第54回 会社の解散事由

 

Q:日本企業X社は、中国において中国企業Y社と共同してZ社(有限責任会社)を設立する予定です。
 経営方針について、Y社と話し合いがつかず、Z社の経営が行き詰った場合に備えて、Z社の合弁契約書や会社定款で解散事由を定める予定です。中国の会社法では、どのような場合に解散ができるのでしょうか。また、解散請求については、迅速に解散をするため、仲裁機関で争う旨の合意をすることは可能でしょうか。

A:解散事由は会社定款により定めることができ、例えば、Z社が一定の経営目標を達成できなかった場合や一定の経営状況に至った場合に、X社はY社に対して持分を買取るように請求することができ、応じない場合、Z社は解散し清算手続に入らなければならないといった条項等を定めることができます。しかし、解散請求については人民法院に対して請求しなければならず、当事者で合意をしても仲裁機関で争うことができません。

解説

1 総論
 会社を設立し経営する重要な目的の一つとして、資本を投資して事業により収益を上げることが挙げられますが、経営状況によっては、撤退し投資回収をすることを検討することが必要な場合があります。
会社の解散は、撤退するための主要な方法の1つであり、投資回収をする上でとても重要です。
 今回は、会社の解散事由について説明していきます。

2 解散の意義 
 会社の解散は、会社の法人格を消滅させる法律行為で、会社の主要な終了事由の一つです。株主が投資を回収するために重要な方法となっています。
会社の解散事由が発生した場合は、以下のようになります。

①会社の法人格は最終的には消滅します。法人格の消滅に向けて、会社は解散事由が生じた日から15日以内に清算委員会を成立させ、清算手続を開始します(中国会社法第183条)。もっとも、例えば、会社が合併により解散する場合、一部の会社の法人格は消滅しますが、当該消滅会社の権利義務については、引き続き存続する存続会社又は新設会社に承継されます。

②会社は解散事由が発生した後、清算手続が完了して法人登記を抹消するまでは法人格は継続します。しかし、その行為能力は制限を受けることになり、清算目的に関連する活動しか行うことができず、営業活動を展開することはできなくなります(中国会社法第186条第3項)。

③会社の解散事由が発生して清算手続を開始した後、会社の機関はその権限行使を停止され、清算委員会が会社を対外的に代表します(中国会社法第184条)。

 なお、従来は外商投資企業の解散、清算について、外商投資企業のみに適用される特別な規定がありましたが、外商投資法[1]の施行に伴い2020年1月1日から廃止されています。

3 会社の解散事由
(1)概説
 中国会社法第180条では、会社の解散事由について、以下のとおり規定しています。

①会社定款の規定する営業期間が満了したとき又は会社定款に定めるその他の解散事由が発生したとき
②株主会又は株主総会が解散の決議を行ったとき
③会社の合併又は分割により解散が必要なとき
④法により営業許可証が取り消され、閉鎖を命じられ、又は取り消されたとき
➄人民法院が中国会社法第182条の規定に基づき解散させたとき

 これらの解散事由は大きく3つに分かれ、①、②、③は、会社により自主的に解散できる場合で、自主解散といい、④は行政機関により解散をさせられる場合で行政解散といい、⑤は司法機関により解散させられる場合で司法解散といいます。

(2)自主解散
ア 営業期間の満了
 会社の営業期間が満了した場合には、営業期間を延長しない限り、会社を解散することになります。会社の営業期間については、現在では、全国レベルの法規においては統一的な規定がなく、会社は原則として自由にその営業期間を定めることが可能となっています。
しかし、地方によっては、営業期間について異なる要求をされる可能性があるため、地方実務の確認が必要です。
なお、従来は外商投資企業の営業期間について、外商投資企業のみに適用される特別な規定がありましたが、外商投資法の施行に伴い2020年1月1日より廃止されています。

イ 会社定款の解散事由
 営業期間は通常、50年といったような比較的長期の期間が設定されるため、解散を検討する段階でこの解散事由を満たしているとは限りません。
 しかし、会社は、会社定款において中国会社法第180条に列挙された解散事由以外のその他の事由を会社の解散事由として定めることで、営業期間内であっても会社を解散することができます。

 例えば、会社が一定の経営目標を達成できなかった場合や一定の経営状況に至った場合を解散事由とし、当該解散事由が発生した場合には株主から会社の解散を求めることができる旨を定めたうえで、もし他の株主が会社の解散を認めない場合には、会社の解散を求める株主は、会社の解散に反対する支配株主にその持分を買取るように請求することができ、当該請求に応じない場合、会社は解散し清算手続に入らなければならないといった規定等を定めることができます。

ウ 解散決議
 上記のような具体的な解散事由が発生していない場合であっても、株主会又は株主総会が解散決議を行った場合には会社を解散することができます。
 この解散決議について、有限責任会社の場合は、3分の2以上の議決権を持つ株主により、株主会社の場合は、出席株主が有する議決権の3分の2以上により決議を行わなければなりません(中国会社法第43条第2項、第103条第2項)。

(3)行政解散
 会社の解散は、会社により自主的に決定できるだけでなく、強制的に解散させられる場合もあります。
 行政解散は、会社が法律の規定に違反し、営業許可証が取り消され、閉鎖を命じられ、又は取り消されることにより発生する解散事由です。
 例えば、中国会社法や会社登記管理条例において、以下のような行政解散事由が定められています。

・会社の成立後、正当な理由がなく6か月を越えても開業しない、又は開業後連続6か月以上自ら営業を停止している場合(中国会社法第211条第1項)
・会社の名義を利用して国家の安全、社会公共の利益を脅かす重大な違法行為を行っている場合(中国会社法第213条)
・虚偽の資料を提出し、又はその他の詐欺的手段により重要な事実を隠匿して、会社の登記を取得した場合(会社登記管理条例第64条)
・会社の発起人、株主が虚偽の出資を行い、出資とする金銭又は金銭以外の財産を引き渡さず又は期限どおりに引き渡さない場合(会社登記管理条例第65条)
・営業許可証を偽造し、改竄し、賃貸し、譲渡した場合(会社登記管理条例第71条)

(4)司法解散
 行政機関により会社が強制的に解散させられる場合以外に、司法機関により会社が強制的に解散させられる場合もあります。
 司法解散とは、法定事由が発生した場合、株主の請求により人民法院が判決の方式で強制的に会社を解散させることをいいます。
 会社の経営管理に重大な困難が発生し、継続すると株主の利益が重大な損失を受け、その他の方法では解決ができない場合、会社の全株主の議決権の10%を有する株主は、人民法院に対し解散を請求することができ、会社を解散する判決がなされたときは、会社の解散事由となります(中国会社法第180条第5号、第182条)。
 具体的な解散事由は、「会社法」の適用の若干問題に関する規定(二)第1条に定められており、会社の経営が行き詰まった場合や、会社の資産に重大な浪費がある場合等が定められています。
 この人民法院による司法解散については、人民法院の判決以外に、当事者の仲裁合意に基づく仲裁機関の仲裁判断により代替できないかが問題となることがあります。
 仲裁法第2条では、平等な主体である公民、法人及びその他の組織で発生する契約紛争その他の財産に係る紛争は、仲裁に付すことができると定められているため、代替できるようにも考えられます。
 しかし、中国会社法第182条は、「人民法院に解散することを請求」という表現を用いているため、会社の解散に紛争が生じた場合に、訴訟を提起することができる場所は人民法院だけとなり、仲裁機関は仲裁をする権限を有しないと考えられています。
 この点について、《最高人民法院の中国国債経済貿易仲裁委員会(2009)CI-ETACBJ裁決(0355)号裁決の取消についての決裁の返答書》(〔2011〕民四他字第13号)では、中国会社法第180条の規定により、仲裁機関の会社を解散させる判断は、法律の根拠がなく、仲裁権限がない状況にあたると明確にしています。

4 本件の検討
 
以上のように、会社定款により、Z社の解散事由を定めることができ、例えば、Z社が一定の経営目標を達成できなかった場合や一定の経営状況に至った場合に、X社がY社に対して持分を買取るように請求することができ、応じない場合、Z社は解散し清算手続に入らなければならないといった規定等を定めることができます。
 しかし、解散請求については、中国会社法において人民法院に対して請求しなければならないと定められており、当事者で合意をしても仲裁機関で行うことができないと考えられます。

 最高人民法院においても、会社の解散の仲裁協議はその法律効力が発生せず、仲裁機関で解決することができない旨が判示された事例があります。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第902号)に寄稿した記事です。