第82回 中国での人員削減時の注意点

一、はじめに

中国では、景気低迷を背景に業績が悪化した会社による人員削減が続いている。公開されている都市部の失業率は5%程度で推移しており、顕著に上がっているわけではないが、失業保険の受給者数の統計を見ると、2022年以降急増している。中国で事業を展開する日系企業からも、撤退まではいかないものの、人員削減を実施したいとの相談は増えている。そこで、本稿では、中国での人員削減時における主な注意点等についてご紹介する。

二、人員削減実施時の注意点
1.主な法的根拠

まず、中国の労働契約法は、第41条で「人員削減」(中文では「裁减人员」、以下「狭義の人員削減」ともいう)について規定している。

以下のいずれかの事由に該当し、20人以上の人員削減、又は20人未満であるが企業の従業員総数の10%以上を占める人員削減を行わなければならない場合、使用者は30日前までに労働組合又は全従業員に対して状況を説明し、労働組合又は全従業員の意見を聴取した後、人員削減計画を労働行政部門に届け出て、人員を削減することができるとされている。

①企業破産法の規定に従い更生を行う場合
②生産経営に重大な困難が生じた場合
③企業の生産の転換、重大な技術革新又は経営方式の調整により、労働契約を変更した後もなお人員削減の必要がある場合
④その他、労働契約締結時に拠り所とした客観的経済状況に重大な変化が生じたため、労働契約の履行が不可能になった場合

業績が悪化している企業が、上記規定に基づく人員削減を行いたい場合、上記のうち②「生産経営に重大な困難が生じた場合」の事由を用いることになるが、この点について、地方法規、例えば「北京市企業経済性人員削減規定」では、「3年連続して赤字経営でありかつ赤字額が年々増加しており、債務超過であり、・・・」という場合に上記②に該当するとするものや、裁判例でも、数年に亘り連続して赤字であることを理由として②に該当することを認めたもの((2014)滬二中民三(民)終字第842号)などがある。これらからすると、赤字には至らない程度の業績悪化や、単年度のみの赤字では、上記②には該当しないと判断される可能性がある点に注意が必要である。

では、業績が悪化しているものの、労働契約法第41条で規定する狭義の人員削減事由には該当しない場合、どのように人員を削減するかといえば、以下のものが考えられる。

ⅰ 有期の従業員について、労働契約の期間満了により労働契約を終了する
ⅱ 従業員との合意によって労働契約を解除する(希望退職者の募集を含む)
ⅲ 会社を解散し、労働契約を終了させる

ⅰは、労働契約法第44条第1号に基づき、有期の(労働契約の期間の定めのある)従業員について、労働契約の期間満了によって労働契約を終了させる方法である。但し、注意点としては、期間満了によって労働契約を更新したことがある従業員については、更新後の労働契約の期間が満了するタイミングで従業員が希望する場合、契約の更新及び無期の(労働契約の期間の定めのない)労働契約を締結しなければならないとされる可能性がある点である。つまり、1回目の労働契約の期間満了時は、そのまま労働契約を終了させることができるのに対して、2回目以降の(1度以上更新したことがある)労働契約の終了時には、従業員が希望する場合には契約を更新しなければならなくなるのである。この点について、例えば、北京市では従前よりこのような取り扱いがなされていたところ、近時では上海市でもこのような取り扱いがなされるようになってきており、注意が必要である。

ⅱは、労働契約法第36条に基づき、従業員との合意によって労働契約を解除する方法である。これには、希望退職者を募って、これに応募した従業員との労働契約を合意によって解除する場合が含まれる。狭義の人員削減事由に該当しない場合には、合意解除が有力な方法となるが、字義のとおり従業員との間での合意が必要となるため、合意解除にあたっての条件の設定が重要になる。

ⅲは、会社の解散を予定している場合に用いることができる方法であり、労働契約法第44条第5号に基づくものである。同条項では、使用者が繰上解散を決定した場合には、労働契約は終了する旨を規定している。なお、会社が解散する場合であっても、従業員との無用な紛争を避けるため、実務上、労働契約法第44条第5号に基づく労働契約の終了ではなく、労働契約の合意解除の方法を用いることも少なくない。

2.人員削減ができない場合、人員選定の先後
上記1で言及した狭義の人員削減、及びⅰの(有期の従業員について、労働契約の期間満了により労働契約を終了する)方法による労働契約の終了については、従業員に以下のいずれかに該当する事由がある場合には行うことができない点にも注意が必要である(労働契約法第42条)。

①職業病の危険性に触れる業務に従事した労働者に離職前職業健康診断を行わず、又は職業病が疑われる病人で診断中もしくは医学観察期間にある場合
②当該使用者において職業病を患い、又は業務上の理由により負傷し、かつ労働能力の喪失もしくは一部喪失が確認された場合
 ③病を患い、又は業務外の理由で負傷し、規定の医療期間内にある場合
 ④女性従業員が妊娠、出産、授乳期間にある場合
 ⑤当該使用者において勤続満15年以上で、かつ法定の定年退職年齢まで残り5年未満である場合
 ⑥法律、行政法規に規定するその他の場合

また、狭義の人員削減については、人員の選定にあたり、優先的に残さなければならない者(比較的長期の期間の定めのある労働契約を締結している者、期間の定めのない労働契約を締結している者、及び家族に本人の他に就業している者がなく、扶養が必要な老人又は未成年者がいる者)についても規定されている(労働契約法第41条第2項)。

3.人員削減時の補償について(経済補償金等)
まず、労働契約法第46条では、労働契約の解除又は終了時に経済補償金を支払わなければならない事由を規定しているところ、上記1で言及した狭義の人員削減、及びⅰ~ⅲの人員削減のいずれもこれに含まれている。このため、これらによる人員削減時には、従業員に対して経済補償金を支払わなければならない。

経済補償金の算出は、基数の上限などもあるが、簡単に言えば、「従業員の月平均賃金×勤続年数」となる(労働契約法第47条)。

もっとも、合意解除の方法による場合には、「勤続年数」の部分について、法定の「N」に加えて、「+1」、「+2」といった上乗せが必要になるものと思われる。

次に、未消化の有給休暇がある場合には、法定の計算式(企業従業員年次有給休暇実施条例第5条第3項、企業従業員年次有給休暇実施弁法第10条第1項)に基づき、当該有給休暇を買上げることになる。

その他、就業規則等に基づく福利厚生の支給がある場合には、その支給を行う必要がある。

三、おわりに
以上、簡単ではあるが、人員削減とその注意点についてご紹介した。人員削減に関する相談は、業績悪化を理由としたものが多いが、上記二1で言及したとおり、業績悪化を理由に狭義の人員削減を行うことは容易ではない(強行すれば違法な労働契約の解除となりかねない)ことが多く、慎重に対応する必要がある。狭義の人員削減の実施にあたっては、以下のステップを踏むことをお勧めする。

①各従業員との契約状況(労働契約の期間、延長回数等)の確認
②契約期間満了間近の従業員については、満了による終了(但し、更新の要否に留意)
③希望退職者の募集ないしは個別の合意解除の検討、実施
④狭義の人員削減の検討、実施

以上


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。