第64回 セクハラ行為はダメです!

皆さん、こんにちは。Poblacionです。フィリピン人は、とてもフレンドリーで温かく人を受け入れる国民です。あなたが新入社員ともなれば、間違いなく特別な注目を浴びることになるでしょう。フィリピン人の従業員は、常にあなたのことを気にかけ、あなたの仕事を手伝ってくれたり、あなたに昼食や夕食をご馳走してくれたりもするでしょう。でも、フレンドリーだからと言って、あなたに気があるというわけではないので、誤解はしないでください。性的な含みをもった不適切な行動をとると、頬をぴしゃりと叩かれるだけでは済まされず、セクシャル・ハラスメントの罪に問われることにもなりかねません。今回はフィリピンにおけるセクシャル・ハラスメントについてお話しましょう。

共和国法第7877号(いわゆるセクシュアル・ハラスメント禁止法)は、仕事、教育又は訓練に関連するセクシャル・ハラスメント行為を禁止し、このような行為に罰則を与えるフィリピンの法律です。この法律には、セクシャル・ハラスメント行為防止に関する雇用者の義務も具体的に記載されています。

セクシャル・ハラスメントとは?

法律上、ある者が他者に対して有する権限、影響力又は道徳上の支配的立場を利用して、その他者に性的行為への同意を要求したり強要したりすると、セクシャル・ハラスメント行為をしたということになります。セクシャル・ハラスメントは様々な形で表れます。身体的な場合(邪まな気持ちで触る行為や猥褻な意味のある身ぶり等)や、言葉による場合(ひどく不快な性的ジョークや下品な誘い等)や、性的要素のある物、画像又はメモを使用する場合(女性の部下にヌード写真を見せる等)もあります。性的行為への同意の要求や強要とは、口頭又は書面ではっきり表現されたもの(たとえば、「キスしろ!」とか「ハグしてくれたら昇進させてやる」等と言うこと)とは限りません。性的行為への同意の要求や強要は、大抵の場合、その行為をする者が行動で示すものです(邪まな気持ちで触ったり、被害者の首や耳に沿って指を走らせたり、性的な含みをもたせた不適切な会話をする等)。また、被害者が、性的行為への同意の要求や強要を受け入れたか否かは関係ありません。

セクシャル・ハラスメントは被害者に対して優位となる権限を有する者か、道徳上支配的立場にある者によって行われるものに限られます。したがって、同僚間でのハラスメントや、部下が上司に対して行うハラスメントは、法律上、セクシャル・ハラスメントとはみなされません。また、セクシャル・ハラスメントは、ある性別に特有のものではありません。性別にかかわらず、男性でも女性でも、セクシャル・ハラスメントの罪に問われる可能性があります。つまり、女性の上司が男性の部下(女性の部下でも!)に対してセクシャル・ハラスメントを行なった責任に問われる可能性もあるということです。

仕事上の環境では、以下の場合セクシャル・ハラスメントとみなされます。

1. 従業員の採用もしくは雇用延長、又は恵まれた職場環境の提供の条件として、性的行為への同意を要求した、あるいは、性的行為の同意を拒絶すれば従業員に不利な影響が及ぶという状況であり、

2. 行為者による行為が、従業員の法律上の権利を侵害しており、かつ

3. 行為者による行為が、従業員にとって脅威的、敵対的又は攻撃的環境を作るものである場合

セクシャル・ハラスメントとみなされた場合

フィリピンにおいてセクシャル・ハラスメントは、民事と刑事の両方における犯罪行為です。被害者は、加害者に対して民事訴訟を提起することができます。被害者の訴えが認められると、加害者は、金銭的損害賠償の支払責任を負わされます。被害者は、加害者を刑事告訴することもできます。有罪と判断された場合、加害者は、1ヶ月から6ヶ月の懲役及び/又は10,000ペソから20,000ペソの罰金を科されることになります。

上記とは別に、職場におけるセクシャル・ハラスメントは、重大な不正行為とみなされ、解雇の正当な理由となります。実際、何件もの訴訟において、部下に対し不適切な性的行為を要求、強要したことを理由に、(公的機関と民間組織両方の)様々な従業員の解雇が確認されています。

雇用者の義務

雇用者には、セクシャル・ハラスメントを防止するという法律上の明示的義務があります。よって、フィリピンでは、多くの雇用者が定期的に従業員向けの性別配慮研修やセクシャル・ハラスメントセミナーを実施しています。雇用者は、情報の普及に加え、職場に適切な形式の規則及び規律の他、セクシャル・ハラスメント事件の調査及びセクシャル・ハラスメントに対して課される制裁の手順についても、制定しなければなりません。従業員マニュアルには、セクシャル・ハラスメント禁止規則が盛り込まれているのが通常です。

従業員からセクシャル・ハラスメントの訴えが提起された場合、雇用者には、法律上、経営陣、組合(もしあれば)、一般従業員及び管理職従業員のそれぞれから少なくとも各1名が代表者として加わる礼節調査委員会を設立する義務があります。通常、社内弁護士も調査に参加するよう要請されます。

セクシャル・ハラスメントの訴えには、雇用者の迅速な対応が要求されます。セクシャル・ハラスメントの事例を単に無視したり、見て見ぬふりをしたりしてはいけません。雇用者が、セクシャル・ハラスメントの事例を知らされたにもかかわらず、直ちに措置を講じない場合、法律に基づき、加害者と連帯で損害賠償責任を負わされる可能性がありますのでご注意下さい。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。