第9回 フィリピンにおける外国判決の執行

皆さん、こんにちは。Poblacionです。今回は、フィリピンにおける外国判決の執行についてお話します。

ある日本企業が、日本の裁判所でフィリピン企業と争い、有利な判決を得たとしましょう。そのフィリピン企業が自主的に判決に従おうとしない場合、又は差押えの対象となり得る財産を日本国内に所有していない場合、その日本企業は、フィリピン国内で判決の執行ができるでしょうか?

残念ながらフィリピンは、外国判決の承認を加盟国に義務付けるような条約には加盟していません(ただし、フィリピンは、外国仲裁判断の承認及び執行に関するニューヨーク条約には加盟しており、フィリピンにおける外国仲裁判断の執行には特別な規則が適用されます)。そのため、日本の裁判所が下した判決にはフィリピン国内における直接的即時効果がないため、上記例の場合でも、日本の判決を執行するには、まず、フィリピンの裁判所に判決の承認及び執行を求める申立を正式に行わなければなりません。

判決の承認及び執行を求める申立は、原告又は被告の居住地の地方裁判所に提起します。申立に必要な手数料はそれほど高額ではありません。

申立を提出しても、両当事者がフィリピンの裁判所で同じ問題について再度訴訟で争うということではありません。外国判決の承認及び執行を求める申立は、原則として、外国判決の存在及び有効性のみを扱うものであり、そこに内在する事実について扱うものではありません。そのため、フィリピンの裁判所に提示すべきもっとも重要な証拠は外国判決そのものとなります。

外国判決が裁判所に認められるには、手続上以下の要件を満たす必要があります。

  • 外国判決が公告又は記録の法的管理権を有する役人が証明した真正な謄本であること。
  • 外国判決の証明をする役人が、公告又は記録の法的管理権を有する役人であるという証明書が添付されていること。当該証明書は、判決が下された国に駐在しているフィリピンの外交官又は領事館官吏が作成したものであること。
  • 外国判決が、公用語以外の言語(日本語等)で作成されている場合、英語又はフィリピン語の翻訳が添付されていること。現実的に可能な範囲で、当該翻訳が (a) 外国語と英語の両言語の能力を有する公式翻訳者又は法廷通訳によって作成されていること、(b) 外国判決の正確な翻訳である旨宣誓されていること、及び (c) 外国判決の真正かつ忠実な翻訳であることが両当事者間で合意されていること。

また、フィリピンの裁判所が申立の認否にあたり考慮する内容には、以下が含まれます。

(a)外国判決の有効性及び終局性

(b)礼譲、すなわち、判決を下した外国がフィリピンの判決の承認及び執行も認めているかどうか

(c)外国判決の執行が求められている国の公序良俗に反しないかどうか

(d)外国法及びフィリピン法の両方に基づき適用される所定の期間内に申立が行われたかどうか

フィリピンの裁判所規則に基づき、対物に関する外国判決は、当該物の所有権に関する判決が最終的なものとなります。例えば、日本国内の特定の土地区画の所有権を確定した日本の裁判所判決は、当該不動産に関する最終的な判決となり、判決債務者がその判決を覆すことはもはやできません。一方、金銭的請求を認めた判決等、対人の外国判決の場合、当該判決は、両当事者及びその権利の承継人らの間において、権利の推定証拠となります。その場合、外国判決に異議を唱える当事者が、判決の有効性に関する推定を覆す立証責任を負います。
他方、外国判決が「対物」であるか「対人」であるかにかかわらず、判決の実質的部分と直接関係のない理由にのみ基づき、フィリピンの裁判所で外国判決が認められない場合があります。外国判決が認められない理由は以下の通りです。

(a)管轄権又は当事者への通知の欠如

(b)馴合

(c)詐欺

(d)事実問題又は法律問題の明らかな誤り

フィリピンの裁判所が外国判決で認められた内容の拡大、制限、及び修正はできませんが、利子の支払が外国判決で要求されているか否かにかかわらず、外国通貨での支払いを命じられた判決における支払金額をフィリピン通貨に換算することを命令したり、原判決の金額に利子を課したりすることができます。さらに、状況により正当な理由がある場合には、裁判所費用及び弁護士費用の支払を命じることもできます。

申立がフィリピンの裁判所に認められると、フィリピンの判決がフィリピンで執行されるのと同様に、外国判決の執行ができます。つまり、前述の例で言うと、日本企業は、外国判決の執行にあたって裁判所執行官の支援を要請することができるようになります。また、判決債務者の銀行口座及び動産の差押え命令、又は外国判決の対象物である特定財産の日本企業への譲渡命令を申し立てることもできるようになります。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。