第634回 見せ金による会社設立登記の罪

台湾で会社を設立する人にとって、資本金を実際に払い込まず、借り入れた資金を一時的に口座に入金して登記後に引き出す「見せ金」は身近なリスクです。

今回は、見せ金による会社設立が罪に問われた地方裁判所の裁判例を紹介し、留意すべき点を説明します。

見せ金による設立

典型的な事案は、会社の設立にあたり代表者が資金を借り入れて会社の口座に入金し、会計士の資本金確認報告書を得て、出資金が払い込まれたとして設立登記を申請するが、登記の前後で、その資金を借入金返済のためすぐ引き出すというものです。

台湾会社法第9条第1項では、株主が実際に払い込まないのに申請書類で払込み済みと表示する行為を処罰するとしており、これに当たります。

実際の払い込みの有無

判断の分かれ目は、申請の時点で株主が実際に出資金を払い込んでいたかです。借り入れて口座に入金した資金を確認の直後に引き出せば、実際には払い込んでいないのと変わりません。

資金が自己資金か借入れによるものかは問われず、また借入金を口座に何日間入れておいたかという期間の長短にかかわらず、虚偽の申請をした時点で犯罪は成立します。

通らない弁解

「会社は今も正常に営業している」「この資金で不正な利益は得ていない」「会計士の助言に従っただけだ」といった弁解は、通用し難いのが実情です。この罪は会社の資本充実と取引の安全を守るためのもので、その後の営業や利益の有無とは関係なく成立するからです。会計帳簿の虚偽記載や公務員への虚偽申請も伴うことから、最も重い会社法違反として処断され、5年以下の懲役、または50万台湾元以上250万元以下の罰金が科され得ます。

台湾で会社を設立する在台日本人が留意すべき点は、資本金は形式ではなく実際に払い込む必要があること、また、たとえ会社が順調でも、会計士に勧められたとしても、見せ金は処罰の対象となり得るということです。

資本金を実際に用意し、確認の直後に引き出さないこと、そして疑問があれば専門家へ相談することが、代表者個人の刑事責任と会社の登記リスクの回避につながります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。