第448回 コンビニの茶卵鍋、湯追加した客に損害賠償請求

ある客がコンビニエンスストアで、店員の代わりに茶卵の鍋に勝手に湯を足し、なんと100万台湾元(約460万円)の賠償を請求され、庶民の間で熱い議論が交わされることとなった法的事案が最近台湾で発生しました。

本件の概要は次の通りです。

2021年5月に李という男性が高雄市の某コンビニに入り、煮茶卵の鍋の煮汁がもうすぐなくなりそうになっていることに気が付き、店内で自分のマグカップに湯を入れ、それを鍋に入れました。このコンビニの店長は、これに気が付くと、直ちに李氏を制止し、この鍋の茶卵を廃棄しました。

その後、このコンビニは李氏に対し、二つの損害賠償を請求しました。一つは60個の茶卵を廃棄したことによる損失600元であり、もう一つは、企業の信用の損失100万元です。

後者を請求した理由は、李氏が鍋に湯を足した時、他の客もその場におり、李氏の行為は茶卵について安心できないという感情を消費者に抱かせ、消費者の購入意欲を削いただめ、企業の信用を著しく損ねたと考えたためです。

損害賠償100万元請求は棄却

高雄地方法院(地方裁判所)は審理後、今年(2022年)10月に判決を下し、李氏はコンビニに600元を賠償すべきと認定した一方、この100万元の請求は棄却しました。

裁判官は、「湯を足すという李氏の行為は公衆の面前でなされたものであり、店員にその場で制止された後、その鍋に入っていた茶卵も全て廃棄されている。その鍋に入っていた茶卵は、客観的に考えると、大衆に販売される可能性はなく、その上、コンビニが処理するプロセスもその場にいた消費者に見られているため、コンビニの商品、サービス品質に対する疑問が生じることはなく、企業信用の損失もない」と判断しました。

また、裁判官は判決で、本件は千面人事件(日本の「グリコ・かい人21面相事件」のような事件)で毒物を注入された缶飲料がひそかに商品ラックに置かれて市場に入り込み、消費者に不安を抱かせた状況とは異なると強調しました。

本件の判決の公表後、台湾のネットユーザーの間では「機に乗じて客から金を巻き上げようとしている」、「二度と買いにいかない」など、このコンビニに対する批判ばかり起こり、逆に企業の信用の損害が発生しました。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。