第94回 「営業秘密保護規定」の解説:法律上の原則から全プロセスの保護へ
2026年2月24日に国家市場監督管理総局が第126号令「営業秘密保護規定」(以下「規定」といいます)を公布し、2026年6月1日より施行されました。「規定」は、2025年に改正された「不正競争防止法」の施行を背景に打ち出されたものであり、営業秘密の認定、保護、権利侵害の調査・処分及び行政法執行などのさらなる具体化に重点を置いています。1998年の「営業秘密侵害行為の禁止に関する若干の規定」と比較すると、過去の「侵害の禁止」への偏重から、事前の予防、事中の管理及び事後の救済をより重視する方向へと転換した点が大きな特徴です。
一、営業秘密の認定を具体化し、デジタル経済の発展に適応
2025年に改正された「不正競争防止法」では、営業秘密とは「公に知られておらず、商業的価値を有し、かつ権利者が相応の秘密保持措置を講じている」技術情報、経営情報などの商業情報であると規定しています。「規定」では、これらの構成要件をさらに具体化しています。
保護対象について、技術情報にはデータ、アルゴリズム、コンピュータプログラム、コードなどが明確に含まれ、経営情報にはアイデア、管理、販売、財務、計画、顧客情報、データなどが含まれるとし、デジタル経済環境により一層適応したものとなっています。また、「規定」では、研究開発段階にある成果や、失敗に終わった実験データ、技術案などであっても、現実的又は潜在的な商業的価値を有する限り、営業秘密を構成し得ることを明確にしています。
これは、企業が保護する必要のある対象には、もはや従来の技術図面や顧客リストだけでなく、ソースコード、アルゴリズム、データベース、研究開発データなどの新しいタイプの中核資産も含まれることを意味しています。
二、秘密保持措置を具体化し、企業の保護責任がさらに明確に
「不正競争防止法」は、「相応の秘密保持措置を講じていること」を営業秘密成立の法定条件としています。「規定」ではさらに、秘密保持契約の締結、契約による秘密保持義務の取り決め、機密情報の分類ラベル表示、機密エリアへの立入制限、システムへのアクセス権限の設定、暗号化及び隔離などの具体的な措置を列挙しています。
したがって、企業はトラブルが発生してから「これは営業秘密だ」と主張するだけでは足りず、日常の経営において完全な保護の痕跡を残しておく必要があります。特に、リモートワーク、クラウドストレージ、国境を越えた協業がますます普及する中、権限制御、データマスキング、操作ログの記録及び退職者による資料の返還・削除などの管理を強化する必要があります。
三、権利侵害と通常の競争の境界線を明確化
「規定」は保護を強化すると同時に、通常の競争との境界線もさらに明確にしています。独自の発見、自社での研究開発、公開ルートから取得した製品の分解・測量などの方法による分析、また、従業員による、業務の中で蓄積した一般的な知識、スキル及び業界経験などの利用は、条件を満たす場合、営業秘密の侵害には該当しません。
これは、企業の利益保護と、人材の適正な流動の維持、技術革新の奨励との間のバランスを取る上で役立ちます。企業が秘密保持制度を制定する際にも、真の営業秘密と、従業員が通常の業務を通じて蓄積した職務能力及び業界経験とを正確に区別する必要があります。
四、行政保護がより具体化され、権利行使ルートがより明確に
2025年の「不正競争防止法」により営業秘密の侵害に対する行政保護制度が整備されましたが、「規定」によって法執行手続がさらに具体化されました。権利者が通報を行う際は、当該商業情報が営業秘密に該当することの一応の証拠及び権利侵害の疑いに関する具体的な手がかりを提供しなければなりません。市場監督管理部門は、法律に基づき、経営場所への立ち入り検査、関係者へのヒアリング、資料の照会・複製、関連財産の封印・差押えなどを行うことができます。
また、「規定」は、法執行官の守秘義務を強化しており、調査の過程で知得した営業秘密については法に基づき秘密を保持しなければならず、行政処分の決定を公開する際にも営業秘密に関わる内容を開示してはならないとしています。これにより、企業の行政を通じた権利行使における二次漏洩のリスクが低減されます。
五、法的責任がより厳格化され、多層的な保護体系を構築
2025年に改正された「不正競争防止法」では、営業秘密の侵害における違法コストがさらに引き上げられました。権利侵害行為に対しては、差止命令、違法所得の没収が科されるほか、10万元以上100万元以下の罰金が併科され得ます。情状が重い場合、罰金は100万元以上500万元以下に引き上げられます。「規定」では、「情状が重い」とされる一部のケースをさらに明確にし、侵害差止の具体的な措置(使用停止、営業秘密の記録媒体の返還又は破棄、侵害品の破棄など)も具体化されました。
このほか、営業秘密の侵害は民事上の賠償責任を負う可能性もあり、犯罪の疑いがある場合は法に基づき刑事責任が追及されます。これにより、行政、民事、刑事の責任が相互に連携した保護体系がさらに整備されました。
おわりに
全体として見ると、2025年に改正された「不正競争防止法」が営業秘密の保護に関する基本的な法的枠組みを確定させましたが、2026年の「規定」は、「いかにして認定、保護、調査、処理を行うか」という実務的な問題をさらに解決するものとなっています。
「規定」の施行は、営業秘密の保護が従来の「侵害が発生してからの権利行使」から、情報の識別、分類・等級分け、人的管理、契約による拘束、データセキュリティ、リスクモニタリング及び権利侵害に対する救済を網羅する全プロセス管理へと転換しつつあることを意味しています。
企業にとって、営業秘密の保護はもはや法務部門だけの専門業務ではなく、企業のコンプライアンスガバナンスの重要な構成部分となるべきものです。企業は「規定」の施行を契機として、自社の営業秘密管理体制を再検討し、保護措置を研究開発、経営、人員及びデータの管理の各重要プロセスに確実に落とし込むことで、企業の中核的な競争力とイノベーションの成果を効果的に守っていく必要があります。
以上
*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。
