第622回 内装投資が貸主に「接収」されるリスクと対策

台湾進出にあたり、店舗やオフィスのリノベーションは欠かせない投資です。しかし、日本と台湾の賃貸借制度の根本的な違いを理解しないまま契約を結ぶと、多額の投資が無駄になりかねません。

借地借家法が存在しない

日本には借地借家法があり、原則として、貸主は「正当事由」がなければ更新を拒絶できません。これに対し台湾には、賃借人の更新権を強く保護する特別法が存在しません。そのため、契約期間が満了すれば、貸主は正当な理由がなくとも更新を拒み、退去を求めることができます。

折しも台湾は、戦後のベビーブーム世代の高齢化に伴い、不動産の相続登記が急増する「大相続時代」を迎えています。そこで目立って増えているのが、老朽化した物件を相続したものの自ら修繕費を負担したくない貸主による「内装投資の搾取」トラブルです。

即ち、古い物件を安く貸し出してテナントが内装を整えるのを待ち、契約満了時に更新を拒絶して物件を回収する手法です。こうして、テナントが投資した内装をそのまま無償で手に入れてしまうのです。

リスク回避の契約条項

このようなリスクを避けるため、台湾で賃貸借契約を締結する際は、市販のひな形や貸主が用意したひな形をそのまま用いず、以下の内容を盛り込むことをお勧めします。

第一に、中途解約の厳格な制限と、貸主都合による解約時の賠償・違約金です。貸主からの一方的な中途解約を厳しく制限し、やむを得ず貸主側が解約する場合には、内装費用・営業損失・移転費用の賠償と違約金の支払いを明文で義務付けます。

第二に、内装・設備の所有権とそれらの取り外しの権利の明文化です。テナントが増設した造作や設備の所有権がテナントに帰属することや、契約終了時には自ら取り外して回収できる権利(または貸主が残置を望む場合の合理的な補償)を明記します。

以上、台湾での内装投資はサンクコスト化しやすいからこそ、上記条項を明確に合意しておくことが、リスク回避の要となります。また、台湾の賃貸借実務には、日本では見られないような落とし穴が少なからず潜んでいます。リスクを抑えるためにも、必ず現地の専門家へご相談ください。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。