第601回 台湾憲法法廷における大法官欠員問題

台湾の憲法法廷は、「弁護人が裁判所の勾留処分に対して提起した不服申立」に関する問題等につき、2026年1月2日、2026年憲判字第1号判決を言い渡しました。

本判決は各界において大きな議論を呼びましたが、その争点は、判決理由や結論の当否にあるのではなく、当該判決がわずか5人の大法官(憲法法廷の審判を担当する裁判官)によって作成されたという点にあり、「当該判決が法的に有効といえるのか」という根本的な疑義が提起されるに至っています。

実務上の影響

台湾の《憲法増修条文》第5条第1項は、「司法院には大法官15人を置き、そのうち1人を院長、1人を副院長とし、いずれも総統が提名し、立法院の同意を経て任命する」と明文で定めています。

また、《憲法訴訟法》第30条は、判決の成立要件として、「大法官現有総額の3分の2以上が審理に参加し、かつ過半数の同意を得ること」(第1項)を要求するとともに、「審理に参加する大法官の人数は10人を下回ってはならない」こと(第2項)を明確に規定しています。

さらに、憲法違反宣告を行う場合には、少なくとも9人の大法官の同意が必要とされています。

すなわち、憲法法廷が適法に判決を作成するためには、原則として少なくとも10人の大法官が審理に参加していることが前提とされています。

しかしながら、2024年10月31日をもって7人の大法官が任期満了により退任した後、立法院(国会)が総統により提名された7人の後任候補者を複数回にわたり否決した結果、現在在任する大法官は実質的に8人にとどまっています。

さらに、そのうち3人は、現行の大法官欠員状態において、憲法法廷が適法に構成されているか否かについて疑義があるとして、審理への参加を見合わせました。

この結果、前記2026年憲判字第1号判決は、実際には5人の大法官のみによって作成されることとなりました。

このような大法官欠員の問題は、すでに実務上の影響を及ぼしており、実際に、一部の地方法院の裁判官が、判決理由の中で、このような欠員状態の憲法法廷によって下された憲法判決の拘束力について受け入れ難いとの立場を明示した例も見受けられます。

立法院で与野党対立

大法官欠員問題の解決策については、速やかに大法官の人数を補充すべきであるとの意見や、法改正を行い、現に在任する大法官のみで判決を作成できる制度へ改めるべきであるとの提案など、さまざまな見解が示されています。

しかし、いずれの方策を採るにしても、最終的には立法院(国会)による決議を要することは避けられません。他方、現在の立法院においては、各政党に属する立法委員(国会議員)の立場や見解が著しく対立しており、短期間のうちに本問題が解消される見通しは、必ずしも明るいとは言い難い状況にあります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。