案がありました。

本件の概要は次の通りです。

2020年に浄水器を販売するA社とレストランBがタイアップして「レストランBのアンケートに答えるとA社のくじ引き券がもらえる」というプレゼントキャンペーンを実施しました。このキャンペーンの景品は市価2万8800台湾元(約13万4000円)の浄水器で、抽選で当選した人は10%の価格でこの浄水器を獲得できるというものでした。

その後、多くの庶民が「A社は引きキャンペーンを口実にして商品を売りさばいている」、「A社は商品の価格をあらかじめ高く設定しておき、庶民を誘惑してだまし、2880元という価格で購入させている」などと公平会に通報しました。
公平会が調査した後、2021年10月、A社がくじ引きキャンペーンの名目で、そもそも取引ニーズがない庶民を呼び集め、庶民をして心理的準備が少しもできていない状況において販促キャンペーンに参加させているため、A社には、公平交易法第25条に違反する「取引秩序に影響を与えるに足りる欺罔行為および明らかに公正さを欠く行為」に該当する、浄水器を不当に販売した行為があったと認定し、同法第42条の規定に基づきA社に10万元の課徴金を課すことを決定しました。

行政訴訟を提起

A社は公平会の処分を不服とし、公平会を被告として、公平会の当該処分の取り消しを求める行政訴訟を台湾台北高等行政法院(行政裁判所)に提起しました。2022年6月、同裁判所は、公平会の処分は違法であるとする、A社勝訴の逆転判決を言い渡しました。

判決書では、A社はくじ引きキャンペーンのポスターのはっきりと見える位置において、「当選者は10%の価格を支払うことではじめて浄水器を取得できる」といった内容を、大きくした文字ではっきりと説明しており、この内容は一般的な弁識能力を有する一般庶民をして、くじ引きの景品は無料で取得するのではなく、代価を支払うことではじめて取得できると認識させるに足りるため、A社には欺罔(きもう)行為、重要な取引情報を隠蔽する行為または明らかに公正さを欠く行為はない、と指摘しています。

また、同判決では、当選した庶民は10%の代価をもって浄水器を取得したいと思うかどうかについて、十分に検討し、決定する余裕があり、当選したことと費用を支払うかどうかということには必然的な関係がないため、公平会の認定および処分は不当であり、取り消すべきであることを強調しています。

行政機関により違法と認定された後に、裁判所により逆転されるというこのようなケースは、実務において少なくありません。このため、行政機関から処罰された場合において、その処罰は極めて不公正であると判断するときは、行政訴訟の手段を通じて自社のために正しい判断を改めて行ってもらうことを検討できます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。