第81回 「出張中にくじ引きでビデオカードに当選し辞職に追い込まれた」事案から考える(二)~会社が「従業員への退職強要」は労働関係の違法解除の疑いがあるか?
本件では、会社は金さんを直接解雇してはいないものの、数回の面談を通じて「他の会社を探してみる」よう勧め、最終的に金さんが依願退職しています。会社による上記の行為が労働関係の違法解除に該当するかどうか、以下でお話しします。
「形を変えた退職強要」の違法性の認定では、通常、中国の「労働契約法」第三十八条に基づき、使用者が「減給、労働条件の引下げ」(つまり、労働契約の約定どおりに労働条件を提供しない)等の方法により労働者が退職せざるを得ないようにした場合は「労働関係の違法解除」に該当します。具体的に本件について言えば、会社が、規則制度上の根拠がない状況で、「賞品の帰属についての議論」を口実に面談を通じて従業員にプレッシャーをかけたことは、「労働契約の約定どおりに労働条件を提供しなかった」という事由に該当するでしょうか?現在公開されている情報によると、会社は口頭で「他の会社を探してみる」よう軽く勧めただけであり、減給、異動、停職等の強制的要求、処分を伴っていないのであれば、普通のコミュニケーションの範疇であり、違法な退職強要となりません。会社が、勧めるのと同時に減給、異動、停職等の強制的要求も行っていた場合には、金さんがやむを得ず退職願を提出していたとしても、退職願が「脅迫された又はほのめかされた」ものであることを挙証により証明できる(チャットの履歴、面談の録音など)場合は、「労働契約法」の関連規定に基づき、退職行為の無効を主張し、会社に対し労働関係の回復又は賠償金の支払を求めることができます。このときの賠償金の算定基準ですが、「労働契約法」第八十七条に基づき、労働関係の違法解除の賠償金は法定の「経済補償基準の二倍」となります。
また、企業が「脅迫、不合理な異動」等の手段で間接的に従業員を強制退職させた場合には、是正命令や過料を科されるなど労働監察当局による行政処罰に直面する可能性もあり、違法による企業のコストがさらに増大することになります。
本件で露見した問題は、トラブルの発生を回避するためには前もってコンプライアンス管理の制度面を整備しておくことが必要であるという示唆を企業に与えています。
- 規則制度の効力の境界を明確にする:企業が「出張時の当選品は会社に帰属する」旨を約定しようとする場合、「労働契約法」第四条の「二つの適法」の要求を満たすことが必要になります。
A)内容が適法であること:「民法典」の「物権の所有権」に関する規定に違反してはなりません。すなわち、従業員個人が偶然に得たものを強制的に剥奪することはできません。
B)手続が適法であること:「労働契約法」の規定によれば、従業員の直接的利益にかかわる事項については、従業員代表大会での又は従業員全員による討議を経て、労働組合又は従業員代表と平等な協議を行い決定した上で、従業員に対し公示する(従業員マニュアルに明記するなど)ことが必要となります。 - 事前の約定は事後の主張に優先する:企業に上記の規則制度がなく、また業務上の必要性から特定のイベントの賞品を会社の財産に帰属させたいと考える場合は、事後に「口頭による要求」で権利を主張することがないよう、従業員に職務上の行為をさせる前に従業員との間で合意書を締結し、「くじ引きの参加主体は会社である」「くじ引きは職務上の行為である」「賞品は会社に帰属する」「従業員に対する補償の有無」等の内容を明確にしておくべきです。
他方で、従業員としては、自己の利益にかかわる会社の規則制度の制定、改訂が行われるときには必ず、それに積極的に参加し、民主的権利を行使し、規則制度の内容を理解しなければなりません。具体的な事柄が生じたときには、「会社の口頭による要求」の違法性に警戒し、権利保護のため速やかに関連証拠を残しておくことが必要になります。
つまり、双方がともに「権利の境界についての意識」を確立し、ルールがきちんと定められている場合に限り、「当選がトラブルに発展する」という厄介な局面を回避して、適法かつ秩序ある職場関係を構築することができるのです。
以上
*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。
