第89回 中国で定年退職者の再雇用ができるか
Q:中国で定年退職者を再雇用することができるか。社会保険、賃金待遇はどうなるのか。
A:中国で定年退職者を再雇用することは可能である。定年退職者のために労災保険に付保する必要はあるが、その他の保険については使用者に付保義務はない。賃金については、労働法令による残業代が支給されるが、原則残業させない。
詳細
2026年7月1日までの取り扱い
「中華人民共和国労働契約法実施条例」(2008年9月18日公布、施行)の第21条によれば、労働者が法定の定年年齢に達した場合、労働契約は終了します。また、「最高人民法院の労働紛争事件の審理における法律適用の問題に関する解釈(一)」(2020年12月29日公布、2021年1月1日施行)の第32条では、養老保険の給付を受けている、または退職金を受領した者との間で発生する労使紛争は労務関係として処理すると規定されています。労務関係とは、労働法令における労働関係ではなく、民間の業務委託契約に該当しますので、労働法令が適用されないことになります。したがって労働法令が適用されないため、労災保険も受けられない状況でした。
なお、中国では一部、定年退職者が労災保険に加入することができるような地域も出現していました。例えば、広東省(2024年5月8日より施行される「広東省人的資源及び社会保障庁、広東省財政庁、国家税務総局広東省税務局の使用者における非正規労働者など特定人員の労災保険加入の弁法の印刷配布に関する通知」)や、上海市(2025年12月1日より施行される「当市における法定定年退職年齢を超える就労者及び研修生の労災保険加入に関する実施意見」)等です。
2026年7月1日からの取り扱い
2026年5月10日に全国レベルの「法定定年退職年齢超過労働者の基本権益保障に関する暫定規定」が公布され、2026年7月1日より施行されます。当該暫定規定は、定年退職年齢を超える者の雇用の取り扱いに関する中国初の全国レベルの規定であり、初めて、定年退職年齢を超える者を「労働者」として雇用の待遇、条件、保護等に関し明確な規定がなされました。主な内容は以下の通りです。
(1)書面による労務提供協議書を締結し、協議書の期間、業務内容、勤務地、労働時間、休憩・休暇、賃金、社会保険、労働保護、労働条件、職業上の危険に対する防護などの事項を規定しなければならない(第6条)。
(2)労働時間は、労働法令の労働時間を守り、原則として時間外労働を行ってはならない(第9条)。
(3)時間外労働手当は、労働法の規定に従う。平日における時間外労働は150%、週末における時間外労働は200%、法定祝祭日における時間外労働は300%になる(第9条)。
(4)賃金は、所在地の最低賃金基準を下回ってはならない(第11条)。少なくとも毎月1回支払う(第12条)。
(5)労災保険は、使用者が法定定年退職年齢超過労働者のために労災保険の保険料を納付する(第15条)。
(6)養老保険について、法定定年退職年齢超過労働者は養老保険の給付を受ける(第16条第1項)。法定定年退職年齢超過労働者が基本養老保険の給付を受けておらず、従業員基本養老保険への継続加入を選択した場合、個人として従業員基本養老保険料を引き続き納付することができる。使用者と協議のうえ合意した場合、使用者は規定に従い当該労働者のために従業員基本養老保険料を納付することもでき、個人が納付すべき従業員基本養老保険料は使用者が源泉徴収して納付する(第16条第2項)。
(7)医療保険について、法定定年退職年齢超過労働者が従業員基本医療保険の定年退職者の給付をすでに受けており、引き続き勤務する場合、当該労働者が従業員基本医療保険の給付を受けることに変更を加えない(第17条第1項)。法定定年退職年齢超過労働者が従業員基本医療保険の定年退職者の給付を受けておらず、従業員基本医療保険への継続加入を選択した場合、個人として従業員基本医療保険料を引き続き納付することができる。使用者と協議のうえ合意した場合、使用者は関連規定に従い当該労働者のために従業員基本医療保険料を納付することもでき、個人が納付すべき従業員基本医療保険料は使用者が源泉徴収して納付する(第17条第2項)。
(8)労働仲裁について。賃金、休憩・休暇、労働安全衛生、労災保障に関して紛争が発生した場合、労働仲裁で取り扱う。その他の紛争は民事訴訟で取り扱う(第19条第2項)。
以上
*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。
