第31回 なぜアイデアは著作権で保護されないのか

近年、生成AIの普及を背景として、作風、着想等の模倣について、どこまでが著作権で守られるのか問題提起がなされる場面が増えています。
しかし、これらは通常、著作権法では保護されないと解されています。
以下では、この点につき基本的な考え方を説明します。

1.著作権法が保護する対象

著作権法の保護対象(著作物)は、思想又は感情を創作的に「表現したもの」に限られます(2条1項1号)。「表現したもの」は、第三者により知覚可能な具体的な表現を意味し、表現の対象・内容又は前提となっている思想・感情やアイデアそれ自体は、原則として著作権法による保護の対象とはなりません。

これは、アイデア・表現二分論(あるいは思想・表現二分論)といわれ、著作権法の根幹をなす重要な原則であると考えられています。

アイデアには、例えば、小説や脚本のあらすじ・ストーリーの骨格、人物設定や世界観、絵画・写真・映像等の作風・画風のほか、題材となっている歴史的事実、測定データ、自然法則なども含まれます。

アイデア・表現二分論の下では、アイデアのみを無断模倣する行為は、それがいかに独創的又は画期的なアイデアであっても著作権侵害とはなりません。

他方で、具体的な表現を無断模倣する行為は、それがたとえ稚拙な表現であったとしても、創作性が認められれば著作権侵害となり得ます。

2.アイデアを保護対象外とする理由

このような二分論の帰結は、一見すると不当と感じられるかもしれませんが、主に以下の3つの合理的な理由があります。

  • 表現の多様化と文化の発展: アイデアを自由利用できた方が、後発の創作が活性化するため。
  • 憲法上の自由との調整: 表現の自由や学問の自由を過度に制限しないため。
  • 制度設計(無方式主義)との整合性: 登録なしで発生する権利だからこそ、対象を明確な「具体的表現」に絞る必要があるため。

少しかみ砕いて説明すると、以下のようにいうことができるでしょう。

すなわち、多くの場合、一つのアイデアは潜在的に多様な表現が可能です。そのため、表現の対象・内容又は前提となっているアイデアそれ自体を著作権の保護対象に含めると、そのアイデアを何らかの形で表現した最初の者が、そのアイデアを現す全ての表現(文章、音楽、絵画、写真、映像など表現形式を問いません。)を独占し得ることとなります。

これは、表現を通じた事実上のアイデア独占であって、後発の創作活動や情報の利用を過度に制約するおそれがあります。アイデア・表現二分論は、このような弊害を生じないためにあると考えられます。

なお、アイデア段階での模倣を防ぐには、著作権法以外の手段(秘密保持契約、不正競争防止法上の営業秘密保護、特許・意匠権等)を戦略的に活用する必要があります。

3.「表現上の本質的な特徴」も保護されること

アイデア・表現二分論は、著作権法の保護対象を具体的な表現に限定するものですが、著作権侵害の成立範囲を、具体的な表現の完全な模倣・再製(デッドコピー)に限定するものではありません。このことは、無断翻訳や翻案(リメイク等)が著作権侵害となり得ることからも明らかです。

これに関し、最高裁は、言語著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、別の著作物を創作する行為であるとの考えを示しました(江差追分事件判決)。

これによると、「表現上の本質的な特徴」も、著作権法の保護対象ということになります。

したがって、作風や着想であっても、それが特定の著作物において「表現上の本質的な特徴」として具現化していると認められる場合には、著作権による保護の対象となり得ます。

しかし、どこまでがアイデアで、どこからが「表現上の本質的な特徴」といえるのか、明確な基準は存在せず、裁判例や学説を踏まえたケースバイケースでの判断が不可欠です。

以上


*本記事は、法律に関連する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者

アソシエイト 弁護士  池上 慶