裁判官を侮辱した場合の刑事責任

台湾では最近、珍しい刑事事件が発生しました。ある男性が開廷時に法廷で裁判官に水をかけ、「外にいる弁護士先生は全員入ってきてください、この恐竜裁判官(世論を理解しない杓子定規な裁判官)は庶民をいじめていますよ」などと大声で叫んだ結果、桃園地方裁判所は先日、この男性の行為は「公務員侮辱罪」を構成すると認定して、2箇月の懲役に処したという事件です。

本件の概要は次のとおりです。

Xという男性が、2018年7月9日の午後に桃園地方裁判所の簡易法廷である民事事件の口頭弁論手続に参加していた時、事件を担当するA裁判官が公正に審理していないと考えたため、手に持っていたボトルの水を当該裁判官に向かって浴びせかけ、「外にいる弁護士先生は全員入ってきてください、この恐竜裁判官は庶民をいじめていますよ」、「その席は『包青天』(中国古代の有名な裁判官)が座るところです、あなた(A裁判官)はどんな資格があって座っているのですか?」、「あなた(A裁判官)は両親に恥をかかせていませんか」、「あなた(A裁判官)が道を歩く時には車に轢かれないよう気をつけなさいよ」などと大声で叫びました。

A裁判官はその場で、「公務員侮辱罪」および「脅迫罪」の現行犯によりこの男性を逮捕し、かつ桃園地方検察署に移送してその刑事責任を追及するよう警察に指示しました。

これに対し、この男性は、過去2年間において自分の別の事件をA裁判官が不公平な態度で審理し、2018年7月9日に2つ目の事件でまた同様の扱いを受けたため、ついに感情を抑えきれずに大声で悪態をついたのだと抗弁しました。また、この男性は、自分がA裁判官に悪態をついたのは公務員を侮辱するためでなく自身の訴権を守るためであり、ましてや水は裁判官の身体にかかっていないと述べました。

この事件について、桃園地方裁判所は刑事廷で審理を行った結果、最終的に、この男性の行為が刑法第140条の公務員侮辱罪(公務員が法により職務を執行する際に、その場で侮辱し又はその法により執行する職務を公然と侮辱した場合は、1年以下の懲役、拘留又は10万台湾元以下の罰金に処する)を構成すると認定し、2箇月の懲役に処しました。脅迫罪については無罪となりました。

台湾では、圧倒的多数の裁判官は公平に事件を処理しますが、近年、争いのある判決が少なからず出現しているために、裁判官に対する社会民衆の信頼性が低下しつつあり、一部の裁判官は「恐竜裁判官」と呼ばれています。

しかしながら、訴訟で不公平と思える裁判官に遭遇した場合でも裁判官に悪態をつくのは得策とは言えません。民事訴訟の原告である場合には、訴訟の取下げを検討するのが比較的望ましいやり方です。再度提訴すれば、通常は、ほかの裁判官が審理することになります。被告である場合には、「裁判官が不公平である」ことの具体的事実を挙げて、裁判官の交代を申請するのが望ましい対策です。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修